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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第14章 マリオネットは糸切れてーMechanical Dystopiaー
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第170話 アルジェントの失楽園(1)

 

 ……私に話しかけてきたその妖精は、『イオ』と名乗った。

 あれから……私が気を失っている間、何があったのか聞いてみたところ、イオが言うにはたまたま出かけていた時に空から落ちてくる私を発見したらしく。このままじゃ危ないと咄嗟(とっさ)に受け止めてくれて、その後に介抱するため今いるこの古い建物に運び込んでくれたようだった。


「ホントはこんな地べたじゃなくて、ベッドに寝かせてあげられれば良かったんだけどね。生憎ここには無かったから、止むを得ずこんな形になってしまってさ。許してね」


「ううん、助けてくれただけでも感謝してるから。それで、ここってその、セントラルエリアで間違いないんだよね?」


「うん、ここがまさしくこの都市の中心部さ。正確にはその中心から押し退けられた貧民街ではあるけどね」


「そっ、か……」


 とりあえず目的地には辿り着いたことにホッと息をつく。宙に投げ出された時はどうなることかと思ったけど、あの攻防の間にこのセントラルエリアがある小島の上空まで距離を詰められていたらしい。

 でも偶然とはいえ、イオがいなかったら確実に私は無事では済まなかった。あんな高いところから気を失った状態で地面に激突していたら……想像しただけでゾッとする。他のみんなも……


「……そ、そうだ! 友達が、私の他にも妖精と精霊を見かけなかった⁉︎」


「うん、それらしい妖精は見たよ。今すぐ確認する?」


「当たり前、……っ!」


 すぐさま立ち上がってみんなの無事を確かめようとするけど、その瞬間足に鋭い痛みが走り、その場にへたり込んでしまった。それでも諦めず、腕を支えに立とうとするけれど、いつまで経っても私の両足は言うことを聞いてくれない。それが示しているのは、まだ立ち上がれるだけの体力が回復してないということだ。

 ここにはイオ以外の人影は無かった。近くにはフレアが託してくれたオーブも見当たらない。みんなは無事なのか。姿が見つからないだけに、余計に不安に駆られてしまう。


「駄目駄目、無理はいけないよ。ここで身体を省みないと、後でその反動が返ってくるよ」


「わかってる! でもみんなが無事なのか早く確かめたいの……!」


「自分より他人を思いやる、か。それはいいことだと思うけど、ここで無理してキミが傷付けば仲間も悲しむんじゃないかな?」


「……そうかもしれない。でも、そうやって友達が私を心配してくれるように、私も友達が心配だから」


 そう返しながら、まだじんじんと響く痛みを堪え、姿勢を変えたりしてなんとか立ち上がれる方法を模索してみる。でも、ダメージを負った身体はやはり思ったように動いてくれない。


「他人のためにこんなに頑張れるのか……やっぱり妖精って暖かいなぁ」


「え、それってどういう……」


「よし、ならボクも協力しなくちゃね。ボクがその仲間の元まで連れて行ってあげるよ」


「えっ、いいの?」


「もちろん。こう見えて腕力には自信があるんだ。じゃあまず、キミの名前を教えてくれるかな?」


「あ、うん……ルジェリア。よくルージュって呼ばれてるけど」


「ルージュ……OK、覚えた。そしたらルージュ、ボクに自分を運んでほしいと命令してくれないかな?」


「な、なんで?」


 イオの言葉の意味が分からず、思わず疑問を口にする。

 私を仲間の元まで連れて行ってくれるのはもちろんありがたいのだけど、それはイオが提案してきたにもかかわらず、何故か命令してほしいという条件付き。どうして、私が命令する必要があるんだろう?


「理由があってね。あとで説明するけど、今は仲間の安否が大事なんだろう? さあ、ほら」


「ええっと……じゃあ『私を仲間の元まで運んでください』……?」


「了解! ではちょっと失礼して」


「きゃっ⁉︎」


 言われた通りに命令、というよりはお願いをすると、イオはすぐさま私の身体を抱え上げる。

 私の要望を聞き届けてくれたのはいいのだけど、問題はこの体勢。背中におぶってくれるのかと思いきや、イオはまさかの私を頭上に持ち上げて運ぶという全く予想しなかったやり方を選択した。

 介抱してくれた上に、移動の手助けまでしてくれるイオには感謝してるけど……まるで荷物のような扱いを受けて、なんとも言えない気持ちになる。


「あれ。表情が優れないようだけど。どうかした?」


「あ、うん……なんか想像と違って」


「そっか、これは適切なやり方じゃなかったか。一つ学習させてもらったよ。じゃあ、ルージュがいいと思うやり方をボクに教えて」


「えっと、こう……背中に担いでくれたらちょっと楽、かな」


 頭上から下ろしてもらった後、私はイオの背中に寄り添って見せる。そこまでいくとイオもどうすればいいか察してくれたようで、私の身体を優しく持ち上げ、今度こそ移動を開始した。

 イオが歩く度に、私にもその振動が伝わってくる。それは私の身体もゆらゆらと小刻みに揺すり、イオの身体の温かさも伴って眠気を誘う。まださっきの攻防の疲れが抜けきってないのが原因なんだろうけど……でもみんなの無事を確認する方が先と、頭を振って眠気を飛ばす。休憩するのはその後だ。


 ……その道中で、私は不意に自分を担いでくれているイオに視線を移した。

 まだ出会って間もないけど、イオが優しい性格であるのは今までのやり取りで分かっていた。でも、イオはどこか変わっているというか、不思議な印象を受ける。吸血鬼とか、妖とか多くの種族と関わって、知り合いになってきたけど、イオはそれ以上に私達の常識が通用しないように感じる。

 行動するのに命令してほしいとか、さっきの……まるで自分が妖精ではないとでも言ってるかのようなセリフ。それに落ちてきた私を、かなりの衝撃があった筈なのに受け止められた腕力も。姿形は確かに妖精のものだし、こうして体温も感じられているから()()()()()のだろうけど……


「イオは……その。妖精、だよね?」


「うーん、妖精の姿に見えるようにされてるけど、その質問にはNOと答えるね」


「どういうこと?」


「まあまあ。キミの友達と合流したら必ず説明するからここはお預けだ。それまで辛抱だよ」


「う、うん」


 何やら気になる言い回しをされたけど、ここで深く追求しても仕方ない。本人が必ず説明すると言ってくれているんだ、ここは素直に従っておこうと口をつぐむ。

 本当に、一体イオは何者なんだろう……その疑問を胸に抱きながら、私は大人しくイオに身を任せた。

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