第146話 赤散らす花魁道中(3)
「よっしゃ、やってやるぜ! 『イグニートフレア』!」
「『風林破斬』!」
早速、イアが先陣を切って鬼火に向かって火炎を放ち、それに続いてイブキも風を纏った刀で鬼火を叩き斬る。
さっきと同じようにあっさりやられるだろう。そう思っていたのに……鬼火は攻撃を食らうと被弾した箇所から真っ二つに炎が裂けて、その裂けた2つの炎は別々の鬼火として存在していた。
「ゲッ、分裂しやがった⁉︎」
「先程はこのようなことは無かったというのに……これは一体?」
「ま、単純に威力の高いものぶつけて分裂する前に消し飛ばしたってとこだろうけど。鬼のトップと吸血鬼なら別にそんな難しくないっしょ」
「威力では敵いませんが、これならどうです! 『アイシクルホワイト』!」
「『フィンブルヴェト』!」
なら炎自体を消してしまおうと思ったのだろう、フリードとルージュは雪と冷気を鬼火にぶつけた。すると鬼火は攻撃が当たっても分裂することはなく、そのまま鎮火するように跡形もなく消滅していった。
弱点は水属性の魔法か。これなら酒呑童子達には及ばなくても、充分切り抜けられる。
「ふむ、ならば我らも前に出た方が良さそうだ。イブキ、今こそ修行の成果を見せるのだ」
「承知した!」
シルヴァートにそう言われ、イブキも一歩前に踏み出した。2人はそれぞれの武器を、全く同じ動作で抜き、これまた同じ構え方で魔力を集めていき……
「「『雪花新月斬・幻』!」」
互いに、斬撃の軌跡で描いた雪の結晶ごと、鬼火をまとめて吹っ飛ばした。
「イブキ、その技って……シルヴァートさんの」
「……拙者とて、ただ闇雲に探し回っていただけではない。暇を見つけてはシルヴァート殿の教えの元、自らの刃を研いでいた」
「へえ、堅物にしては珍しいことするじゃん」
「心は変わりゆくものだ。以前の私ではこのようなことはしなかったであろうが、他者に自分の技を教えるというのは悪い気はしなかった。指導とはいいものだな、対象に己が技を徐々に身につけられていく度に心が晴れやかになっていく」
「おいこら、また年寄り面になってるぞ」
「む……いかんいかん」
「ふん、だがこれで突破口は開けたな。このまま進むぞ!」
「えっ、水使えないオレ達はどうすんだ?」
「その辺の草でも刈っとけ!」
その後は水の魔法が使えるルージュとフリード、シルヴァートとイブキを先頭に進んでいき、残ったオレらは武器で伸び放題の雑草を切り裂いて通れる道を作りながら先を急いで行った。
弱点こそ突けないが、オスクとカグヤは鬼火を消し飛ばせるくらいの高い威力の魔法を普通に扱える。そのため2人には後方に回ってもらい、4人が仕留め損ねた鬼火達の後始末を任せた。
そうしてオレらはゆっくりではあるが確実に進んでいき……どんどん島の中心部へと迫っていった。フユキの話にあった、飛び込みたくなるという曰く付きの崖も見かけはしたのだが、崖の下を覗き込まなければ問題ないようで特に脅威にはならなかった。
その崖からしばらく進んでいくと、今まで見たものよりさらに密度と高さがある茂みへと辿り着いた。
「気配が濃くなっています。……ここを抜ければ、恐らくその先に元凶があるでしょう」
「2人はまだ見えないし……もうとっくにここは通り抜けたみたいだね」
「あいつら猪突猛進にも程があるだろ……」
「ま、何にしてもあっさり先に進めそうにはないけど」
オスクの言う通り、ここでも周囲の茂みの中から鬼火が次々に這い出してきて四方八方を取り囲まれる。流石に最後というだけあって、鬼火の数も今までとは比較にならない量だった。
くそ、流石に数が多すぎる。ここは一気に倒して、早く2人に追いつかなきゃいけないってのに……!
「ハッ、ここは僕らが相手するか。たまには歳上らしいことしなきゃ大精霊としての面目が立たないっしょ?」
「うむ。今こそ我らの力を合わせる時」
「わたくしも同意します。相手は『滅び』、災いに手加減などしてられる程寛容ではありません」
大精霊3人はそれぞれ己の武器を鬼火の塊に突き付ける。そして、最初に行動を起こしたのはオスクだった。
「『ワールド・バインド』!」
最早見慣れたオスクの拘束魔法。オスクの詠唱によって虚空から無数の鎖が現れ、何十という鬼火を一匹残らず鎖で縛り上げる。
妖といえども、大精霊の力には敵わない。鬼火は炎を揺らめかせてなんとかオスクの拘束から逃れようとするが、無駄な抵抗。圧倒的な魔力でその動作を封じられ、ピクリとも動けなくなった。
「ほーら、動き止めてやったぞ。さっさととびきりでかいのぶち込んでやれ!」
「言われるまでも無い。カグヤ!」
「ええ。合わさった二つの月の力……お見せしましょう」
すぐさまシルヴァートは氷の剣を構え、カグヤは上空へと飛び上がる。そのまま流れるようにシルヴァートはこちらも凍えそうなくらいな強力な冷気を、カグヤは神々しいまでの眩い光をその身に纏った。
そして、
「『聖光……月光封滅術』‼︎」
「『破天・氷華ノ一太刀』‼︎」
辺り一面を包み込むように光の雨と氷の斬撃が動けないままの鬼火に襲いかかり……二つが晴れた時、もう鬼火は一匹もいなかった。
ほんの一瞬だった。鬼火に分裂させる暇を与えず、存在そのものを消し飛ばすくらいの威力を孕んでいた。流石は大精霊……といったところか。
「す、すげぇ……」
「ほ、本当……。あたし達じゃとても敵わないわ」
「いつかはこれを……私達はこんな凄い精霊達も超えないといけないんだよね」
「ああ……それでも、そうなるように努力していくしかないさ」
ルージュもオレも、こんなのを目の当たりにしてこれから先への不安が高まってしまった気がするが……今はとにかく目の前に集中だ。
「あ、そうだ。今の内に回復しておくね。この先何があるかわかんないし」
「ああ、頼む」
敵は殲滅し、道も開けてる。もう立ち止まっている理由はない。エメラにここまで来る途中で受けていたかすり傷を癒してもらった後にオレらは顔を見合わせて頷き合い、一気に駆け出してとうとう茂みを抜けた。
そして、その先にあったものは────




