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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第14章 マリオネットは糸切れてーMechanical Dystopiaー
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第170話 アルジェントの失楽園(2)

 

「……っと、着いた。ここだよ」


 イオにおぶって運んでもらった先にあったのは、またもや古びた金属製の板に囲まれた建物。何処にいるんだろう、と辺りをキョロキョロ見回してみると、そこには人影が二つ、確かに存在していた。

 一つは猫のような尖った大きな耳を持ち、もう一つはふわふわとした垂れ下がった耳を持つ妖精が。


「イア、ドラクッ……!」


「ん、イオと……ってルージュ⁉︎」


「ほ、本当だ! 無事だったんだね……!」


 名前を呼んだ瞬間、その人影の正体────イアとドラクが私に駆け寄ってくる。2人とも、その覚束ない足取りが受けたダメージの深さを物語っていたけれど、ちゃんと五体満足でいた。

 気絶する前の出来事が酷かっただけに、こうしてみんな無事に再会出来たことが本当に嬉しい。今まで不安で満たされていた胸が、じわりと熱を取り戻していくのを感じた。


「本当に、ホッとしたよ……。宙に投げ出された時はどうなることかと思った」


「ああ。ルージュ、先頭にいたからよ。ひでぇ怪我してねえかって不安だったんだ」


「うん、ありがとう……。それで、他のみんなは?」


 お互いの無事を確かめ合ったところで、一番聞きたかった質問を2人に投げかける。でも2人は悔しげな表情で首を横に振った。


「……近くにはいなかった。目が覚めてからドラクと探してみたけどよ、オレとドラクしかここには運び込まれてないみたいでさ。ドラゴンと、オーブも無かったな」


「うん、ボクが見つけたのもキミ達3人だよ。他にはいなかった」


「そっか……じゃあ完全にはぐれちゃったんだ」


 イオにもその事実を告げられたことで、私達以外はこの近くにいないことを思い知る。2人と再会できたのは良かったけど、他のみんなはまだ行方不明と聞いて、上がりかけていた気分がまた降下した。

 ……ルーザやオスクなど、かけがえのない仲間の顔が次々と思い浮かぶ。みんな、無事だと思いたい。みんながそう簡単にやられる筈がない。でもやはり直接確認するまでは安心できないのが本音だ。


「そういえば、2人もイオとは顔見知りなの?」


「ああ、ちょっと前に気が付いた時にな。介抱してもらったって聞いて、それから別の怪我人の様子見に行くってここで待ってたんだけどよ……その怪我人がルージュだったんだな」


「うん。ルージュは女の子だからね。部屋は別にしておくべきだと判断したのさ」


「そ、そう。お気遣いありがとう」


「どういたしまして。立てそう?」


「うん、なんとか」


 イオにその場で屈んでもらい、私は恐る恐る地面に足を降ろしていく。さっきよりは動いても痛みは響いてこないけど……


「いっ、つ……」


「お、おお、大丈夫か?」


「まだちょっと痛くて……。ダメージが予想以上に深いみたい」


「ルージュさん、ドラゴンと一緒に一番多く攻撃食らっちゃってたもんね……。僕達より影響を受けててもおかしくないよ」


「ごめんよ、治療道具は持ち合わせてなくてさ。キミ達を運んで来たはいいけど、床に寝かせるくらいしか出来なかったんだ」


「ううん。受け止めてくれたおかげでこれくらいで済んだんだもの」


 謝るイオに私は首を振って見せる。やはりまだ完全に癒えてないせいで、立った途端にズキリと鈍い痛みが広がってくるけれど、あの高さから落ちてこれだけで済んでるのは奇跡に等しい。イオが受け止めてくれたからこそ、私達は助かったんだ。出来る限りの手当を施してくれたイオには感謝こそすれ、責める部分なんて一切無い。


「ふーん、こんなことでも感謝を忘れないなんてすごいね。やっぱり心があるって素晴らしいや。妖精ってポカポカするなぁ」


「また変なこと言ってら。てかお前さ、部屋分けた時にルージュに妙なことしてねえだろうな?」


「妙なこと? ……ってどういうのかな?」


「えっ、それは……まあその、お前だって男だし」


「ああ、そういう方面でかい? 大丈夫、ルージュに対してそういう興味や魅力は一切感じてないからね!」


「あれ、さりげなく失礼なこと言われた?」


「……うん。その認識で正しいと思うよ、ルージュさん」


 グッとサムズアップしながらそう返答するイオ。イアの質問の意図はあまり分からないのだけど、なんとなくけなされた気がしてならない。イアも、それを聞いてホッと胸を撫で下ろしつつも渋い顔をしているし。


「お前な……いや、何もして無いならいいけどよ! お前にはもうちょっとデリカシーってのが……」


「おや、配慮が足りなかったかい? それは失礼。でもルージュにそこまで気遣うなんて、妖精ってみんな優しいのかと思ったけど、キミが抱いてる感情はなんだかちょっと特別なもののようだね。……ああ、成る程! これがLIKEとLOVEのちが」


