第158話 ステップ・バイ・ステップ(4)
「ろ、ロウェンさん!」
「はい! お久しぶりです、ルジェリアさん。それにルヴェルザさんに、イア君もエメラさんも」
私の名を呼んだのはシャドーラル王国の王子であり、私達とかつて行動を共にしていて、今もかけがえのない大切な仲間の一人であるロウェンさんだった。
貴族にバレたわけじゃなかったことにはホッとしたけど、まさかここでロウェンさんと再会するとは思わず、全員で驚いていた。
「どうしてここに?」
「今日はクリスタ様と会談を。両世界の関係が大分修復されてきたので、他国にも別世界のことを知らせようかと父上と考えてまして。後は、学生を中心に交流をさらに深めるために多くの学校に異世界の生徒を受け入れるようにしようという話も」
「そっか。関係、回復してきてるんだ。良かった……」
「すごいなぁ、わたし達と歳あんまり変わらないのに」
「ああ、それで今忙しくなってオレ達と一緒に行くこと出来なくなったんだっけか」
「……本当に申し訳ないよ。僕も皆と一緒に『滅び』と戦いたいのに、近くで手助けすることすら出来ないなんて。クリスタ様から皆の動向も伺っていたけど、敵の勢いが増してるようだし……自分の無力さを痛感するばかりだ」
「お前は無力なんかじゃねえよ。お前の弓の腕には実際助けられてたし、フェリアスに向かった時もお前に貰った手紙のおかげで話をスムーズに進められたからな。……まあ、後者は誰かさんの口八丁もあってこそだったが」
「そう、か。そう言ってもらえると僕も安心するよ。王子として、やっぱり国のことを第一に考えなくてはならない立場だから。でも……」
「でも?」
「父上がお見合いだの結婚だのしつこいことだけはもううんざりで……!」
「ああ……」
握りしめた拳と一緒に、肩を怒りで震わせているロウェンさんに私達は苦笑い。
以前、姉さんから教わっていたから私ももうお見合いがどんなものかは知ってる。エリック王は国と、ロウェンさんを想って助言してくれているのだろうけれど、それが何回も何回も続いているためにロウェンさんは怒っているようだ。
私達と同行こそできなくなってしまったけど、ロウェンさんも私達の見えないところで、私達と同じくらい……いや、もしかしたらそれ以上に苦労しているのかもしれない。
「……っと、僕の近況ばかり話していても仕方ない。見たところ、クリスタ様に用事があるという様子では無かったようだけれど、ルジェリアさん達はここで何を?」
「あ、はい。最近なってちょっと困ったことがあって……」
ロウェンさんならば私達の事情を話しておいても損はないだろう。あの学校は両世界の交流を取り戻せたきっかけの一つでもある場所。それが失われそうになっていることをロウェンさんにも知らせておくべきだ。
そう判断して、私達は呼びかけをした時と同じように置かれている事情を説明していった。
「廃校……⁉︎ どうしてそんな、あそこは両世界の交流を取り戻せた起点とも言える大事な場所なのに!」
「金銭的な問題とか、生徒数とか色々問題はあるんだが……やっぱ一番は貴族からの圧力だな。あいつらは異世界との交流とかまるで知らん顔。目先の利益と自分達の贅沢のことしか考えてないってことだ」
「それでわたし達、今日はミラーアイランドのいろんな場所で署名を集めてたの。王城にもそのために来たんだけど」
「たまたま近くに貴族っぽい妖精を見かけてよ。見つかるとヤバいってんで、帰ろうとしていたとこだ」
「そう、だったのか……。その、僕も署名を」
「あ、ごめんなさい。これはあくまで一般妖精の問題なので……。気持ちは嬉しいんですけど、王族が関わると国への反感を買われ兼ねないと思って私と姉さんも名前を書くことは断念してます」
「うう、そうですか……」
ロウェンさんも当然のように協力を申し出てくれたけど、私はリスクの方が大きいからと丁重に断った。光の世界の貴族達にロウェンさんの名がどれくらい知れ渡っているかはわからないけど、私達の問題にロウェンさんまで危険に晒すわけにはいかない。念のため署名することは避けておいた方が賢明だ。
「気持ちだけ受け取っておくよ。王族でなくても協力者になってくれそうな奴はまだまだいるだろうからな。絶対に廃校なんかにさせない。お前はお前のやるべきことを果たしてくれ」
「はい……ん? 王族でないなら、いいんですよね?」
「え? まあ、はい。そうですけど」
「……おい、明日にでも全兵士を召集することは出来るか?」
「はっ、可能でございます」
「よし。なら城に戻り次第、すぐにその話を通しておいてくれ」
「え、それって……」
護衛の兵士とどんどん話を進めていくロウェンさんに、口を挟む余裕すらなかった私達は呆気に取られるばかり。やがて兵士との話を終えたらしいロウェンさんは私達に向かって得意げにニヤッと笑って見せる。
「流石の貴族も、異世界の王城兵の名前までは把握してませんよね? なら、彼らが署名しても問題はない。その時には学校を無くしたくない気持ちがある兵士だけに協力してもらえば、署名の体裁も守れる筈」
「は、はい。多分、大丈夫かと」
「なら良かった。……たとえ名前を書くという直接的な協力はできなくても、こうして王族だからこそ取れる手段で一緒にとことんまで戦ってみせます。だって、僕もルジェリアさん達の仲間ですからね!」
そう言って、ロウェンさんは私達ににっこりと愛想の良い笑顔を向けてくれた。同行することこそ難しくなってしまったけど、ロウェンさんとの関係は決して消えていなかったんだと、そう思えた。
こうしてまた、私達は心強い協力者をまた一人得たのだった。




