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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第2章 影の輪唱
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第17話 幻想の氷河山・中(3)


 ドラゴンの背に跨りながら、氷河山の頂上をひたすら目指していく。

 ドラゴンの身体が巨大なこともあり、風圧が半端ない。全員、オスクが乗る前に作った魔力の鎖でドラゴンと身体を縛り付けて、なんとか体勢を維持している。


「ぐうっ……!」


「ふ、吹き飛ばされそう……!」


「アーッハッハッハッ! こいつは爽快! もっともっと飛ばせ!」


 一人だけご機嫌なオスクの言葉に応えるようにして、ドラゴンは雄叫びを上げてスピードをさらに速めていく。

 だが、一気に上昇はせずに、山の側面をつたいながら徐々に高度を上げている。これはすぐに頂上に向かって飛ぶと身体への負担が大きくなることを避けるためだろう。ドラゴンはスピードを上げる中でも、オレらをちゃんと気遣ってくれていた。


 オスクが言ってることは、一見すると単に面白がっている無茶のように聞こえるが、実際それで正解だったかもしれない。何故かといえば、ドラゴンが飛んでいるところから破壊したものとは別の巨大つららが撃ち落としてくるかのように出現してくるためだ。つららが出現する度、その拍子に飛び散った氷の欠けらがオレらに容赦なく降り注いできた。

 もっとも、ドラゴンの飛ぶスピードはそれに余裕で勝るために通り抜けた後に出てくるように見えているため、つらら自体がオレらに直撃することはないのだが。


「おい、堅物。そんなに上に来させたくないわけ?」


『追い返しはしないと言っただろう。私の意思ではない』


「はあ……⁉︎ だったら他に誰がやっているってんだよ!」


『私の元にある霧を強めた元凶の仕業だ。抑えてはいるが、どこからか漏れ出したか』


 元凶……やはり異変は大精霊の力とは全く別のものだったということか。

 それが霧を強めたり、オレらの妨害をしたりしているようだが、一体なんのために……。オレらへの妨害は単に頂上に来させたくないためだろうが、どうして妖精達を霧を使って弱らせる必要があるのか。

 その元凶とやらが、一体何の目的でそんなことをするのか。大精霊でさえ隙を突かれてしまうその相手、思った以上に敵は強大なのかもしれない……。


『頂上に着ける保証はせんが、私は一切の妨害も加えんと約束する。己の力を使い、ここまで登ってくるといい』


「んー? その言いようだと、僕達がお前の元に乗り込んでもいいって聞こえるんだけど」


『……止むを得まい。私にも大精霊としてのプライドはあるが、この状況下でそれはつまらんこと。私一人では打破出来ぬことは確かなのだからな』


「あっそ。ようやく折れたってわけ。ま、お前がどう言おうがそのつもりだったけど」


「お前こそ、さっきまでお手上げとか言ってたじゃないか」


「僕一人なら別にどうってことなかったってだけ。ここの構造は把握してるからそこまで転移することだって出来たけど、お前らはそうもいかないっしょ?」


 オレはまあそうか、と口ごもる。

 転移術、つまりテレポートを使えるのは自分が知っている場所だけ。移動したい場所の景色を事細かに想像しなければ、呪文を覚えていたとしても術は発動しないからだ。

 案内妖精でこの山を知り尽くしているドラクなら可能だろうが、他のオレらはそうもいかない。やはりあのつららを破壊する必要があったというわけだ。


「ま、なんとかなりそうなんだから、この話はもういいじゃん。目的はこの異変の元凶突き止めてそれを潰すこと、だろ?」


「……ああ。そうだな」


「今はとにかく頂上を目指すことだけ考えよう。これ以上事態が悪化する前に止めなきゃ!」


 オレらはルージュの言葉に頷く。元々霧を止めるために来たんだ、その元凶がどう足止めしてこようが関係ない、意地でも頂上に辿り着いてみせる……!

