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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第14章 マリオネットは糸切れてーMechanical Dystopiaー
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第173話 光舞うバイオネッタ(3)

 

「ん、さっきと比べて静かになった気がするぜ」


「本当だ。僕達の他に足音が聞こえなくなったというか」


「イオの足止め、効いてるみたいだね」


 制御室を出てすぐに、占領した成果を実感していた。イオに警備システムを止めてもらう前は追手の足音が嫌というほど聞こえていたのだけど、今はそれがほとんど無くなっている。私達の侵入を知らせる警報もピタリと止んでいて、廊下はさっきとは見違えるほど静寂に包まれていた。


「でも、これは一時的なものだろうね。あまり時間をかけていると、制御室が占領されたこともバレてしまうと思うよ」


「鍵はかけたんじゃなかったかい? そりゃあ、いつかはバレると思うけど、それならしばらくは大丈夫なんじゃ」


「扉そのものを破壊されちゃそれも意味ないだろう? それに、レーザードリルとかで穴でも開けられたら、鍵なんてそもそも意味を成さなくなるからね」


「物理には弱いってか。あいつら命令果たすためならなんでもしそうだし、有り得なくねえのが怖えけどよ」


「そんなことを実行される前に武器を調達して、ルーザ達と合流しないとね」


 なら早く武器保管庫に行ってしまおうと、私達は進むスピードを上げた。警備システムを止めても戦闘員と鉢合わせる可能性は無くなったわけじゃない。そうならないように、さっきと同じく周囲に充分注意を払いつつ、コソコソと身を隠しながら進んでいく。

 それでも監視カメラで私達の居場所がバレてないために、戦闘員が接近してくる回数はぐっと減っている。一歩進む度にいちいちビクビクしなくて済むのは、気持ちにも大分余裕が持てる。さっきよりも短い時間で目的の場所へ移動できそうだ。


 そうしてイオの案内でさらに歩みを進めていく私達。しばらくして、イオはいかにも分厚そうな鉄の扉の前で足を止める。


「……うん、このエレベーターで間違いない。これを使えば目的の地下一階に行けるよ」


「エレベーター……って、この扉のことか。けど、ドアノブとかねえし、これどうやって開けるんだ?」


「手動で開けるものじゃないよ。扉の隣にカードリーダーがあるだろう? さっきのカードキー、使えないか試してみて」


「あっ、うん!」


 イオのその言葉でドラクはすぐさま入り口から預かっていたままだったカードキーを取り出し、それを素早くカードリーダーに通す。

 するとピコンッと音が鳴ると同時に、扉の向こうから地面が唸るような振動音が聞こえてきて……それが収まるとポーンという軽快な音と共に扉が開き、その中にあった真四角の小さな空間を曝け出した。


「うおっ、なんか出てきたぞ!」


「これがエレベーター、離れた階層に素早く移動するための装置の全貌さ。職員用だったみたいだけど、警備員のカードキーでも大丈夫だったみたいだね。さあ、早く乗って」


「これ、乗り物だったんだ……」


 エレベーターはどう見ても小さな部屋にしか見えないのだけど、これで目的である地下一階まで連れて行ってくれるようだ。

 でも、それがわかっていても未知のものに頼るのは少々不安がある。使い方が分かりやすい動く道や階段などはまだしも、これがどうやって動くのかさっぱり見当がつかない。それはイアとドラクも同じようで、その場で顔を少々強張らせながら固まってしまっている。


「未体験で不安なのは理解しているけど、これが一番早く地下一階に行ける移動手段なんだ。さあ、あまりここで時間を浪費していると、追手に捕まってしまうよ」


「う、うん」


 心配ではあるけど、確かにイオのいう通りだ。ここで追手に見つかって足止めを食らうわけにもいかない。

 私達は素早くそのエレベーターに乗り込み、4人全員が小部屋に入ったところでイオが扉の隣にあったボタンを操作して扉が閉まった。そして、


「きゃっ⁉︎」


 さっきのような振動音が聞こえてくると同時に、身体がふわりと浮くような感覚に捉われる。どうやらこの部屋が動いているらしい。こうして、さっきイオが言っていたように目的の地下一階に連れて行ってくれるのだろうか。

