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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第12章 暁天繚乱ーOld Tellerー
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第140話 その名は「創造主」(2)

 

 創造主……それが、以前の王笏の行使した者。

 以前、今と同じような状況におちいった時に、現在はオレらの手元にあるこの王笏を振るったかつての救世主……の筈なのに、本人がただ目立ちたくないという理由だけで歴史から語られざる者となった、不可解な存在。

 名前も、出生も、その偉大なる功績すらも、全くと言っていいくらい現代に残されていない。本来であれば、今の状況を打破するためにその人物のことをよく知っておくべきだというのに、今になってやっと『いる』ということだけを知った程だ。


 当然、ここにいる誰もが一度も聞いたことのない名だ。なのに、


「ゼフィ、ラム……」


 ただ一人、オスクだけは何やら聞き覚えがあるかのように、その名を復唱していた。今までそっぽを向いて、今のカグヤの話だって興味がないように聞き流していたにも関わらず。


「……ん、なんだよお前。そのゼフィラムっていう創造主のこと知ってたのか?」


「え? あ、いや……」


「……?」


 その反応に思わず首を傾げる。

 オスクにしては、あまりにも煮えきらない返事。その表情はらしくもなく、困惑の色を浮かべているし。それに……『ゼフィラム』と口にした時、やけに肩をビクつかせていた。


「勤勉で努力家の貴方のことです。災いに対抗しうる力を付けていく段階でその名を耳にしたのでは?」


「……違う。聞いたことない、一度だって。王笏を前回使った奴のことなんて知らない。調べたこともあったけど、結局辿り着かなかった筈……なのに、なんか耳にこびりつく」


 カグヤの言葉を否定するも、何処か納得がいかないようにオスクの返事は曖昧(あいまい)なものだ。本人が知らない筈だとは言っているが、「絶対」とは言い切ってない辺り、確証が持てないのだろう。


「聞いたことも知りもしないことなのに、なんかその名前だけはやけに気になる……ああくそっ、気持ち悪い!」


「なんだろう、過去に何か関わりがあったとか?」


「大昔にいた奴だろ。可能性としては低いし、今まで見てきた資料の中にも一字一句だってそいつのこと記録は無かったんだろ?」


「まあ……うん、そうだけど」


「……原因の特定とかいいから。ただちょっと気になった程度だ。どうせ大したことないっしょ」


「お前がそう言うならいいが……」


「気になることではありますが、オスク様の言う通り原因を解明する程の余裕はありません。わたくし達には今、優先すべき目的があることを忘れないように」


「そう、だな」


 創造主のことについて、オスクがやけに引っかかると感じた理由について気にならないと言えば嘘になるが、オレらには急ぐべき目的がある。カグヤも創造主についてはそれ以上知らないらしく、以降は一切情報をくれなかった。

 もうオレらがカグヤから得られる情報が無いのであれば、これ以上足踏みしているわけにもいかない。オレらは改めて目的地を見据え、再びそこを目指して歩き始める。


「……創造主、か」


 到着するまでの間、仲間達が再びお喋りを楽しんでいる中でオレはさっきまでのことを一人、振り返っていた。


 大層な肩書きの割に、記録も残されていない、語り継がれていないなんて……やっぱり不可解だ。起源の大精霊とも称されている通り、そいつがこの世界の始まり、いしずえなんだからもっと崇められられるべきだというのに、それすらも皆無だとは。

 前代の救世主でもある創造主。今、その役を受け持つオレとルージュはそいつの行動にならうことだって一つの対抗手段の筈。なのに現実は記録無し。目立ちたくないというだけでそれすら許さない程、記録を完全に抹消する徹底ぶりは最早筋金入りだ。


 それと、オレとルージュが現れるまでは王笏を託されていたのはオスクなのだと、レシスから聞いていた。オレとルージュに王笏の適性があることを知った途端に、「相応しくないから」なんて言ってその資格をあっさり放棄したらしいが。だが、根はクソ真面目なあいつのことだ、放棄した後も『滅び』に対抗するために昔も変わらず努力を重ねていたに違いない。