「だーーーっ‼︎ わかったからもうお前は黙ってろ!」


 納得したと言わんばかりに手をぽんと打ちながら紡がれそうになったイオの言葉を、イアは大声を出して遮った。突然の、それもすぐ隣で発されたそれが耳に直撃したことで、ビクッと肩が大きく跳ねる。


「ええと、そんなに慌ててどうしたの? ライクとかラブって、一体どういう」


「え……その、ルージュさん? オレ、確か聖夜祭の時に全部終わるまで手を空けてくれるって聞いたんですケド?」


「うん。大事な話、あるんだよね。今は辛抱するしかないけど、いつか聞かせてくれるの待ってるから」


「あ〜……これもしかして、もしかしなくても理解しきっていらっしゃらない?」


「うん、まあ……ドンマイだよ、イア君」


「えっ、その。あの……」


 がっくりと肩を落とすイアに、ドラクは慰めるようにその縮こまらせてしまった背中をポンポンと軽く叩く。

 尋常じゃないイアの落ち込みように何か悪いことをしてしまったのかと慌てるけど、原因が全く思い当たらず、どうしたらいいのか分からない私はその場でオロオロするばかり。


「……まあ、とにかくさ。ルージュ、回復魔法使えたよな。それで怪我治せねえか? 今受けた胸の傷まで治るか微妙だけど……」


「ええと……なんか、ごめん。うん、回復なら武器無しでも問題ないと思う」


 私の大精霊としての力はほとんどライヤが保有している。ライヤの姿を写すことで力を直接借り受けるから、武器で魔力を一点に集めずとも強い魔法が使える筈。

 ただ問題が一つ、ここにイオがいるということ。私もルーザも、イア達友達や事情を通じている他の大精霊以外の前では混乱を招かないよう、姿を切り替えるのは避けるようにしていた。これまで初対面の妖精の前で姿を切り替える必要がある場面に遭遇してなかったからなんとかなっていたのだけど、今はそうもいかないというわけだ。


「その……イオ。今からやることはなるべく驚かないでほしいんだけど……」


「ん、そうなのかい? まあ、ボクは驚くことをあまり知らないから、その心配は無いと思うよ」


「そ、そう。じゃあ……」


 その自信はどこから来るのだろうと疑問に思わずにはいられないけど、今は怪我の治癒が先だ。早速、ライヤの姿を写して精霊の姿となった私は『命天の光』を使ってイアとドラク、そして自分の怪我を癒していった。


「ふい〜、痛みが引いてくぜ……」


「これなら問題なく動けそうだよ。ありがとう、ルージュさん」


「ううん、当然のことをしたまでだから。まだ痛かったらフランさんに強化してもらった薬もあるけど」


「いや、そこまで酷かねえよ。それはルーザ達のためにとっておこうぜ」


「おお……キミ達3人の体力がみるみる内に回復していくのを検知したよ。ルージュの力はすごいんだね」


「う、うん。ありがとう……?」


 そんなイオの反応に私は首を傾げる。すごいと褒めてくれてはいるけど、イオはさっきの言葉通り驚いている様子は全く無かった。目の前で変身されたら、誰もが多少はびっくりするだろうに、イオはそれが皆無だった。

 まるで、感情をどこかに置いてきてしまったかのように。なんだか底が知れないものを感じて、途端にそのヒトの良さそうな笑顔が少し恐ろしくなってしまう。


「傷は治ったけど、よく見たらキミ達ホコリまみれだね。ボク、タオル取ってくるよ」


「あっ、何もそこまでしてくれなくても」


 ハンカチくらいなら持ち合わせがあるから大丈夫。そう伝えようと、今にもタオルを持ってこようとするイオを止めようとしたその時……イオから、何かがゴトリと落ちる。

 少々太めの、棒状のそれ。先端が少し広がっていて、そこには5本の指が付いていて────即ち、腕。


「……えっ」


「ん? ああ、また取れちゃった」


「ぎゃあああ⁉︎ ちょっイオ、腕! 腕取れてんぞ⁉︎」


 イアが絶叫したことで、ようやく目の前で起こったことを理解した。イオから文字通り肩が外れて、右腕が取れてしまっているんだ。けれど、当の本人はそんな衝撃的な光景を前にしてもケロリとしている始末。


「な、なんでそんなに呑気にしてられるんだい⁉︎ 君の方が僕達よりよっぽど大怪我してるっていうのに!」


「あっはっはー。いやぁ、もう慣れちゃってさ。外れても簡単にくっ付くんだよ。ほらガッチャン、てね」


 なんて、笑いながら落ちた腕をなんでもないことのように拾い上げ、これまたなんでもないように肩に合体させるイオ。その言葉通り、外れていた腕は見事に元の位置に収まり、何事も無かったかのように動いている。

 あまりの出来事に、その一部始終を私達は呆気に取られて見ていることしか出来なくて。


「これ見られちゃったら仕方ないか。後で詳しく説明するつもりだったけど、せっかくだから今済ませちゃうね」


 まだ状況が呑み込めずにいる私達に、イオは愛想良く笑いかける。そして姿勢を正したかと思うと、その場で一礼し、


「────改めまして、アンドロイドのイオだよ。よろしくお願いするね、お客様!」


 そう、再度自己紹介を済ませた。

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