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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第14章 マリオネットは糸切れてーMechanical Dystopiaー
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第168話 虚飾に塗れ(1)

 

「とりあえず、街に入れはしたけど……」


「まさか武器を取り上げられることになるとはな」


 全く予想してなかった出来事に、ルーザと揃ってため息をつく。それほどまでにさっき起こったことが衝撃的で、他のみんなもまだ余韻が覚めてないようだった。

 ベアトリクスさんの後ろ盾があるとはいえ、他国との交流を絶っている今のカルディアに入るのは何かしら苦労するだろうとは思っていたけれど、まさか武器を没収されることになるとは思わなかった。今まで『滅び』のことで様々な国に行ってきた私達でもこんな経験は初めてだった。


 私達が武器を持つのはあくまで護身用、身に危険が迫った時の対抗手段として携帯しているものだ。だから本当は使う状況にならないことが一番なのだけど、何が起こるか分からないこの時に丸腰ではやはり不安になる。

 魔法を使うという手ももちろんあるけれど、攻撃に使用する魔法は武器を媒体とするものがほとんど。武器が無いと体内にある魔力と、大気中から集めた魔力を一点に集中できないから魔力が散らばってしまい、その結果威力も分散してしまうんだ。

 大精霊であるオスクはそんなハンデなんてものともしないかもだけど、他の私達はそうもいかない。ルーザとか、武器に魔力を込めて使用する魔法などはそもそも使えなくなってしまう場合だってある。


「街中で武器の使用を禁じているのなら僕らも襲われる可能性も低いと思いますが、やはりいつも手元にあるものがないと心配ですね……」


「もう、せっかく出発前にフランに武器の強化もしてもらったのに。取り上げられちゃったら意味ないじゃない」


「それも大きいよね……」


 カーミラさんの言う通り、カルディアに出発する前にフランさんの力を借りて以前私の剣にしたようにみんなの武器にも浄化した結晶の力を付与してもらったんだ。けれど、没収されてしまってはその効果も当然意味を成さなくなってしまう。


 それに、あの剣は私にとって対抗手段であると同時に大切なお守りでもある。剣柄に結び付けてあるルーザからもらった包帯……傍から見ればなんでもないように思うそれは、辛い過去とまだ完全に決別出来ておらず、何かと後ろ向きに考えてしまう私の心の拠り所となっているものだ。

 ……袋に入れる前に包帯だけでも持っていくんだったな。後悔しても遅いことは分かっているけど、そう思わずにはいられなかった。

 私達が都市に入る時の手続きを任されたというあの3人組の正体も結局分からず終いだし、調査を始める前から不安な要素が盛り沢山だ。


「ハイハイ、過ぎたことに文句垂れるのは全部終わってからにしなよ。それよか、これからどうするかに目を向けなっての」


「う、うん」


「ああ。……この先よく考えないとえらいことになりそうだしな」


 オスクにたしなめられたことで私は気を取り直し、ルーザの言葉を合図に正面を見据えた。

 私達は今、カルディアの街の中心へと移動している最中だ。でも、自分で歩いて移動しているのではなかった。今、自分達が立っている道が自ら動いて、目的地まで運んでくれているために。


 港から見えていた街の景色もすごいと思ったけど、内部はそれ以上だった。恐ろしく高い四角い建物が何十と立ち並び、辺りは魔法具ともまた違う眩しい街灯で飾られている。

 それに加えて、今私達がいる動く道の隣にはさらに幅が広い道があって、その上を金属で作られていると思われる大きな車輪の付いた四角い箱が物凄いスピードで走り抜けており。さらに道路に限らず、階段までどんな仕組みなのか勝手に動いていて、ここでは自分が動かずともどこまでも移動が出来てしまうのが驚きだ。

 カルディアは私達の何倍も高い技術を持っているのだということを見せつけられて、私達はそれを黙って見入るしかなかった。


「なんか、オレ達の十歩先の時代を歩かれてるような気がするぜ……」


「え、ええ。こんなの見ちゃったらあたし達の環境が古臭く思えちゃうわ。この道とか階段とか、動かしてるのって魔力とかじゃないわよね。どうなっているのかしら?」


「建物の材質も、やっぱり全然見たことないものだね。これだけ高くしてもへっちゃらなんて、どんな材料使えばこんなの作れるんだろう?」


 みんなもそれぞれ、シノノメとはまた違う技術と文化に驚いているようだ。高い技術力で成り立った街は私達にとって何もかもが新鮮で、私も思わずキョロキョロと辺りを見回して他にどんなものがあるんだろうと色々探索したい衝動に駆られる。

 ……確かに、カルディアの持つ技術はすごい。でも、


「なんて言ったらいいんだろう。なんか無機質というか、冷たいというか」


「ああ。何もかもきっちり整い過ぎてんのも気味が悪い」


「こんなんじゃ動かなくても生きていけるって言ってるようなもんじゃん。寄り道することに楽しさもあるってのにさ、ここはそういう無駄なものを徹底的に省いてやがんの。僕には一生理解出来そうにないね」


「……うん」


 ルーザとオスクの言葉に、私は静かに頷いた。

 徹底的に整備された街は便利なのかもしれない。ゴミの一つも落ちていないし、雑草も一切生えていないしで景観は綺麗と言うべきものだ。でも、綺麗に整えられ過ぎているせいか生気も感じられない。

 周囲を彩る植物も、成長することも枯れることもない造花のような人工物だし、住人もお喋りもしないまま、動く道と階段に身を任せるばかり。その有り様はまるで決められた通りにしか動かない機械のようで……表情も、笑うことを忘れてしまったかのように強張っていて、とても幸せそうには見えない。


 こんな冷たい暮らしを、住人は誰一人として疑問に思わないのだろうか? 自分が今本当に幸せなのか問いかけたりしないのだろうか?


「おい、考え事にふけるのもいいが、前もちゃんと見ろよ? もうすぐこの道の終着点だ」


「あっ、うん!」


 ルーザに言われて現実に一気に引き戻され、私は慌てて前方に視線を向ける。その言葉通り、今私達が乗っている動く道の終わりが近づいてきていた。

 境目で足を引っ掛けて転ぶなんてことがないように、足元に十分注意して道から降りる。数分ぶりに自分の足で踏みしめる地面。やはり自分の足で歩いた方がほっとする。


「っと、とりあえずオレ達今カルディアのどこら辺にいるんだ?」


「あ、丁度近くに案内用の地図があるよ。えっと……ここだと丁度カルディアの中央市街みたい」


「中央到達か。ここでどう動くかよく考えてから行動に移した方が良さそうだな」


「だね。調査っていっても具体的にどうしたらいいかまだ考えてない、しっ……⁉︎」


「ん、ドラクどうしたの?」


 不意に周囲を見渡したドラクが何故だか絶句する。それを疑問に思ったフリードが反射的に質問を投げかけ、残った私達も何だ何だとばかりにドラクに注目する。そして、当のドラクは数秒時間をおいてからようやく私達に向き直って、震えた声で理由を説明し始める。


「いや……その。そこにある売店にボトルに入った水が売られてるのが見えたんだけど、値札に『3000ゴールド』って出てて……」


「さっ……⁉︎」


 ドラクから告げられたその衝撃的な事実に、私達も言葉を失う。


 近未来都市・カルディアの潜入調査、やはり一筋縄ではいかなさそうだ。

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