 だけど、今私達がいるこの空間は完全に密室。部屋の中には窓などの外の景色が確認できるものも一切ないために、まるで檻の中に囚われているかのような感覚に陥ってくる。イア達が一緒にいるから気も動転せずに済んでるけど、中にいてあまり良い気分がするところではなかった。


 やがてまた軽快な音が鳴り、それと同時に振動も完全に止まる。その直後に扉が一人でに開いて、ようやく密室状態から解放された。


「よし、地下一階に到着したよ」


「よ、良かった。これで出られる……」


「うひぃ、なんかまだ地面がふわふわしてる気がするぜ……」


「僕もできたらもう乗りたくないかな……。軽く酔った気もするし」


 エレベーターから出た瞬間に、ほっと息をつく私達3人。

 確かに短時間で目的の場所まで運んでくれて、階段とかと違って体力を使う必要もないために便利なことは確かなのだろうけど、未体験なものだけあって違和感が尋常じゃなかった。私も軽く目眩がするし……酔いやすいルーザがここにいなくてよかったかも。


「あらら、エレベーターはお気に召さなかったみたいだね。顔色も優れないようだし、大丈夫かい?」


「う、うん。一時的なものだろうし、しばらくしたら治ると思う」


「でも次からは階段使わせてくれ……。疲れてもいいから、やっぱ自分の足で地面歩きてえよ」


「そうか、無理してまで使用するわけにはいかないね。OK、次回からはエレベーターは使用しないルートに誘導するよ。それで、次は武器の調達だね。先刻と同様に、ボクの後ろを付いてきてくれるかい?」


 私達はイオの言葉に迷うことなくうなずく。そしてさっきと同じく、周囲に追手が来ていないか警戒しつつ、身を縮こまらせながら武器保管庫に向かって移動を始める。


 地下一階の内装は一階と同じく金属で四方を覆われた空間であることには変わらなかったけれど、大きく異なる点が一つ……壁に無数の鉄格子が設置されているということ。今私達がいる廊下に隣接している小部屋という小部屋の前にそれらは隔たっていて、これはどう見ても……牢屋だ。

 中に誰もいないだけまだ安心できたけど、それから発される空気はやはり物々しいものだった。気圧された私達は、思わず緊張から喉をゴクリと鳴らす。


 視界に入っていると誰かが囚われているところを想像してしまいそうで、無意識の内に牢屋から目を逸らしていた。こんなもの使われているところなんて見たくもない。さっさとここを通り抜けてしまおうと、歩く速度をさらに上げた。

 しばらく進んで行くと……やがて、牢屋とは違う金属製のいかにも分厚そうな扉が見えてくる。


「……武器保管庫は、ここだね。またカードキーでの解錠が必要だ」


「了解。今までみたいにカードリーダーに通せばいいんだね」


 3回目ともなると流石に慣れてきたんだろう。ドラクは取り出したカードキーを、迷うことなくカードリーダーに通す。

 鍵が外れた扉はプシューッ……という音を立てながら開いていき、その先に閉ざされていた空間を私達の前に現した。


「おお……」


 その途端に、イアは感嘆の息を漏らす。

 武器保管庫という名前の通り、その部屋にはナイフや槍という様々な種類の武器が壁一面にずらりと並んでいた。その数はもう、数えきれない程に。求めていたものがようやく見つかったこともあって、私達は飛び込むようにして保管庫の中に入った。


