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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第2章 影の輪唱
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第16話 幻想の氷河山・前(3)

 

 そして、全員がなんとか氷河山の中へと到達。急いで入ったためか妨害もされず、第一の目標である山の中に無事に侵入することができた。


「ふう。これで上を目指せるね」


「僕の後ろを付いてきて。案内するよ」


 山に入ってすぐ、早速ドラクが先陣を切って進んでいく。ドラクは氷河山の案内妖精、その力をここで頼らない選択肢はない。その背中を見失わないよう、オレらは後ろをぞろぞろとついて行った。


 そして、この山の内部。氷に覆われた地面と壁で、あちこちに氷柱が突き出して、それらが外からの光を反射してキラキラと輝いているという、まるで山全体が巨大な宝石のような景色だ。

 だが、普通ならばそんな幻想的で綺麗な景色も周り全てがそうなっていては目がチカチカしておかしくなりそうだ。まだ幻術にかかったわけではないものの、これだけでも惑わされそうな気分に陥ってくる。


「うへぇ、視界全部がキラキラしてて眩しいな」


「うん。サングラスでも買ってくれば良かったね」


「いつもこうだから僕は慣れちゃったけど。はぐれないように気をつけて」


 ドラクはそう注意を促しながら、腰のベルトに下げていたランプを外した。そしてそれを軽くコツンと叩くとランプは二回りほどでかくなり、辺りをほんのりと明るく照らした。


「ドラク、それは?」


「案内妖精専用の魔法具……とでも言えばいいのかな。僕の魔力でこのランプは光を灯して、目指す場所への正しい道筋を指し示してくれるんだ。このランプのおかげで幻に惑わされても進むべき道はすぐにわかるんだ」


「へえ、すごい」


「吹雪で視界が遮られる可能性もあるから、僕の姿が見えにくかったらこのランプの光を頼りに進んでね」


 こんなところではぐれて迷子だなんて命に関わる。誰か一人でもいいから視界に入れられるよう、オレらは事前に相談していた通り、固まって移動することに。

 登山が素人であるオレらにはこの山はレベルが高すぎるし、安全な進み方すらわからない。この中で唯一、山の登り方を熟知しているドラクが歩いた道を確かめながら、滑らないよう足元に充分気をつけて慎重に登っていく。

 

「わっ! 魔物が集まってきた!」


 先頭を歩いていたドラクが立ち止まり、そう知らせてきた。ドラクのいう通り、前方にわらわらと魔物が集まり、群れを成していく。

 群がってきたのは小さめの雪だるまのような魔物、スノーマだった。こいつらならさほど苦戦する相手でもない、先を急ぐためにもオレらは一斉に武器を構える。


「水系の魔物の相手は僕に任せて。『グロームレイ』!」


 先手必勝とばかりに早速ドラクが電撃を浴びせて、まずは一体撃破する。ここで足止めを食らってる暇はない。オレらもエメラに合わせて武器を振るい、魔法を放って応戦していった。

 流石に7人もいると効率がいい。すぐに全滅させることが出来た。


「ふん、楽勝だな」


「おうよ! これなら大精霊もなんとかできんじゃね⁉︎」


「うん。でも、まずはこの山を登り切ろう。じっとしてると目の方が先にやられちゃうよ」


 確かに、ルージュのいう通り視界が奪われるのは避けたい。上で待ち構えている大精霊が何を仕掛けてくるのかもわからない……立ち止まっている余裕もないだろう。

 戦いは終わったのだからとさっさと武器を収め、オレらは急いで上を目指した。


 ……そうしてしばらく登っていくと、氷柱がなくなって平たい氷が増えてきた。ゴツゴツとした岩が剥き出しの足場が減って滑りやすくはなったが、その代わり見晴らしが良くなっている。

 

「この辺りは確か……山の四分の一くらい登ってきた辺りだね」


「ふぃ〜。やっと目が普通になってきたぜ」


「油断しないことだな。あれはあいつが幻術を仕掛けるための下準備にすぎないんだ」


 なんとか一つの鬼門を突破したことにホッとするオレらに、釘を刺すようにオスクの厳しめな言葉がかけられる。

 なら、ここからが本番ってことか。今までのが幻術をかける下準備なら、これからはあまり見たままの景色が信用出来なくなるということだ。だが周りが氷だらけなのは変わらない、これからはより一層慎重に登らなくてはならないんだ。


 そうしてまた登ってすぐ、異変ははっきり現れてきた。

 さっきまでの道には無かった穴が登山路のあちこちにあった。大きさは大したことないが、数が多くて穴と穴の間の足場は足が置けそうにない程狭い。

 その穴の底は……暗闇が広がって見えない程深いものだった。


「あれ、こんなところにこんな穴あったかな?」


「元々無いものがあるものがあるってことは……」


「ああ。間違いなく幻だな」


 とはいえ、頭で理解してても穴の上を歩くのは気が引けるものだ。底が見えない穴の上に足を踏み入れれば、すぐさま吸い込まれてしまいそうな恐怖がにじり寄ってくる。そんな考えが頭に浮かぶと、足がピタッと止まってしまった。

 ……だが、オレらが戸惑っている中でフリードだけは首を傾げていた。


「あの……穴ってなんのことです? 穴なんて見当たりませんが……」


「え? フリード、見えてないの?」


「……ううん、逆だよ。見えていないのが『本物』なんだから、フリードには幻術がかかっていないってことなんじゃないかな」


 確かに、ルージュの言う通りフリードだけは穴に恐れている様子は全くなく、逆にビビっているオレらを見て困惑している。オレらのように穴が見えているなら、普通こんな反応を示さない。だが、幻術の使い手は大精霊。そう簡単に術を無効化できるような相手でもないのに……。


「おい、オスク。雪妖精にはシルヴァートの幻術が効きにくいのか?」


「効きにくいというより、そいつの特性だな。ここの幻術は氷を利用したものだから、それらを扱う氷とか雪とかの妖精や精霊にはほぼ無効になるんだ」


「そう、か。そうなるとフリードに先頭を任せたほうが良さそうだな」


「え、ええっ⁉︎ ぼ、僕ですか……?」


 フリードは突然の指名に戸惑う。

 当然だ。いくら幻術が効かないとはいえ、ここは大精霊が支配する氷河山。そんな場所に先頭を切れなんて不安が勝るに決まっている。

 だが、フリード以外はさっきの反応からして完全に幻術にかかってしまっている。今の状態では、自分で安全な道を選んで歩いていくことが不可能となってしまっているんだ。


「フリードには悪りぃけどよ、幻に完全にかかっちまってるオレ達じゃあ前は行けそうねぇんだ。穴の幻もなんか……ズボッといっちまいそうで怖いし」


「その代わり、戦闘は任せて。魔物を相手にしている時なら、幻にも気を取られないと思うから」


 イアとルージュの言葉にフリードは不安げにしばらく迷っていたが、決意が固まったようでやがて顔を上げた。


「……そうですね、僕が役に立てることなら喜んでします!」


「フリード、僕だってここの案内妖精なんだ。一緒に行こう」


「うん……! ありがとう、ドラク」


 フリードとドラクは頷き合い、並んで仲良く歩きだした。オレが知り合う前から幼馴染で親友だった2人だ、フリードもこうして支え合いながら歩けば不安が和らぐだろう。

 そうして、オレらもフリードが通った道を辿りながら歩みを進めていく。幻は相変わらず見えているが、問題ないことがわかればさほど障害にならない。少しずつではあるが、確実に前へと進んでいった。

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