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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第14章 マリオネットは糸切れてーMechanical Dystopiaー
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第174話 マジェスティ・トラジェディ(1)

 

「くっ……!」


 アンドロイドが振り下ろしてきた刃を、手にした二つの銃で咄嗟に受け止める。

 戦闘に特化した個体なだけあって、制御室にいたアンドロイドとは比べものにならない重い一撃だった。受け止めたはいいものの、弾くこともままならずに私の身体はジリジリと後退していく。

 ……このままじゃ押し負ける。なんとかしてアンドロイドを引き剥がさなければ。でも私の腕力じゃ押し除けるのは難しい……なら!


「や、あっ!」


「……っ!」


 唐突に武器を持つ手の力を弱め、アンドロイドがよろけた隙にガラ空きになっていた腹部に蹴りを入れる。あまり深くは入ってないためにダメージは期待できないけれど、アンドロイドが避けるために後退したことで引き剥がすことには成功した。


「おい、ルージュ。大丈夫か!」


「う、うん。なんとか」


「ほっとしてる余裕はなさそうだよ。次が来る、構えて!」


「っ!」


 イオの言う通り、既に持ち直していたアンドロイド達は再び正面から突っ込んでくる。制御室にいた見張り役と同様に返り討ちにされるリスクにも臆することなく、私達の懐に飛び込んでくる。

 ……私達を倒すという命令を遂行することが第一で、自分の身は二の次らしい。心が痛まないといえば嘘になるけど、ここで迷っていては自分が倒れてしまうことになる。ここを突破して次なる目標であるルーザ達と合流するために、私は銃口を迫りくるアンドロイドに向けて引き金を引いた。


「当たれっ!」


 その瞬間、銃から『セインレイ』に似た光弾が撃ち出される。光弾はアンドロイドに向かって真っ直ぐ飛んでいき、額に命中。小さくもそれなりの威力があったらしいそれを額に受けたアンドロイドは少し仰け反り、一瞬だけど動きが止まった。

 銃の扱いは未経験だったために不安だったけど、実弾じゃないからか撃った時の反動も少ない。媒体こそ異なるけど、魔法を放つ感覚としては普段とあまり変わらなかった。

 魔力を弾丸として撃ち出されるということは、より多くの魔力を銃に込めれば強い弾も撃てるのかも。なら、


「『ルミナスレイ』!」


 アンドロイドがまだ体勢を戻せていない隙に、今度は詠唱しつつ撃ち込んでみる。すると、さっきよりも大きな弾がアンドロイドに直撃した。やはりどの魔法を使うかで放たれる弾も変化するようだ。

 どう使えばいいかなんとなく分かってきた。これならいける……!


「っしゃあ! やってやるぜ、『エルフレイム』!」


「『グロームレイ』!」


 もちろん、イアとドラクもやられるばかりじゃない。イアはアンドロイド達に向かって炎を纏わせたハンマーで殴りかかり、体勢を崩したところをすかさずドラクが雷を浴びせた。

 これで少しはダメージが入った筈。そう思っていたのだけど……アンドロイド達はなんともないようにいともあっさりと立ち上がった。


「……損傷、軽微。戦闘を継続します」


「げえっ、今の効いてねえのかよ⁉︎」


「僕の魔法も確かに当たった筈なのに……! イオ君、これは一体?」


「効いてないわけじゃない。けど、与えられたダメージが微量なんだ。装甲の硬さと、耐久性の高さ、弱点である電流にもある程度の耐性が備わっていることが主な要因だと思う。先の戦闘と同様の方法は通用しにくいということだ」


「それってつまり……ただ攻撃を当てるだけじゃ、時間がかかりすぎるってことか」


 その呟きに、イオも頷く。ダメージを蓄積させていけば勝てないことはないだろうけど、それでは駄目なんだ。

 まず体力もない機械相手じゃ、長期戦になればなるほどこっちが不利になる。アンドロイドは原動力である電気が尽きるまで戦い続けられるのに対して、私達のスタミナには限りがあるから、戦いが長引けばこっちが先に疲労で倒れてしまう。

 それにあまりもたもたしていると他の戦闘員も来てしまう可能性があるし、どうにかしてすぐにカタをつけなければならない。


「対象をロックオン。狙撃システムを展開……発射」


「わっ⁉︎」


 ただ斬りかかるだけでは倒せないと判断したのか、アンドロイド達は腕を銃のように変形させてエネルギー弾を放ってくる。しかもそれを四体全員で同時に撃ってくるものだから、みるみる内に弾幕が張られる形となり、退路を絶たれて後方に下がっているイオも被弾してしまう。


