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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第14章 マリオネットは糸切れてーMechanical Dystopiaー
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第179話 二つの刃を携えて(1)

 

 倉庫を脱出したオレらは、上の階層へと進める手段を探すべく歩き回っていた。もちろん、ここでも敵に見つからないようこそこそと。

 現在、オレらは武器を持ち合わせていない丸腰の状態。魔法も使えないことはないのだが、媒体が無いと威力は格段に落ちる。こんな敵陣のど真ん中で、敵に取り囲まれでもしたら無事に切り抜けられる自信はない。

 ルージュ達と合流する前にくたばっては元も子もない。武器か、何か代わりになるものを手に入れるまでは職員に見つからないよう進んで行くしかないんだ。


「……うん、この通路に敵は見当たらないわね。進んでも大丈夫よ」


「悪いな、助かる」


「いいのよ。あたしの体質が助けになるならいくらでも力になるわ」


 さっきの倉庫の探索と同様に、ここでも敵に視認されない特性を生かしてカーミラに先頭を引き受けてもらっていた。

 先に道の安全を確かめてもらっているおかげで、今のところ敵との遭遇も無し。実際に見て確認してもらうことで安心感ももたらしてくれて、スムーズとはいかないが今のところ順調に前へと進んでいけていた。

 地図も活用できればしたかったのだが……タワー内部に入った途端、砂嵐がより一層酷くなってしまい、最早使い物にならなかった。そうなってしまえばもうただのお荷物同然。仕方なく手放すことにした。


「コソコソしちゃってじれったいなぁ。僕としては敵に見つかってもいいから、さっさと進んじゃいたいところなんだけど」


「そういうわけにもいかないだろ。お前は武器無しのハンデなんかものともしないかもしれないが、オレらはそうはいかないんだよ。大体、正面から突っ込んで騒ぎ起こせば、それこそ進みにくくなるだろうが」


「ハイハイ、分かってるって。僕だってそれくらい(わきま)えているさ」


「でも、やはり武器は欲しいですね。対抗手段が無い状態では、万が一敵と遭遇した時が心配です」


「だよね。今はカーミラさんのおかげでなんとかなってるけど、これから先、敵と遭遇しちゃった時に戦おうにもいきなりピンチなんてかなり危なくない? 怪我しちゃっても杖が無いとわたしの治癒魔法も効果があまり出ないし」


「……ああ」


 フリードもエメラも、武器が無いことに不安を感じていた。そして、それはオレも同じ。今は敵に捕まらずに済んでいるが、カーミラ以外の容姿や性別は既に掴まれているなど、鉢合わせする確率は決してゼロじゃない。武器が無いと魔法の威力も充分に発揮できないし……いざという時のために、やはり武器を手に入れたいところだ。

 くそっ、こんなことならあの荒地で棒切れの一つでも拾ってくれば良かったな……。


「うーん、でもここってこの都市の心臓部でしょ? あんな大きな倉庫があるくらいだし、武器を貯蔵している場所もないかしら」


「あ、そうですね。有り得なくはないんじゃないでしょうか。さっきの、ここの職員に警戒を促す声にも戦闘員という言葉がありましたし、それらが使用する武器を保管する部屋もどこかにありそうです」


「なら、上に昇る手段と一緒に、武器が保管されてる部屋も探して回るか」


「武器はともかく、肝心の上に昇る手段が乗り物の類しか残されてなければいいけどなぁ?」


「うるせーな……。こっちは船旅と、オーブランの騎乗と、さっきの乗り物とで大分きてるんだよ。意識してるだけでも気分悪くなってくるんだから、いうんじゃねえよ」


「そ、そういえばルーザの身体のへ負担、考えて無かったわね……。大丈夫なの?」


「……今のところは、な」


 オスクのからかいに文句を言いつつ、オレの体質のことを知ってるカーミラにそう返した。

 実を言うと、ちょっと油断すれば吐きそうなくらいにギリギリなんだが……。手持ちの薬も多少残っているとはいえ、この先乗り物に乗るようなことにならないことを願うしかない。

 事情を知らないフリードとエメラだけは、不思議そうに首を傾げていたが。


「……って、やばっ。足音が近づいてきてる!」


「す、すぐにここから立ち去りましょう!」


 話している内に、敵がすぐそこまで迫っていたらしい。フリードの言葉に全員が頷き、オレらは素早くこの場から移動する。

 流石にお喋りしすぎたか。ここはオレらにとって敵の本拠地も同然。一分一秒も油断ならない。騒いでいると見つかる可能性を高めてしまうし、会話も最小限に止めるように心がけておかなければ。


 そう心に留めながら、タワー内の探索を再開する。見つかりこそしないが、大体の居場所はもう悟られているせいで巡回している敵とすれ違う回数も多く、たった一歩進むだけでもかなりヒヤヒヤさせられるのだが……武器を入手するまでの辛抱だ。

 そうしてまたカーミラの特性を頼りにさらに奥へと進んでいくと……


「……ん? この気配……」


 不意に、その途中で見つけた扉の前でオスクが足を止めた。


「おい、どうした?」


「……ちょっと気になってさ。ここ、入っておくぞ」


「それはいいけど、なんで?」


「僕の勘が、ここにはお前らが今一番求めてるものがあるって告げてるんだよ。それも、期待以上のものがさ」


「は? それって……」


 オレらが今一番求めているもの……それは武器しかない。敵への対抗手段さえあれば多少大胆に行動することも出来るようになるし、こうしてコソコソ身を隠して精神をすり減らす移動もする必要が無くなるのだから。だが、期待以上というのはどういうことなんだ?

