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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第2章 影の輪唱
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第16話 幻想の氷河山・前(3)

 

「……ん、この先の道がやたら狭いな」


「本当だ。一列じゃないと無理そうだけど」


「……いえ、それも幻です。すごく急な氷の坂道ですけど、行き止まりになってますから」


 それからしばらく進んだ先、どう見ても一人通るのでギリギリな道が見えてきた。……が、これもどうやら偽物の景色のようで、オレらが戸惑っているところにすかさずフリードが正しい景色を教えてくれた。

 成る程な……進んでいるように見せて、実際は坂道で滑らせてあたかも順調に登っているように錯覚させようって気か。


「でも、この辺りに確か抜け道があった筈なんだけど……塞がっちゃったのかな?」


「ん、前は別の道があったのか?」


「確かに……この辺りの氷、まだ凍りついたばかりのものですね。塞がったという可能性もあり得なくないです」


 ドラクはその手前の氷の壁と睨めっこしている。この山の案内妖精であるドラクが登山道を忘れるとは考えにくいし、やはり塞がっているのだろう。フリードがいうにはこの氷も出来たばかりの新しいもの。今の、この山の異常を思えば不思議でもなんでもない。

 だが、見た感じ氷はそこそこ丈夫そうだし、物理的にぶっ壊すのは無駄な体力も消費するし、スマートとは言い難い。ということは……火を使うことに長けている奴の見せ場だ。


「よっしゃ、オレの出番だな!」


 それを察したのだろう、この中で一番火の魔法を得意としているイアがやる気満々で壁の前に立つ。炎系の魔法を専門にしているあいつにはぴったりの役だ。

 

「『エルフレイム』!」


 早速、イアは壁に向かって火炎弾を放ち、氷の壁を溶かしていく。熱が氷を直撃し、溶けた氷は蒸気となって辺りに散っていった。

 その蒸気が完全に晴れると、氷の壁の先にあった別の道が現れた。……ドラクが言っていた抜け道だ。


「よし、上手く出来たぜ!」


「ありがとう、イア君。ここを登れば中間の手前まで行けるよ」


 ドラクの情報は正確な筈。その言葉からすると、思っていたよりも順調に進んでいけていたらしい。だからといってまだ安心は出来ない、オレらは頷きあって先を急ぐ。

 抜け道を通った後も魔物に出くわしたり、幻に振り回されながらもなんとか登り続けた。


 だんだん疲労も蓄積していき、息が荒くなり始める頃。はあ……っと漏らした息が白い煙となって視界を白く染め上げていく。

 動いていることでこんな氷だらけの山とはいえ、だんだん身体の内側が日照って暑くなってきた。そろそろ少し休憩が欲しいところだな……。

 そして、そんな状態でようやく中間地点に着いた、その時。


『……ここまで登ってきたか。案内役がいるとはいえ、上出来と言うべきか?』


「……ッ⁉︎」


 聞き覚えのない男の声が、頭の中に直接響くように聞こえてきた。いきなりのことにオレらは驚く。

 耳に入ってくるわけでもない声は頭の中で反響し、耳鳴りでもしてるかのような錯覚に陥ってくる。


 あまり試しはないが、テレパシーってやつか。気分のいいものではないが……こんなところで話しかけてくるやつなんて一人しか思い当たらない。

 間違いなく、新月の大精霊・シルヴァートだろう。


「ようやく言葉を交わす気になったか。新月の大精霊サマ?」


『……やはりオスクだったか。あのような術とは随分強引なことをする。相変わらず騒々しいやつだな』


「ハハッ! 闇は力こそ本性。強引で結構! お前に褒められても全然嬉しくないし」


 シルヴァートの呆れているような言葉にも、オスクは普段通りの飄々(ひょうひょう)とした態度を崩さない。

 逆にオレらはというと、慣れないテレパシーに困惑して会話に入りづらい。声が頭の中から響いてくるこの感覚は耳鳴りのようで気分はあまり良くない。オレも含めて、オスク以外の全員が不快そうに顔をしかめている。

 だが、そんなオレらには構わないらしい、シルヴァートの声は調子を変えずに続けた。


『……お前がここまで、しかも散々下等だと遠ざけてきた妖精と行動を共にするとはどういう風の吹き回しだ?』


「見ない内にボケが進んだか? メンツを見ればすぐ分かることだろうに」


『なに……?』


「あと、何言っても無駄だから。急に霧が深くなった原因、僕に見抜けてない訳ないっしょ?」


『……』


 オスクの指摘は図星らしく、シルヴァートは黙り込む。

 オスクがそう言うのは、そうでも言わないと追い返されるためかもしれない。現にオレらも簡単に登らせないようにするための幻に散々惑わされている。力を試すためとはいえ、この山に仕掛けられている幻術だって元々は山から追い出す意味でもあるものなのだから。


『ここまで来たのなら追い返しはしない。だが、もう登ることは不可能だ』


「ふーん、随分言ってくれるじゃん。妖精ならともかく、僕の力を持ってすれば登ることなんか簡単に……」


『それが不可能だと言っているんだ』


 シルヴァートはオスクの言葉を遮って続ける。


『登る意思があろうと関係ない。お前達はこの先には踏み入れることさえ叶わないのだからな』


 ただ突き放すように、低く冷たい声で。オレらの希望を壊すようにシルヴァートの言葉は胸に突き刺さった……。

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