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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第2章 影の輪唱
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第17話 幻想の氷河山・中(2)


「あ、思い出した! 廃坑で会ったドラゴンじゃない!」


「そうだ! 翼を怪我してたやつだな」


 エメラとイアも思い出したらしい。

 そう……このドラゴンは、光の世界でルビーを発見した洞窟に住んでいたドラゴンだ。なんで今の今まで忘れていたのか。この巨体を目の前にする迫力は最近目の当たりにしたばかりだというのに。


 だがドラゴンと、ドラゴンの事情を知っているルージュ達3人とオレ以外はまだ事情が分かっていないためにあたふたしている。落ち着かせるためにもオレらはすかさずドラクとフリード、オスクにドラゴンのことを説明する。


「……ということは敵じゃないんですね。よかったぁ……」


「でも廃坑なんて……一体何しに行ったの?」


「え! あ、うーん。細かいことは気にしないで!」


 エメラが誤魔化すと2人揃って不思議そうに首を傾げる。まさか小遣い稼ぎのために行ったなんて言えないからな……。

 こいつはドラゴンの中でもまだ穏やかな方だが、凶暴なやつだったら丸焦げは免れなかっただろう。それで、何故ルージュがこのドラゴンを呼び出せられたのか気掛かりだ。


「前にドラゴンから翼のお礼に、ってオーブを渡してくれたの。まさか最初がこんな形で使うとは思わなかったけど……」


「ああ、強い力を持つ魔物が相手を認めたら渡すってやつか」


「あっそ。まあこいつは火炎竜みたいだし、今の状況じゃうってつけだな」


「ああ。こいつの火力なら……!」


「うん。あれだけの威力があれば、あの氷柱だって壊せるはず!」


 ドラゴンのブレスの凄まじさは直接それを食らったオレらが一番よく分かっている。ドラゴンと戦った時にオレらがこの身で食らったブレスは、あの洞窟の広間全体すらも覆い尽くすほどの火炎の塊。あれが直撃すれば、巨大なつららだってひとたまりもないだろう。

 そうと決まれば使わない手はない。ルージュは早速ドラゴンに向き直った。


「最初が見慣れない場所でごめんね。先に進むために、あなたの力を借りたいの」


「グワゥ……」


 ドラゴンは唸りながらルージュを見据える。オレらの顔を一つ一つ確認していき……それが終わると、オレらがいる足場に近づいた。


「……っ、ありがとう!」


 ルージュは嬉しそうに笑う。ドラゴンの気持ちはオレらには分からないが、その反応で良い返事だとはすぐ理解出来た。

 オレとイア、エメラは顔を見合わせて笑う。


「ルージュ、やってくれるみたいだね!」


「うん、これで先に進めるよ」


「え。ルージュさん、ドラゴンの気持ちがわかったの⁉︎」


 その様子を見ていたドラクは驚き、フリードも同じ表情で頷いた。

 確かに、ルージュの能力は珍しいものだ。動植物に宿る妖精達なら出来るかもしれないが、オレらの近くでそれらしい妖精はいない。ルージュはそういった類の妖精ではないのに、どうしてそんなことが出来るのかは自分でもよく分からないようだが。

 ルージュがいうには不安定だから、確実に分かる訳じゃないらしい。それでも、この状況で突破口を見出せたのだから助かった。


「そいつが了承したんなら早いとこ行くぞ。火炎竜にとってもこの環境はいいと言えないだろ」


「そうだね。みんな、ドラゴンの背に乗って!」


 ルージュの合図で全員が一斉にドラゴンにまたがる。オレら全員で7人と大分大人数だが、流石のドラゴンの巨体、全員がまたがってもまだまだ余裕がある広さだ。

 そして……6人がドラゴンの背に身体を預け終わり、最後にオレ一人が残った。


「後はルーザさんだけだね」


「……悪い、その前に水を飲ませてくれ」


「こんなときに呑気なものだな、鬼畜妖精。さっきの威勢はどうした?」


「うるせーな。喉ぐらい渇くだろ」


 オスクのからかいを受け流して、ボトルを取り出した。

 ……水を飲む時、カバンに忍ばせておいた薬を同時に口に含ませながら。


 オレは他には言っていないが、どう言う訳か酔いやすく、ブランコ程度のものでもすぐに頭がクラクラしてきてしまう。だから酔い止めの薬が手放せなかった。体質のタチが悪く、薬を飲んだとしても気休めにしかならないのだが……何もしないよりはマシだ。


 オレは薬を飲み終わるとすぐにドラゴンの背に飛び乗った。全員が乗ったことを確認し、ドラゴンはその立派な翼を持ち上げて飛び立つ。

 そして目的のつららへと迫り、標的をしっかり見据えて。ドラゴンはその首を高く持ち上げて、口元に燃え盛る火炎を溜める。


「ドラゴン、お願い!」


 ルージュの声に応えるようにドラゴンは首を持ち上げる。そして……口を目一杯開き、業火の如き炎のブレスをつららに向かって吐いた!


 ドラゴンのブレスの威力は凄まじく、この氷に覆われた環境でさえ熱が感じる程にまで強いものだった。

 流石の巨体つららもこの炎には耐えきれない。熱が直撃したことによって蒸気を上げて、次の瞬間には道を覆う程の氷のバリケードを木っ端微塵に破壊していた。


「す、すげぇ……」


「あの時は怪我してて万全じゃなかったし、一緒に住んでる魔物を守ってたから加減してたんだろうけど、今の元気な状態で挑んでたら……」


「間違いなく消し炭になってたな」


 オレの言葉にエメラとイアは恐怖からぶるっと身を震わせる。ドラクとフリードもその場に居合わせはしなかったものの、心底ほっとしたような表情を浮かべていた。


「手合わせならいつでも相手する、とのことだけど」


「え⁉︎ え、え、遠慮します!」


「そ、そうだよ! オレたちより強いやつを相手にした方がいいって! 後ろの大精霊様とかどうだ⁉︎」


「おいこら、勝手になすり付けんな。そんな無駄なことしてやるかっての」


 さっきまでの不安そうな雰囲気が嘘のようにわいわいと騒がしくなった。その声は広いとはいえないこの登山道にぐわんぐわんと響く。

 いくらなんでも緊張感が無さすぎだろ……まあ、オレもその中に入ってしまっているのかもしれないが。


「えっと……そろそろ行こう? ドラゴンも困ってるし……」


 そんな時、騒いでいるオレらに対して困ったようにルージュが声をかける。ルージュのその言葉でようやく全員目的を思い出し、前を向いた。

 もう道を塞ぐものはない。オレらの進行を妨げるものも、行き先を妨害をするものも。これでもう、シルヴァートにだって文句を言わせない。


『……この状況に屈しないばかりか、獣と心を通わせるとは……。一体、何者だお前は? 普通の妖精とは思えん……』


「ただの妖精だよ。それしか言えない、それだけしか言いようがない。私はただここまで来ておいて、黙って引き返すのが嫌なだけだもの」


 再び聞こえてきた戸惑いを隠せないようなシルヴァートの声に、ルージュは当然のように返した。ルージュは嘘を言っていない、本心からその言葉を紡いでいる。

 もうこれ以上立ち止まっている理由はないと思ったのだろう。ルージュは前を向いて、意を決したように声を張り上げる。


「さあ……行くよ!」


 ルージュの声を合図に、ドラゴンは持ち上げていた翼をさらに大きく羽ばたかせる。

 一回、大きく羽ばたいて舞い上がったかと思うと次の瞬間に一気に直進し始めた。それまで進むことが叶わなかった氷の洞穴へ、いよいよ突き進んだ。

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