 疑問はあるものの、突っ立ってても仕方ない。部屋の中を確認するくらいさっさと済ませてしまおうと、オレは早速ドアノブに手を掛けて扉を押し開ける。


「なっ……⁉︎」


 扉に隠されていた空間を目にした途端、思わず声が漏れる。

 視界に飛び込んできたのは、部屋の床いっぱいに散らばる金属の塊だった。それらのほとんどが鋭利に尖っていていて……その塊の正体が、武器であることはすぐに分かった。剣、槍、斧……様々な種類の武器が、部屋中に積み重なって山を形成していたんだ。

 しかも、驚くところはそれだけではなかった。


「……あっ! あたしの剣がある!」


「わたしの杖も!」


「僕の槍まで……。あの、もしかしてここにある武器って」


「……オレらみたいな、余所者から取り上げた武器だろうな。ここにある全て」


 オレの返事に、フリードはやっぱりそうかと言わんばかりに苦い顔をした。

 カルディアの都市に入る前……オレらは上層部の遣いを名乗る奴らに、カルディアでは都市内で許しを得ている者以外が街中で武器を振るうことを固く禁じているとか言われて、武器を没収されていたんだ。オレらの武器はそいつらの元で厳重に保管して、帰る時に返すという話だった筈だが……。


 ……オレは改めて、部屋いっぱいに乱雑に散らばった山のような武器を見据える。これはどう考えても厳重に保管してあるどころか、投げ捨てられているようにしか見えない。邪魔だと、そう払い除けられたかのように。

 この光景から導き出される答えは、たった一つ。


「チッ。あいつら、やっぱハナから返す気は無かったってことか……」


「だろうよ。ま、予想してたことではあるけどさ。来客だってのに随分とまあぞんざいに扱ってくれちゃって。武器取り上げたのも、対抗手段無くさせて取っ捕まえやすくするためなんじゃないの?」


「かもな……」


 確かに、オスクが言った通りどこかで返してくれないのではと思っていた。名目上はフェリアス王国の精霊王・ベアトリクスの遣いとしてカルディアには現地視察のために訪れているというのに、到着してすぐに余計なことはするなと釘を刺されるわ、このセントラルエリアには自力で向かうしかないわ、挙げ句の果てには狙撃されて撃墜されるわ……と、ここに来てから散々な目にばかり遭っていた。

 丁重に扱えとは言わないが、それにしたって対応が雑すぎる。何もしていないのに、最初から厄介者に見られているかのようだった。


 ……オレはおもむろに武器の山へと歩み寄り、その中から自分の鎌を探り当て、その柄を握りしめる。それと、近くに転がっていた(つば)が三日月の形をした細身の剣……持ち主の手から離れ、寂しげに佇んでいるルージュの得物も共に手に取る。その瞬間、その剣柄に結びつけられた包帯がふわりと揺れた。

 この包帯は忘れもしないあの事件……ルージュが狂気に呑まれた時に負った怪我を治療するべく、オレが巻いたものだった。それをまだ自分に自信があまり持てないからと、ルージュはお守りとして結びつけているんだ。

 そして、いつかこれに頼らなくても良くなった時に手放すと、オレと約束した証でもあるもの。ルージュの大事な心の支えとなっているものであった。


 口にこそ出さなかったが、それを取り上げられたことでルージュが不安そうな表情を浮かべていたのをオレはしっかり見ていた。そんな大事なものを奴らは取り上げ、投げ捨てていたなんて。


「……よし」


 オレは鎌を懐に収めるのと一緒に、ルージュの剣を腰に差した。こいつはオレがルージュに届けてやるべきだと、そう思って。

 仲間達も、各々の武器をしっかり取り戻せたようだ。もちろん、イアの斧とドラクの双剣も回収しておくのを忘れずに。


「ドラクの武器は僕が持っておきます。親友の持ち物は僕がちゃんと届けてあげたいですし」


「じゃあ、わたしはイアの斧持ってく。幼馴染だもん、ちょっと重いけどこれくらいしなきゃ」


「これで準備も万全っしょ。武器が戻ってきたなら、多少大胆に動いても問題無いだろうし。ようやく遠慮なく暴れられるんだ、今まで好き勝手(もてあそ)んでくれた礼をたっぷりしてやろうじゃん」


「ああ。きっちり落とし前つけさせてやる……!」


 取り戻したばかりの大剣をギラつかせるオスクに、オレは深く頷く。その言葉通り、散々ぞんざいに扱われてきたことにかなりご立腹なようだ。

 それはオレらも同じこと。それぞれの武器を握りしめてやってやろうと顔を見合わせて頷き合い、同時に前を向いた。


 そしてこれまでやられてきたことの仕返しをするべく────オレらは再び前へと進み始める。

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