 そのオレらの意思が伝わったのか、ドラゴンは翼をさらに大きく羽ばたかせてスピードを上げる。

 元凶はスピードでは追いつけないと思ったのか、行く手を先回りしてつららを出現させてくるが流石はドラゴンの火力。再びブレスを吐き出し、つららを粉々に破壊してしまった。


 このまま行ければ頂上まで行ける……そう思った時、ドラクが突如として「ちょっと待って!」と、声を上げた。


「ルージュさん、この先に他とは比べ物にならないくらいの分厚い氷の壁があったはずだよ」


「えっ。そ、そんなに分厚いの?」


「今まで壊す奴もいなかったからな。年代モノなうえにドラゴンのブレスで壊せるか、っていったら確証はないだろうよ」


 ドラクの言葉にオスクがそう付け足した。オスクも大精霊同士で関係があった故か、その巨大な氷のことは覚えていたらしい。

 そうだとすると迂回した方が賢いだろうが……。


「だが、その壁はかなりの大きさだからな。迂回すれば一旦高度を下げなきゃいけなくなるし、遠回りだ。時間も食うし、魔法具がそれまで持つかだけど」


「……」


 ルージュは黙り込んで少し下を向いた。

 考え込んでいるみたいだ。確かに、魔法具の魔力にも限りはあるし、氷河山みたいな場所じゃ消耗が激しいはずだ。上に着く前に効果が切れれば、氷漬けになる可能性だってありえる。

 迂回した方が確実だ。だが同時に、命に関わるというリスクが伴うんだ。


「ドラゴン……その……」


「グゥゥ……」


 ルージュは申し訳なさそうにドラゴンを見てそう漏らした。

 ドラゴンは首をルージュに向けて、その目を見つめる。そして……やがて決心したように頷いて見せた。


「……え、いいの?」


「グルゥン!」


「おい、なんだって?」


「やってくれるって。全力のブレスをぶつけて壊してみるみたい」


 ……そうか。確かにこいつのブレスの威力は普通の時でも相当だ。それが全力でやるんなら可能性は充分にある、それなら……ドラゴンに託すべきかもしれない。


「ドラゴンにも、ドラゴンなりのプライドがあるみたい。逃げるのは性に合わないって」


「ふーん。いい根性してるじゃねえか。そうと決まれば、突っ込むだけだな」


 言うが早いか、ドラゴンは既に氷の壁の場所まで向かっていた。

 二人の話の通り、分厚い氷の壁が行く手を遮るように立ち塞がっている。厚すぎて、透明な氷のはずでも向こう側が見えない。


 さて……後はドラゴン次第だ。

 ドラゴンは口元に炎を溜めてブレスの準備をしている。それだけでもかなりの熱で、こんなでかい氷の壁を前にしても、それが伝わってきた。それだけドラゴンも本気なのだろう。


 そしてドラゴンが目一杯炎を集めた後……壁に向かって口を大きく開き。そして……さっきとは比べ物にならないくらいの巨大な炎を吐き出した!

 強大な爆発音と氷が溶けた蒸気が辺りを覆い尽くして、壁を壊した衝撃がオレらを襲う。


「うわっ……!」


 オレらはドラゴンの身体にしがみつき、なんとかその衝撃に堪える……が。


「あっ……!」


 なんと、一番前にいたルージュの鎖が衝撃に耐えきれずにブツンと切れ、バランスを崩したルージュは宙に投げ出されそうになった!

 オレらの身体は鎖で固定されていたからこの体勢を保てていた。つまり、その支えがなくなったということは空中に放り出されることを意味していて……。


「やっば⁉︎」


「ルージュ……‼︎」


 オスクとオレの声が重なる。

 オレは反射的に手を伸ばして、ルージュの腕を掴もうとしていた。

 ルージュの手がどんどん離れていく。オレは必死に身を乗り出すが、オレの指先しかルージュの手に触れることすら出来ない。


 まずいっ、とどか、な────


 ……一瞬のことだが、その光景はスローモーションに見えた。いきなりの衝撃に理解が追いつかず、頭がくらっとして視界が歪んでいく。

 ────そのせいか、ルージュの姿が一瞬、別のものに重なって見えた。


 妖精じゃない、精霊のような人間体の姿。だけど、どこと無くルージュに雰囲気が似てるようで……

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