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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第14章 マリオネットは糸切れてーMechanical Dystopiaー
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第182話 知恵と力と(1)

 

「ルー、ザ……?」


 自分達の窮地きゅうちを救ってくれたその人物を前にして、私……ルージュは驚きのあまり、緊迫した状況に似合わない呆けた声を漏らした。

 会いたくてたまらなかった。別れた原因が原因なだけに、余計に不安だった。水鏡で無事は確認できていたとしても、直接その姿を視認するまでは心配だった。私の親友であって、相棒とも呼んでくれた、大切な双子の妹でもあるその存在を。


 幻なんじゃないか……再会が突然叶ったことにそんな疑いが一瞬生じてしまうけれど、私に向けられた笑みと声がルーザがそこにいることを確かに証明していた。


「……突然走って何処行くのかと思ってたら、そういうことか。双子のシンパシーってやつかなぁ?」


「ああっ! 良かった、全員無事だったのね!」


「オスク、みんな……!」


 ルーザの後を追いかけてきたのか、他のみんなも次々と集まってくる。オスクにカーミラさん、エメラとフリード……ルーザと一緒に離れ離れになっていた私達の保護者や友達が。これでようやく8人全員が揃ったことに、横にいるイアとドラクもその顔を喜びで綻ばせていた。


「ねえ、ルージュ。会話内容からキミが望んでた仲間との再会が叶ったことはすぐ分かるし、それは喜ばしいことだと思う。だけど、今はとにかく敵に囲まれているこの状況をなんとかしないと」


「……っ!」


 イオにそれを指摘されて、私はハッとする。

 そうだ……ルーザ達と会えた喜びで忘れかけていたけど、私達は今大量の敵に囲まれている状態。いくら味方が増えたとはいっても、その差は歴然。ピンチなことには変わらない。

 でも、戦力は倍になったんだ。私達3人だけでは出来なかったことでも、今なら可能になるしれない。ここにはイオを含めて、頼もしい仲間が8人もいる。力を合わせればきっと突破出来る筈……!


「お、おい、ルージュ。そいつって機械の……!」


「あ、ええと……説明すると長くなるんだけど、とりあえず私達の味方だから安心して!」


「とにかく、話は後だ! まずはこいつらを片付けるぞ!」


「そ、そうね!」


 お互いにこれまで何があったかを確認したいところだけど、アンドロイド達の撃退が優先だ。イアの声に合わせて、私達はそれぞれ武器を構える。そうしてすぐそこまで迫っていた敵に向かって、銃弾や斬撃を浴びせた。

 けれど、やはり敵の数はすごいものだった。今の攻撃で3、4体は後退させられたというのに、そこを補うかのようにして後方で控えていた次の敵が向かってくる。


「チッ、状況は相変わらずか……!」


「ど、どういうことだよ?」


「こいつらよっぽど僕らをこの先に行かせたくないみたいでさ。どっから湧いてきてんのか、倒しても倒してもキリがない。ルーザがお前らを発見する前から、こっちは終わりの見えない数の暴力ってのをたっぷり味わわされてたってわけ」


「うん。だからここにいる敵全部、同時に倒すでもしないとまたすぐに次の敵が来ちゃうの」


「そう、だったんだ」


 アンドロイド達の攻撃を相殺しつつ、オスクとエメラから私達と合流する直前にあったことを説明してもらったことで、戦況は厳しいものだということを再認識する。

 ここにいるおびただしい数のアンドロイドを全て、しかも同時に倒す……そんなの、どう考えたって無理だ。それが出来たら苦労はしない。だからこそルーザ達も、終わりの見えないこの戦いにうんざりしているのだろうから。


「ああ、普通に考えれば無理難題もいいとこだ。オレら5人だけじゃ不可能だった。だからお前ら3人の力が必要なんだ」


「僕達の力を?」


「お前らだってここに上ってくるまでに、この人形どもと戦ったことがあった筈だ。オレらが知らないあいつらの情報だって掴んでるかもしれないだろ? 何せ、そっちはどういうわけかその人形を仲間として引き連れてんだし」


「あはは、確かにこの状況下ではボクの存在は異質で不審に思えてしまうよね。経緯は後で必ず説明するから、今は保留にしてもらえないかな?」


「フン、まあいいけどさ。とにかく、馬鹿正直に正面からぶつかってるんじゃいつかこっちのスタミナが切れて、この数の暴力に押し負けるのがオチだ。そこでルージュ、お前の出番ってわけ」


「わ、私?」


「ここを突破できるとしたら、お前お得意の型にはまらない戦術しかないっしょ。ここまで来るのに得た知識と、僕らという戦力を組み合わせて、お前はどうやってこの場を切り抜ける?」


「……!」


 突然指名されたことにびっくりはしたけれど、それ以上に嬉しさがあった。ルーザが、オスクが、私のことを頼ってくれているという事実に。私ならばこの不利な状況を好転させられると、期待してくれていることに。


 ……辺りを見据え、思考を巡らせる。

 アンドロイドの弱点は雷、それはこれまでの戦いから判明している。でも、流石のドラクもここにいるアンドロイド全てに同時に魔法を当てるなんてことは不可能。

 でも、オスクはここを突破するものの鍵としてもう一つ、仲間という戦力を挙げた。みんなが使う魔法と組み合わせて、ドラクの雷をこの空間全体に行き渡らせる方法が何かある筈。

 やれるとしたら……そうだ!


