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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第2章 影の輪唱
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第16話 幻想の氷河山・前(1)

 

 翌日、オレらは予定通り光の世界へと向かい、ルージュ達に協力を頼んだ。

 影の世界へと戻ってから3人に氷河山のことについて説明したら、快く了承してくれた。危険なことだとは承知の上だというのに、文句一つ言わずに。戦力が少しでもいる今の状況じゃありがたいことだ。

 イアとエメラも、オスクのことはルージュから説明されていたようで、特に驚きはしなかった。だが、やはり物珍しいのかオスクに見入っている。


「すげー、大精霊に本当に会えるとは思わなかったぜ」


「うん! 他の精霊とはやっぱり違うね」


 オスクはそんな2人の反応を見て、満更でもなさそうな表情を浮かべている。このことで調子に乗らなければいいんだが。

 はしゃぐ2人とは対照的に、ルージュは問題の霧を気にしていた。霧がかかって白く濁った空を見上げて、不安そうに表情を曇らせる。


「霧……やっぱり異常だったんだね」


「ああ。漏れ出してる時点で気づくべきだったんだがな。こうなっている原因は大精霊の意思なのか?」


 昨日から気がかりだったことだ。この霧が濃くなっているのは大精霊の仕業なのか、何か別の力の作用によるものなのか。前者であれば大精霊を止めればいい話だが、後者ならその原因を突き止めるという責任も生まれる。

 どちらにせよ一筋縄ではいかなさそうなんだが……オレの問いに、オスクはすぐさま首を振る。


「まさか。あいつはお役目には忠実だし、故意でこんなこと起こすわけがないっての。もっと別の、大精霊でも手を焼くようなモノが原因だろうさ」


「大精霊でも、か……」


 オスクから告げられたその可能性に、オレらは揃ってゴクリと喉を鳴らす。

 この国に迫ってきている危機は、大精霊という孤高の存在の力を持ってしても退けるのが困難と聞いて、より一層緊張が高まった。どこかでわかっていたことではあるが……そんなものを相手にオレらの力が通用するのか、今更ながら不安になってくる。


「……先に忠告しておくけど。それに今関われば、お前達はそれから逃れられなくなる。特に、お前達2人はな」


「え? それってどういう……」


 オスクはオレとルージュを見てそう言い、ルージュは戸惑った声を上げ、オレも思わず顔をしかめる。逃れられなくなるのがどうしてオレとルージュなのか、それが全然わからないために。

 やはりルージュとは何しらの関係あるのだろうか。まあ、見た目が似てる時点で全く無関係ではないのは明白なんだが。それでも気にせずにはいられないものだ。


「いい加減、理由(わけ)話さないのかよ?」


「言ったじゃん、何もかも抜け落ちているってな。きっかけがあれば別だけど、混乱されること間違いないのにバラすなんて愚かにも程があるし。僕は今そのことについて口を開く気はない」


「そういう理由なら……。でもみんなまでそうなるのはどういうこと?」


「わかんないの? それ程その力が強大ってことだ。ちょっと頑張りゃ片付けられるほど、簡単な問題でもないんだよ。それにされるがままになるか、それとも抗うか。たった一度、されど一度だ。少しでも踏み入れば、今までの平凡な日常には戻れないのは覚悟しておけ。お前らが関わろうとしているのはそういうことだ」


 周りのやつらはオスクの言葉に身体を震わせたり、不安げに顔を見合わせたりする。今、関わればもう後には退けない……やり直しが一切効かない選択肢を突き付けられて、仲間もここに来て気持ちが揺らいでしまった様子だ。

 そんな周りの反応を見て、オスクはため息をつく。


「どうしようかはお前らの勝手さ。ここで怖気付いて手を引いても誰もとがめないし、僕だって文句は言わない。生半可な覚悟で関わられちゃ逆に迷惑だ。……ま、お前だけはその性格ならばわかりきったも同然だけど」


「はん、当然だろ。どこまでも抗ってやる。オレはそういう性分だからな」


「言うと思った。でも、私だって流されるままは嫌だから」


 ルージュはそこまで言うとオレに笑いかけた。不安なところもあるかもしれないのに、ルージュは表情にそれを一切出していなかった。


「とことん付き合うよ、ルーザ。答えが見つかっても、止めたりはしないから」


「ふっ……。ありがとな」


 素直に礼を言っていた。出会ってまだ一ヶ月も経っていないが、充分に信頼できる程になっていた。

 見た目もあってか、やけに親近感を感じていた。家族もいない、親戚もいないオレにとってはルージュには特別な気持ちを抱かせるのかもしれない。


「ルージュがやるんなら男のオレが引くわけにはいかないぜ!」


「そうだね。僕だってとっくに覚悟していたんだ。後戻りできなくったって、そんなの関係ないさ」


「うん。僕も戻れなくても構いません。しないよりはずっといいですから」


「友達ならやるべきだよね! ……ちょっと怖いけど」


 各々に不安はあるようだが、全員行く覚悟は出来ている。これから何が起こるかはわからない、でも黙って見過ごすわけにもいかない。これだけの人数がいるんだ、大精霊相手でも何か出来ることはあるはずだ。


「あっそ、まあいいけどさ。じゃ、その覚悟の褒美と平穏な日常ってヤツにサヨナラした記念品として、大精霊のことくらいは説明してやるとしますか」


 オスクはようやく決意を固めたオレらにやれやれとばかりに肩をすくめ……それでも何処かほっとした様子でそう告げてきた。それを聞いて、オレらも騒ぐのをやめて話に集中しようと気持ちを切り替える。

 これから立ち向かうことになる大精霊についての情報、それを知っているか知らないかで状況が左右されるであろうから。オスクはそれによろしいと言う代わりに、早速説明を始める。

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