「すっげぇ。選り取り見取りってやつじゃねえか!」


「持ち出されていないだけラッキーだったね。これだけあれば何か一つでも使えそうなものを見つけられるんじゃないかな?」


「おう。片手斧っぽいの、あるといいんだけどな」


「選ぶなら急いだ方がいいよ。同じ場所に留まるのは危険だし、戦闘員が武器調達のためにここに集まってくるかもしれないからね」


「う、うん」


 そうだ。目的の部屋には辿り着いたけど、ここに追手が来ないとは限らない。敵がいない今の内に自分が扱えそうなものを見つけてしまおうと、私達は早速物色してみる。

 剣は武器の種類でもメジャーなものだし、無いことはないだろうけど……。


「ん、これは……」


 最初に目に留まったのは、刃が大きく反り返った独特の形状をした剣。

 これはサーベル、かな。私が普段使っている剣と比べると大分大きいけど……とりあえず持ってみないことには使えるかも分からない。そう思って試しにと手に取ってみると、


「……ぅえっ⁉︎ 重っ……」


 その瞬間腕に伝わってきたのはズシッと腕に響くほどの重量。予想以上のことに身体が付いていけず、ガクリと体勢を崩す。その後なんとか立ち上がってサーベル振るおうとしたけれど、あまりの重さに持ち上げることすらままならない。

 そうだ、ここにあるのは武器は武器でも戦闘員であるアンドロイド用に貯蔵してあるものなんだ……。アンドロイドの腕力は腕が外れてしまうことからあまり無茶はできないイオでも、空中から落ちてきた私達を受け止めたり、私の身体を軽々と頭上に持ち上げたりは容易いくらいに強いから。


 イアとか、男子であればなんとか扱えそうではあるけど、身体は精霊でも腕っ節は普通の妖精の女子並みである私には使えそうにない。そうなると私は比較的軽そうな武器を選ぶべきか。

 どこかに軽量な武器は無いものか、改めて武器を物色しようとすると、


「……侵入者、発見」


「命令に従い、捕縛します」


「げえっ⁉︎ もう来やがった!」


 突如として、四体のアンドロイドがこの保管庫の中に突入してきた。アンドロイド達は私達の姿を視認すると同時に剣や槍などの武器を構えて、臨戦体勢を取ってくる。

 もう見つかってしまうなんて……武器を選ぶのに時間をかけすぎたのかも。反省してても仕方ない、こうなったらこっちも応戦するだけだ。とりあえず私でも使えそうなものをと、振り向いてすぐ目に留まった小さめな武器に手を伸ばす。


「っと、これは……?」


「銃だね。でもそれは弾を込めるんじゃなくて、魔力を銃弾として撃ち出すタイプみたいだ。ちなみにそれは二つで一つ、二丁拳銃みたいだね」


「……っ、そっか。説明ありがとう、イオ!」


 イオのおかげでどう使えばいいか分かって、私はその二丁拳銃を引っ掴んですぐさま構える。

 軽くはあるけど、銃なんか使った試しもないために正直不安だ。でも、ここで迷っていても敵は待ってくれない……やるしかないんだ。

 そうこうしている内に2人も何を使うか決めたようで、イアはハンマーを、ドラクはサーベルをそれぞれ急いで構え、アンドロイド達を迎え撃つ体勢を整える。アンドロイド達も手にした武器の切っ先をこちらに向けてきて、やる気満々だった。


「見張り役の個体と比べて動きも滑らかで、喋り方も流暢りゅうちょうだ。それだけ高性能であって、戦闘能力も比較にならないことが予想される。充分警戒することをおすすめするよ」


「了解!」


 後方に下がったイオのアドバイスに頷く。

 やはりこのアンドロイド達は戦闘員……制御室にいたものより上位の個体であるらしい。さっきと同じようにはいかないかもしれないけど、だからといって引き下がるわけにはいかない。


 外すことがないよう慌てず、落ち着いて銃口を真っ直ぐアンドロイド達に向ける。そして、アンドロイド達は無表情のまま私達に向かって各々が手にする刃を振り下ろしてくる……!

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