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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第13章 順風満帆スケープゴートーBreak Personaー
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第160話 順風満帆スケープゴート(1)

 

 ……ゲートを潜ると僕らは前回訪れた小さな神殿に立っていた。前はここから脱出した時の地点から再開されたか分からなかったが、今回はちゃんと探索を中断した場所から出発できるようだ。


「ここが、虚無の世界……」


「そう。全てが不条理、無秩序、支離滅裂しりめつれつ。現実じゃ当たり前にあるものも存在すらしていない、無茶苦茶な世界だ。ここでは常識に捉われるな、それが一番の対抗策」


「うん……」


 そして虚無の世界に飛び込んですぐ、世界の惨状を前にしてルージュの眼差しは再び鋭いものへと変わる。それは、今も世界を蹂躙(じゅうりん)する災いに対しての怒りからだった。

 前回の探索で瘴気しょうきを少し晴らしたことによって『影が落ちる』という理は取り戻せたが、まだそれだけ。水や土といった自然を構成するものはまだ一切ないままだし、そんな状況下で植物なんてある筈もなく。空を見上げても真っ白な景色が広がるばかり……その光景は白い壁によってこの空間全てに蓋がされているようで不愉快極まりなかった。


『おい、ここでの説明をさっさと済ませろ。時間には限りがあるんだからな。出発する前に知ってること全部吐いておいた方がいいぜ?』


「あ、まだこの世界の注意事項とか聞いてなかったね」


「はいはい。ま、こっちも全部知ってるわけじゃないから現時点で判明してることに限るけど」


 そうして僕ら3人でルージュに自分達が知る限りの情報を伝えていった。

 何しろここは世界そのものが敵といっていい場所だ。念には念を入れておくことに越したことはない。僕もある程度はフォローするつもりではあるけど、基本的に自分の身は自分で守れるようになってもらわなきゃ困る。


「……成る程。オスクはライヤの、ライヤはオスクの姿を視認すると同時に名前を呼び合うことでこの世界に『いる』ってことを認識し合って世界に取り込まれることを防いでいるのか。そして、ティアさんを探すという意思をしっかり持つことは、この世界の一部じゃないことを示して気持ちでも世界と同化することを阻止するためでもある……そういうことだよね?」


「は、はい。そうです、けど」


「へーえ。理解力あって助かるね、誰かさんと違って」


「もう、さっきから私のこと馬鹿にしすぎじゃないですか⁉︎」


「そう思うんだったらもっと精進するんだな、馬鹿正直ド天然精霊」


「酷いです〜! 私、怒っちゃいますよ⁉︎」


「勝手にしなよ。お前がプリプリしたところで怖くもなんともないし」


「ぶー!」


 なんて、精一杯目を釣り上げて膨れて見せるライヤだが、元々のいかにも穏やかそうな丸っこい目でそんなことされても迫力なんて無いに等しく。やがて相手にされてないことに気付いたようで、不機嫌そうにプイッとそっぽを向いた。


「むう……でもでも、いくらなんでもルージュ理解早すぎませんか? こんな常識とか一切ない世界ですし、多少は混乱しそうなのに」


「まあ、今まで散々イレギュラーな目に遭ってきたし、今更ってやつかな。この世界相手じゃあれこれ考え込もうとするほうが危険みたいだから、すぐに適応するつもりでいなきゃと思って」


「そりゃ結構。だがまあ、事前に理解してんのと、実際に動けるかは別問題だ。使えないと判断したら容赦なく切り捨てるからそのつもりでいなよ」


「うん、わかってる。お荷物にはならないって約束したもんね」


 僕の軽く脅すような忠告に、ルージュはそれも覚悟の上だとばかりに深くうなずいて見せる。

 付いて来ることを認めたものの、余計な危険に晒したくないという気持ちはまだある。僕はこいつらの保護者だ、こいつらの行動全てに僕の責任も伴っている。だから大人しくしててくれた方が楽ではあるんだが、人手が欲しいのも本音だ。

 役に立つかどうか、その成長ぶりをこの探索で精々見せてもらおう。


「それにしても、あの『滅び』の結晶が道標になってるだなんて。どうしてなのかはまだ分からないんだっけ」


「ああ。怪しいっちゃ怪しいけど、他に目印もないんでね。こいつに頼らざるを得ないってこった」


「そのためにカバンを……まあいいけど。それで、残ったレシスがサポート役に回っているってことでいいんだよね?」


『そうだ。主に直接突入してるお前らがガーディアンに出くわさないよう誘導したり、別視点から見て気になるものを指摘したりとかのナビゲーションをな。といっても、万能じゃないが』


「あ、時間制限があるとか言ってたね」


『今の瘴気しょうきの濃度じゃ、出来ることも少ないからな。正直言ってお前らを中心に数メートル程度しか覗けないし、深く潜り込もうにも瘴気が邪魔してんのか見えない壁に弾かれたみたいに妨害される。ま、単純に目が疲れるってのもあるんだが』


「え、体力とか精神力とかじゃなくて?」


『字が見えない時、じっと目を凝らすだろ? あれを数分間ずっとやってるようなもんだ』


「成る程、ついに老眼……」


『な ん か 言 っ た か?』


「別にぃ」


 思わず呟いた言葉にレシスは真っ先に食いつくが、適当に誤魔化しておいた。

 どうせこの場にはいないのだからはっきり口に出してやっても良かったんだが、ルージュが「けんかするな」と言わんばかりに睨んできたので、余計な言い争いをしないためにもここは素直に従っておくことにした。


 ……説明としてはこんなものだろう。知ってることは全て吐いたし、そろそろ結晶を叩いて方向を確認するか。

 そうしてあらかじめカバンから取り出しておいた結晶を取り出そうとした、その時。

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