「フリード、雪を降らせて! なるべく広く、限界まで範囲を広げて!」


「は、はい!」


「ルーザも、炎系の使えたよね⁉︎」


「あ、ああ」


「なら、フリードの雪を溶かすのを手伝ってほしいの! イアもお願い!」


「おう! よっしゃ、やってやるぜ!」


「いきますよ、『アイシクルホワイト』!」


 指示通り、早速フリードが手にした槍を天に向かって掲げ、雪雲を生み出した。それも今までに見たことないくらいに、大きく分厚いものを。雲はこの階の天井を覆い尽くすように広がっていき……やがてそこから綿のように柔らかで真っ白な雪がチラチラと舞い落ちてくる。

 それを確認してすぐにルーザとイアは武器を振り上げ、私もその雪に向かって手をかざす。


「『ヘルフィアンマ』!」


「『イグニートフレア』ッ!」


「『ラデン』!」


 3人一緒に炎を放ち、フリードの雪を溶かしていく。炙られた雪はたちまちその姿を水に変えて、床をビシャビシャに濡らしていった。

 これで下準備は完了。次は……


「みんな、飛んでッ!」


 全員に指示を飛ばし、それぞれ翼や魔力を駆使して飛び上がる。飛行手段を持たないイオだけは、そばにいたイアが腕に抱え込んで。


「ドラク、今っ! 持てる限りの力を下に向かって叩き込んで!」


「……っ! そ、そうか!」


 ドラクも、私の作戦を理解してくれたようだ。

 そう、やることは至ってシンプルだった。ドラク一人だけの力では、正面の敵だけに魔法を当てるのが精一杯。でも電気は伝い、流れるもの。ならばその導線となるものを、私達が使える力で生み出してしまえばいい。

 そして水という導線が生み出された今、あとは仕上げとしてドラクに最大の一撃を叩き込んでもらうだけ……!


「『トールハンマー』!」


 ドラクの手から天誅の如く放たれる雷撃。それは狙い通り床一面を覆う水を伝っていき、この階にいるアンドロイドは一体残らず感電した。

 でも、まだ倒すまでには至らない。今までの戦いでも、ドラクの魔法を命中させたのみでは機能停止しなかった。あともう一撃、私達の中でこの数をまとめて相手できるとしたら……それはもう、一人しかいない。


「オスク、トドメお願い!」


「ふーん、ここで出番ってわけ。悪くないじゃん。じゃあ遠慮なく美味しいところいただくとしますかね……!」


 その瞬間、魔力を一気にたぎらせるオスク。それによって周囲を包む暗闇が静かに、それでもはっきりと揺らいでその濃さを増した気がした。


「ワールド・バインド、」


 オスクは腕を振り上げ、詠唱を開始する。途端に、この空間全体に張り巡らされたのは無数の鎖。感電してまだ動けないでいるアンドロイド達に逃れる術はなく、もれなく全員それに絡め取られる。

 そして────


「バニッシュ!」


 その声と共に、今まで開かれていた手を握りしめて。それを合図に鎖は一斉に弾け飛び、それに縛り付けられていたアンドロイド達もまとめて吹っ飛ばされ……やがて倒れ伏して、辺りは静寂せいじゃくに包まれた。

 この静けさが意味するもの、それは私の作戦が成功したことに他ならない。


「……はっ、」


 それを認識した直後、私は息を吐き出してその場にへたり込む。

 咄嗟に実行したとはいえ、成功するまで一瞬たりとも安心できなかった。上手くいくか不安でたまらなかった。今まで気を張っていたために、こうして狙い通り事が運んだことを確認してホッとして……全てが解決できた訳じゃないと分かっていても、へなへなと力が抜けてしまった。


「この場で最も活かせる力を選択して、それを最大限に活用して乗り越える……か。間違いなくお前は、オレが知る『ルージュ』だな」


「あっ……ルーザ」


 そんな私を、労うかのように背をポンポンと優しく叩くルーザ。その手は自分はここにいると主張するかのように温かいもので。


「全くもってお前らしいったらありゃしない。……やっぱお前は、オレの自慢の姉だよ」


「えへへ……」


 真っ直ぐに褒められて、思わず笑みがこぼれる。飾り気のない言葉だからこそ、それが心からのものだということがすぐに分かるから。

 ようやく、いつものメンバーが集まった。そのことを今やっと実感出来た気がした。

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