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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第14章 マリオネットは糸切れてーMechanical Dystopiaー
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第171話 心は錆びることなく(2)

 

「えっと……何をしたらいいんだろう」


 そうして店の前に押し出されるように立ってみたはいいけど……私は呼び込みをするにはどうしたらいいのか戸惑っていた。

 だって、私は店に呼び込みするどころか、働いたこともない。ルーザみたいに、アルバイトの経験だってゼロ。少しでも役立てればと思って後先考えずに引き受けちゃったけど、まさか始まる前からつまずくとは思わなかった。


 カフェの看板娘として接客業が手慣れてるエメラと、そこでアルバイトしてるカーミラさんがいれば教えを乞うことも選択肢としてあったのかもしれないけど、はぐれてしまっている今は当然ながらそんなこと出来るはずもなく。だからここは自分でなんとかするしかないわけで。

 いらっしゃいませ……は違うよね。まだお客さんは来てすらいないんだし。でも、それ以外に何て言えばいいんだろう。


「ええっと……」


 悩んだ挙句、私は近くの店はどうやって呼び込みしているのかを知ろうと耳を澄ませてみることに。一人であれこれ考えるより、実際に呼び込みをしている妖精達から見て教わる方が早い。


「いらっしゃい! 靴が一足300ゴールドだよー!」


「一つ150ゴールドのカバンはいかが〜?」


 成る程……品物と、その値段を声に出すことで宣伝しているのか。確かにそれなら店が扱っている商品が何なのかも分かりやすい。

 それじゃあ……


「て、手作りの服200ゴールド、アクセサリー80ゴールドです。お一ついかがでしょうか〜?」


 覚悟は決めていても、気恥ずかしさと自信のなさで思うように声は出てくれず。だんだんボリュームが下がっていき、最後なんてちゃんと声になっていたのかすら怪しいくらいに声がしぼんでしまった。

 やっぱり未経験の私じゃ駄目なのかな……と意気消沈していたのだけれど、向かいの靴を扱っている露店にいた男妖精がピクリと反応し、こっちに向かってくる。


「……ん、服か。なかなかいいな」


「おや、いらっしゃい!」


「服も新調しようと思ってたし、丁度良かった。売り子が可愛いからつい寄っちゃったってのもあるけど」


「あ……ありがとうございます」


 その男妖精は私に向かってにこりと愛想の良い笑みを向けてくれた。恥ずかしくはあったけど、私の声は思いの外届いてくれたようだ。


「そうだな〜、服は家族の分……4着いただこうかな。このネックレスも妻に似合いそうだ。一つ頼むよ」


「ありがとね。合計880ゴールドだけど、沢山買ってくれた礼に850ゴールドにまけとくよ」


「それはありがたい。助かるよ」


「助け合うのは当たり前さ。毎度あり!」


「あ、ありがとうございました!」


 エマさんのお礼の言葉に合わせて、私も感謝の意を込めて頭を下げる。男妖精はそんな私達に手を振りながら去っていった。


「う、売れた……!」


「すごいね、ルージュ。ルージュが呼び込みをしたらすぐに商品が売れたよ。呼び込みの効果は絶大だ」


「やっぱりあんたが可愛いからお客も来てくれたんだよ。あたしの判断は正しかったね!」


「そ、それはどうでしょうね……?」


「ルージュの見た目で寄ってくんのか? なんか複雑だぜ……」


「まあまあイア君。そこは堪えて」


 私の容姿の良し悪しは自分じゃ判断しかねるけど、私の呼び込みで商品が売れたことは素直に嬉しかった。未経験の私でも役に立てたことが、こうして結果として表れてくれたことで。最初は不安で堪らなかったけど、成果が出ると自信も湧いてくる。


「商品は売れたけど、まだまだ家族が食べる分には足りないからね。この調子で引き続き頑張っておくれ!」


「は、はい!」


 エマさんの勢いに押されて、反射的に返事してしまった。でも自分で手伝うと言い出したんだし、こうなったらしっかりやり遂げよう。


 改めて決意を固めた私は再び呼び込みを開始する。最初は緊張から震えてしまった声も、回数をこなすことで慣れてきて徐々に大きな声が出せるようになってきた。来てくれるお客さんが増えてくると、私が呼び込みするところを見てやり方を覚えたらしいイアとドラクも手伝うと言ってくれて。そうして3人で協力しながらお客さんを呼び込み、商品を売りさばいていった。

 やがて頑張った甲斐あって、残りの商品もあと僅かとなる。あともうひと頑張り、そう思って声を張り上げようとすると、


「……こんなものかね。もういいよ、お疲れ様」


「えっ、でも。まだ商品残ってますよ?」


「これだけ売れれば充分さ。いつもなら半分も売れないのに、完売近くまでいくなんてねぇ。これならしばらくは生活にも困らなさそうだよ。あんた達には感謝してもし足りないくらいさ」


「い、いえ。お役に立てたなら私も嬉しいです」


「おうよ! オレもオレの声で客が来てくれて楽しかったしな」


「寧ろ僕達が貴重な体験させてもらったかもね。こういうこともなかなかする機会ないし」


「そう言ってもらえるとあたしも嬉しいよ。さて、今度はこっちが買い物する番だ。あたしの可愛い子供達が待ってるからね」


 エマさんは立ち上がると、並べていた商品を片付けて店仕舞いを始めていく。私達3人とイオも残った商品を箱の中に戻したり、敷いていた布を畳んだりと手伝いをしていった。そして店仕舞いを終わらせた後は、エマさんの要望とイオの勧めでエマさんの子供達と会うことにした。

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