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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第2章 影の輪唱
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第14話 廻りし暁の姫君(2)

 

  朝食の後、私は荷物をまとめて出かける用意をする。一回案内はしてもらったものの、迷ったら困るから王都の地図を握りしめながら行くことに。

 その地図を頼りに王都中心まで来た後に周りを見渡す。

 えっと、まず何処に行こうかな。

 地図を広げ、何処に何の店があるのか確認しながら街を見渡して見る。


 ……とは言ったものの、実は一番行きたい所は決まっていた。場所を確認した後に私は迷わず真っ直ぐ書店に向かう。読書は好きだし、以前からこの世界にどんな本があるのか興味があった。

 書店に入って早速、私は本棚をキョロキョロしながら見回す。本棚に綺麗に整列させられている本は古びているものもあるけど、私の目には輝いているものように映っていた。

 どれも見たことのない本ばかりだ。自然と気分が明るくなる。


 しばらく考えた結果、小説二冊と魔導書一冊を買うことに。会計を済ませ、買ったばかりの本を腕で抱え込む。

 三冊とはいえ、魔導書の厚さがそれなりにあるから結構重量がある。両手で抱え込むとずしっと腕に重量が響く感じがした。

 は、早いとこ、しまっちゃわないと……。


「何してんのさ?」


「うわあっ⁉︎」


 後ろから急に声をかけられてビクッとした。拍子に本を放り投げてしまいそうになり、慌てて本を抱きしめる。

 振り向いてみると、今朝までの執事服を脱いで、昨日目にした紫のローブに着替えていたオスクがいた。


「なんだ、オスクか。脅かさないでよ……」


「なんだとはなんだよ。誇り高き大精霊であるこの僕をそこらの有象無象と同類に見るつもり?」


「あ、はは……」


 そう言われて私は苦笑いする。

 オスクはそう言うものの、今までのといま現在の生活状況だと誇り高いとはかけ離れているように思えるんだけど。


「でもなんでここに? 仕事はどうしたの?」


「鬼畜妖精が午前中の分は終わりだと。言うなれば休憩だな。代わりとはいえこき使われているんだ、当然だろ」


 そんなオスクの言葉を聞いて、私はうーんと考え込む。

 実は、オスクのやっている仕事って自室の掃除とベッドメイク、自分で使った食器洗いと必要最低限。それにオスクが寝た後、ルーザはオスクのムラがある雑巾掛けをやり直したり、はいた落ち葉を集めて捨てたりとかフォローしていた。


 ルーザなりに気を遣っているんだろうけど、急に居座ることになったオスクに対してまだ警戒心が完全に拭えた訳ではないのだろう。本人の目の前でやれば少しはお互いに歩み寄れるかもしれないのに、ルーザもなかなか素直になれないようだ。

 オスクもルーザのそういうところをわかってくれるといいのだけれど。


「……それで、ここには何しに来たの?」


「別にぃ、お前の後ろを付いて行くだけだし。特に気にならないっしょ?」


「いや、気になるよ……。後ろからずっと視線を感じるんだから」


 私だって興味が向いたところを見て回るだけだし、面白いものでもないと思うのだけど。でも、今までそういった接触をしてこなかったオスクが見たいというのなら良い機会になるかも。

 このまま二人で街の散策するというのもいいかな。そう思って歩き出した、その時。


 ……ぐうぅぅ〜。


「ん、なんの音?」


 不意に何か、お腹が鳴るような音が聞こえた。私じゃないのはもうわかるけど……もしかして?

 そう思ってオスクを見ると顔を逸らしている。でも頰が恥ずかしそうに少し赤く染まっているのが横からでも伺えた。


 ああ……そういうことか、と納得。やはり、今のはオスクのお腹の音だったようだ。慣れない仕事の後でお腹が空いているのかも。

 先日まで地下神殿に篭もりきりだったオスクは多分……ほぼ間違いなく一文無し。たとえ安価であってもそんな状況では食べ物なんて買える筈も無く、かといってルーザに頼むのも出来ないだろうから、腹ペコのまま出歩いていたのだろう。


 知ってしまっては放って置けない。手軽に食べられて、尚且つお腹が膨れそうな食べ物……何かないかな? と、私は辺りを見回してそれらに当てはまる食べ物を探していく。

 やがて近くにそんな店を見つけることが出来た私は急いでその食べ物を買ってきて、それをそのままオスクの前に差し出した。


「ほら、オスク。お腹空いているんでしょ? これ良かったら食べて」


「……うん?」


 私が手渡したのは包み紙に包まれたハンバーガー。それなりに大きいし、簡単に食べられるから今のオスクには丁度いい食べ物だ。


「なにこれ、妖精はこんな紙の塊を食べるわけ?」


「ん? ああ、違うよ。これはこうして……」


 初めて見るものだから、オスクはハンバーガーがなんなのかわかっていないようだ。まるで目の敵と言わんばかりに眉を歪めつつ、訝しげな視線で手にしたハンバーガーを睨みつけているオスクに私はクスッと笑いながら包み紙を剥がしてあげた。

 その途端、包み紙の中に閉じ込められていた美味しそうな匂いが一気に広がる。オスクは顕になった見た目と匂いで食べるものだとやっと理解したところで、ハンバーガーにかぶりついた。


「……っ!」


「どうかな。口には合う?」


「……美味い」


「良かった!」


 それを聞いて自然と口元が緩んだ。

 ところが何を思ったのか、そんな私を見てオスクは怪訝そうな視線を向けてくる。


「……お前もあいつみたいに何かしろっていうわけ?」


「え? そんな気はさらさらないけど……」


 何を言い出すのかと思えば。そんなことを聞いてきたオスクに私はキョトンとした。

 オスクは一文無しだろうから、これくらいはいいと思うのだけれど。仕事に疲れてお腹が空くのは大精霊でも同じ、恥ずかしいことでもなんでもない。


「空腹になるのは仕方ないし。それに昨日、勝手に上がりこんじゃったから、そのお詫びも兼ねてね」


「ふーん。あの鬼畜妖精にも見習ってほしいくらいだな」


「あれでもルーザ、優しいところもあるんだよ?」


「あいつがぁ?」


 なんて言って、オスクは疑わしげに私をジロリと睨んでくる。

 まだ出会ってから一日しか経っていないから、昨日までの印象が強く根付いてしまっているのだろう。だけど、私だって最初はあの言葉遣いだし、見た目もあって剣を向けてしまった。でも今では仲良く出来ているし……オスクも何かきっかけさえあれば関係が改善するかもしれない。

 ……私はそう思いながら、残りのハンバーガーを口に放り込んだ。

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