「くっそ、防戦一方ってやつじゃねえか! どうすんだ⁉︎」


「待って! 考えてるから!」


 武器を駆使して防御しつつ、考えを巡らせる。

 この状況を打破できる手段……私の使える手札の中でまだ未使用なのは絶命の力だけど、果たして機械に効くかどうか。それに、使い過ぎると裏の人格に乗っ取られてしまうリスクがあるから、乱発することは出来ない。力の加減をしっかり見極める必要がある。


「……っ、そうだ」


 絶命の力は使用する時に繋がりや流れを一本の線として可視化して、その線を掻き消すことで魔法を無効化している。力を使う対象へ向けて、虚空に指を滑らせて線を描くのはそのためだ。

 その線は繋がりや流れそのもの。アンドロイドも全身に電流を巡らせることで動かされている。力で直接アンドロイドの機能を停止させるのはかなりの力を使ってしまうだろうからできないけれど、目に意識を集中させて、その流れが集約する場所……心臓部を炙り出せさえすれば!


 ……今も浴びせられている光弾に耐えながら、意識を研ぎ澄ませる。ペンダントに封じられている力を引き出すイメージを思い描きながら、それを目に向かって集めていく。使いすぎることがないよう、左目は閉じて右目だけに集中させて。すると、あたかもスコープのようになった右目に映る景色に変化が見え始めた。

 アンドロイドの身体の表面に光の流れ……アンドロイドの生命線というべき電流が浮かび上がってくる。そして目に映る景色はさらにはっきりとしたものになっていき、私にある光景を見せてくる。電流は全身に枝分かれしながら巡り、やがてそれらは胸の丁度中心に集められているという光景が。


 ────見えた!


「貫けっ‼︎」


 それがわかってすぐ、私は二丁の銃をクロスさせながら同時に撃つ。私が放った弾は狙い通りの箇所に命中し、攻撃を受けたアンドロイドは大きく仰反ってガクリと体勢を崩した。


「うおっ! どうしたってんだ⁉︎」


「急に倒れ込んだけど……」


「多分だけど、急所に弾を当てたの! とにかくこれで隙はできたから今の内に攻撃を!」


「お、おう!」


 イアとドラクもアンドロイドの反応に驚いたようだけど、すぐに切り替えて反撃を開始する。私が残りの3体に同じように心臓部へ向けて弾を放ち、倒れ込んだところにイアがハンマーでダメージを与えていく。そして、


「『トールハンマー』!」


 トドメと言わんばかりに強力な雷撃を放つドラク。それを正面からモロに食らったアンドロイド達は今度こそ地に倒れ伏し、完全に動きを停止させた。


「か、勝った……!」


「一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなったね……」


「疲れているところ悪いんだけど、まだ安心できないよ。一刻も早くここから出た方がいい」


「……っ、そうだね」


 ここに長居しすぎてしまった。このアンドロイド達が、今いる武器保管庫に来たことが何よりの証明。武器を手に入れるという目的は達成したんだし、また追手に捕まるなんてことがないようにさっさとここを後にするべきだ。

 そうして私達は手に入れたばかりの武器を収め、イオを先頭にルーザ達がいるであろう上の階層を目指して早速行動を開始する。


「エレベーターは使いたくないとのことだから、今度は階段使うルートにしようか。またボクの後ろを付いて来てくれる?」


「うん、お願い」


「通る道は違うってのに、またこれの前通んなきゃいけないのかよ……」


 イアが嫌そうに顔をしかめるのも無理はない。さっきとルートこそ違うけれど、再び牢屋の前を横切らなければいけないために。見たくないなら目を逸らせばいいとはいっても、あまり近寄りたくないのが本音だ。

 でも、あのエレベーターとやらを使うよりはマシだ。早いとこ通り抜けてしまおうと、私達は注意を払いながら駆け出した。


 ……その道中で横目でチラッと様子を伺ってみたけれど、さっきと同様に牢屋の中には誰もいないようだった。もちろんこんなもの使われていない方が一番なのだけど、この階層を埋め尽くすくらいにあるものが一つも使われていないのは少し不自然にも思えてきてしまう。

 そんなことを考えている内に、視界の先にようやく階段を捉えられた。やっとここから抜け出せる、そう思って走るスピードを上げようとすると、


「なんだね……騒がしい」


「……っ⁉︎」


 突如聞こえてきた、酷くしわがれた声。まさかもう追手に見つかった……⁉︎ 私達は恐る恐る声が聞こえて方向へ振り返る。


 その声の正体、それは────

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