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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第12章 暁天繚乱ーOld Tellerー
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第146話 赤散らす花魁道中(2)

 

 そうしてオレらは早速オイラン島の奥地へと突入したはいいが……そこは話に聞いていたより閑散かんさんとしていた。

 外側からみても尋常じゃない長さと量の雑草が生い茂っていたが、内部はその比じゃなかった。オレの胸元に届くんじゃ無いかというくらいまで草が伸びていて、エメラ達妖精の小さい身体じゃ雑草にすっぽり覆われてしまう。

 少しでも動けば葉の先がオレらの身体を容赦なくチクチクと刺してくるし……道と呼べる道が無いことも相まって、オレらの行く手を確実に阻んできていた。


「くっそー、歩きにくい!」


「こ、これじゃあ元凶に辿り着く以前の問題だね……。足元のものは武器で掻き分けられるけど」


「それにしても、全然向こうからのリアクションがねえな」


「うん……今まで結晶があるところじゃ散々妨害されてたのに、今回はさっぱりだなんて」


 ルージュも、何の妨害も無いことが逆に不安にさせられるようだ。

 今まで氷河山や夢の世界の時など、『滅び』の結晶がある場所ではシルヴァートが施しておいた術を勝手に作動させたり、道を引っ掻き回されたりなど何かと邪魔されてきたというのに、今はそれが全くのゼロ。レシスの姿を写しているからか『滅び』の気配はより強く感じられるようになっているのだが、現状とのギャップに違和感を禁じ得ない。

 誘い込みたいのか、追い出したいのか。それが全く読めないのがかえって薄気味悪い。


「ふぅん、大本が何もしてこないとは実に退屈だけど……どうやら取り巻きどもは大人しくしてないようだね」


「……っ!」


 酒呑童子のその言葉につられて前を見てみると、茂みの中からボウ……と不気味な炎の玉が飛び出してくる。それは一つに留まらず、次々と集まっていってオレらはあっという間に囲まれてしまった。


「な、何だこれ?」


「……ただの炎じゃないですね。熱さが全く感じられませんし」


「鬼火です。下級の妖の一種なのですが……酒呑童子様を見ても逃げないとなると、どうやら敵の手に落ちてますね」


 その、鬼火とやらは確かに酒呑童子を目の前にしても逃げ出さないどころか、ボワっと火を大きくしてどう見てもやる気満々だ。

 妖の中でも鬼は代表格と認知されているくらい、その存在はシノノメ中で恐れられてる。その頂点である酒呑童子を前にしたら下級の妖なんて一目散に逃げ出す筈なのに、目の前の鬼火達はそれをしない。カグヤの言う通り、『滅び』に侵されているせいなのだろう。


「どんな奴が出てくるかと思えば雑魚だったか。この程度、僕一人で充分だ」


「クックク……下等の妖が、この私に楯突こうというのかい。正気ではないにしろ、見上げた根性じゃないか。最も、足止めになるかは疑問だね」


 言うが早いか、レオンと酒呑童子は他を差し置いてもう既に武器を構えていた。そして、鬼火が攻撃を仕掛けてくる前にそれぞれの得物を振り上げる。


「『ブラッドムーン』!」


「『煉獄華刃』!」


 それぞれ詠唱を終えるとレオンは紅い閃光を放ち、酒呑童子は炎を纏った薙刀で鬼火達を薙ぎ払う。『滅び』に侵されているとはいえ、元は下級の妖。吸血鬼と鬼の長の攻撃には耐え切れず、鬼火は抵抗する暇もなくあっという間に散っていった。


「おやおや、若造が随分出しゃばるじゃないか。隣に立たれるとしゃくに触るんだけどねぇ、大人しく後ろに下がったらどうなんだい?」


「フン、新参者の貴様に言われる筋合いは無い。貴様こそ引っ込んでおいた方が賢明だろう」


「生意気な口を利くねぇ。たかが数百年生きた蝙蝠こうもり如きにこの私が遅れを取るわけがなかろう!」


 そうして、鬼火を倒しながら2人は争うように先へどんどん進んでいってしまった。歩きにくい場所だというのに、それを全く感じさせない素早い動きで鬼火を撃退していくために、その姿はすぐに見えなくなった。

 そんな2人に気にされることもなく、完全に置いてけぼりにされたオレらは文句の一つも言えずに呆気に取られるばかり。大精霊3人は何処か予想していたようで、ため息をついたり、やれやれとばかりに肩をすくめたりしていたが。


「これがお二方の強さなんでしょうか……。とても付いて行けそうにないですけど」


「うむ。頼もしくはあると思うが、拙者せっしゃ達が続くのは至難であろうな」


「酒呑童子さんも凄いとは思ってたけど……レオンも大概、戦闘狂よね……」


「お前はどうなんだよ、カーミラ。お前だって一応吸血鬼だろうが」


「アレと一括りにしないでよ! レオンが暴れすぎなの。そう、あたしは普通! レオンの方がおかしいのよ!」


「血が嫌いな吸血鬼の時点でお前も大分異端児だと思うんだがな……」


「ともかくさ、あの脳筋共は放っておいても問題ないだろうけど、このまま僕らをタダで通してくれるわけでもないっぽいぞ?」


「……っ」


 オスクのその言葉通り、再び鬼火がオレらの周囲に集め始めている。熱さこそ感じないものの、取り囲まれる数が多くなればまるで火に炙られていると錯覚しそうになる。

 チッ、元凶は何もしなくても周りは黙ってないってことか……。


 先に2人が大暴れしてくれたおかげで雑草が刈り取られ、幾分かは動きやすくなっている。これなら問題なく立ち回れそうだ。

 酒呑童子は例外だったが、通常の妖には物理は効かない筈。なら魔法で応戦していくしかないか。そう思いながら、オレらも2人に出遅れてはいたが武器を構え、応戦出来る体勢を取る。


 こんなところで、立ち止まってられるか……!

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