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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第13章 順風満帆スケープゴートーBreak Personaー
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第164話 順風満帆スケープゴート(2)


「……っ、危ないっ!」


「うわっ!」


 僕の背後を、ルージュが素早く手にした剣で斬りつける。

 そしてその斬撃を浴びていたのは……地面から這い出した、僕をその白い『無』へと引きずり込もうとしていた魔の手だった。

 ……ルージュが気付いて咄嗟とっさに行動に移していなかったら今頃僕はあの『白』と同化していたことだろう。間一髪、それはまさに今のことを指すのだと思い知る。


「……今のおかげで理屈が充分理解できた。少しでも目的と相手の認識をおろそかにしたら、今のがまた起こるってことだよね」


「あ、ああ……。てか、お前よく気付いたな。僕でも今のは気配感じ取れなかったってのに」


「……経緯は褒められたものじゃないけどね」


 剣を鞘に収めつつ、ルージュは苦笑する。僕なりに褒め言葉を寄越したつもりだったというのに、その態度は明らかに嬉しくなさそうなものだった。


「プラエステンティアにいた時に、正確には私がいじめ始められてから、かな。あいつら……貴族にいつ何かされるかわからないからって、いつも神経尖らせてたから悪意のある気配に対してすっかり敏感になっちゃって。その頃は周囲に誰か潜んでるんじゃないか……そんなことばかり考えて、目を凝らしていた毎日を過ごしてたから」


「ふーん……そういうこと」


「ごめんなさい……あなたは私でもあるのに、その気持ちを分かち合うこともできないなんて」


「いいの、ライヤにまでこの経験を背負わせようとは思ったことないし。ライヤも私が覚えてない分の、嫌な思い出だってあるだろうから、それでおあいこ。この話はお終い」


「……っ、はい」


「その過去とはちゃんと自分で蹴りをつけるって決めて、今の署名活動を頑張ってるから、ライヤも心配しないで。権力と財力をかざして好き勝手してくれたそいつらには、それで数の暴力の恐ろしさを証明してやるつもりだから。そして味方がいないことを悟らせた後は法という手段で絞るだけ絞って、落とせるところまで蹴落として、私達と学校が受けた傷を身を持って思い知るように、社会的な死を持っての制裁を……」


「る、ルージュ、もういいですからっ! 話がどんどん怖くなってますから!」


『こいつ……目がマジだぞ』


 喋ってる内に今まで内に留めておいた怒りが表出してしまったらしい、内容がどんどん過激になってくるルージュの言葉を咄嗟にライヤがストップをかける。

『裏』は引っ込んでる筈なんだが……数回乗っ取られたせいで人格が若干混ざりかけてないか、あいつ?


 とりあえず、褒められたものじゃないという意味は分かった。あれは過去のトラウマから得た能力、ルージュからしてみれば負の産物も同然なために喜べなかったようだ。考えてみれば、あの鋭い観察眼もその経験から生まれたものなのかもしれない。

 まあでも、それを自分の口から告げられるようになったのは、ルーザに叱られ、先日吸血鬼に色々ぶちまけたおかげで少しは吹っ切れたからなのかもしれないが。ルージュも、まだ完全に決別できたとは言えないものの、それはゆっくりでも過去は過去だと割り切って『今』に向かって踏み出そうとしている成長の証のような気もした。


 ただ一つ、はっきり断言できるのは────やっぱルージュだけは怒らせちゃいけないということだ。ルーザから殴り付けられる時のような物理的な痛みなら耐えればいいだけだが、こいつには一生()えない精神的な傷を負わされる気がしてならない。


『……とりあえず、移動した方がいいぞ。さっきは同じ場所に留まりすぎたせいで狙われたんだろ』


「はいはい。説明は終わったからそのつもりだったし」


『だがまあ、その能力は使えるぜ。まだ確認は出来てないが、瘴気を晴らしたことで敵の攻め方に変化が生じてる可能性が高い。これから不意打ちがあることも覚悟しとかなきゃいけないからな。お前一人で対応出来ないのを、ルージュに補助してもらうのがいいだろうよ』


「う、うん。そりゃあ、付いて行くと決めたからには役に立てるのは嬉しいけど……流石に全部感じ取るのは難しいよ。死角から来られると判断も遅れるだろうし」


『その辺りはある程度オレでカバーできる。だが、術が切れると当然それも無理だ。やれるだけやるつもりだが、そっちもできるだけ敵に付け入られる条件を揃えさせないよう努力してくれ』


「それしかないか」


 作戦を確認しつつ、僕は今度こそ結晶を叩いて進むべき方向を見定める。そして2人を連れていよいよ探索を開始した。


「ところで、オスク。そのマフラーとアミュレットって……」


「あ。ああ〜……お守り代わりにな。こんな真っ白な場所だし、見える色が多い方がいいと思って」


「そう、なんだ。ふふっ」


「何笑ってんだよ……」


「別に。使ってくれることが純粋に嬉しくて」


「オスクさんも素直じゃないですね〜。たまにそれ、大事そうに触ってたじゃないですか」


「へえ、そうなんだ」


「うっさい、文句あるか!」


「「ううん、全然」」


 なんて、口を揃えて返事しつつ、クスクス笑ってくる身体ルージュ記憶ライヤ。なんだか馬鹿にされているようで、苛立ちのまま手の中の結晶を握り潰したい衝動に駆られる。

 ……ん? そういやこいつら、元は同じ存在だから……


「あっ、そうです! 今回から呼び方ってどうするんですか?」


「そりゃ区別するために今の『ルージュ』、『ライヤ』呼びにするしかないっしょ。『ルジェリア』じゃあお前ら2人、両方指すことになるんだから」


「え〜⁉︎ もう、なんであなたの方が来ちゃうんですか!」


「何その理不尽⁉︎」


「……」


 さっきの息の合った返事から一変、無益な言い争いをし始める2人を呆れた眼差しで見据える僕。レシスが仲裁に入ったおかげですぐにそれは止められたが、僕はため息をつかずにいられない。


 ……果たしてこの先、この2人を連れて目的が達成できるのだろうか。今更ながら余計なお荷物が増えた気がして、これからへの不安がさらに膨れ上がった。

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