 オスクが創造主について何か触れたとすれば、その時が一番可能性としては高いが……


「考えてもわかる訳ない、か」


 オスク本人でもわからないことなんだ、オレがいくら考えたところで答えなんか導き出せる訳がない。原因を知りたい気持ちはあるが、今はどう足掻いたってそこには辿り着けない。

 だが、気になる存在でもある。カグヤは身体はとっくに滅びてる、と言っていたが、いなくなったとは言っていない。まだ何処かで存在しているのかもしれない……そうだとしたら、会ってみたいものだ。世界の命運とか関係なく、始祖としてどんな道を歩んでいたのかが純粋に興味がある。


「到着しました。ここが霊峰・フジです」


「……!」


 考え事をしている内に、目的地へと着いたようだ。目の前に天に向かってそそり立つ、巨大な大地の柱がそびえていた。

 妖が多く潜んでいるというせいか、山全体が神秘的な空気に包まれ、荘厳な雰囲気をかもし出している。氷河山程の標高はないが、シノノメの中央にどっしりと構えているそれは、簡単には進ませないというような試練を課されているように思わせた。


「ここがアンブラの火山と繋がる場所なのね。確かに、ぱっと見は同じ標高に見えるわ」


「でも近くで見ると予想以上にたっけえぞ……。これ、今から登んのか」


「うわ〜、自信なーい……」


「任せて。氷河山とは性質が違うけど、登山経験は父さんから仕込まれているから、安全な道を選ぶくらいはお安い御用だよ」


 不安がるイアとエメラを励ますように、ドラクがここぞとばかりに先導を買って出てくれた。

 ドラクは氷河山の案内妖精だ。この霊峰・フジは火山のようだから、氷の山である氷河山とは性質が真逆とはいってもドラクの登山技術の高さは本物だ。最強の妖が根城にしているだけあって登山道は整備されていないようだし、オレらのような素人がこの山を登り切るならドラクのような経験者の後ろを付いて行く他ない。


「先の騒動で、シルヴァートから貴方の功績は伺ってました。貴方がいなければ氷河山は今頃災いの手に落ちていた、と。シルヴァートが認めたその技、この目でしかと見させていただきます」


「え、ええっ……カグヤさんからそう言われちゃうとプレッシャーが……」


「安心しなよ、ドラク。ドラクの登山技術ならこの山なんて軽く登れるって、僕が一番わかってるから」


「う、うん。フリードが……そう言うなら」


「へーえ? 女装してる割には強く言うじゃん」


「女装じゃありませんし、これは不可抗力ですっ!」


 ケラケラと笑い飛ばすオスクに、フリードは涙目で抗議する。やっぱり、男の中で自分だけ浴衣なのが気になって仕方がないようだ。


「あと、酒呑しゅてん童子どうじの元までへの辿り着き方か。ルージュ、フユキの情報メモしてたよな?」


「ああ、うん。ちょっと待って」


 ルージュはすぐさまカバンを弄り、さっき書き留めておいたメモを取り出す。そしてその中につづられた、さっき得た情報を再確認。


『────一に進め、天見て進め。

 夜明けの光、目指して進め。

 ────二に逃げろ、走って逃げろ。

 大地の涙、跨いで逃げろ。

 ────三に探せ、歩いて探せ。

 頂き見据え、迫るお日様、背を向け探せ。


 進んで、逃げて、探した先、求めるものは日沈むそこにあり』


「……そして最後は『後ろの正面、だあれ』、か」


「ふむ……その歌詞、やはり『かごめかごめ』だろうか」


「え? イブキ、何それ」


「『かごめかごめ』というのはシノノメの子供の遊戯の一つだ。わらべ唄を用いて行うものであるのだが、このわらべ唄の最後にその歌詞と同様のものを唄うのでな。何か関係があるのやもしれぬ」


 同じ歌詞がある……か。フユキがその遊びを知っているのだとしたら、意図的にその歌詞を用いたのかもしれない。それなら、その『かごめかごめ』とやらに手掛かりがある可能性もある。

 流石のカグヤもシノノメの子供の遊びのことは知らないらしい。ここはイブキに説明を頼むか。それを伝えると、イブキも快く「承知した」と言ってくれた。


「『かごめかごめ』は一人を鬼と決め、残りの複数人でその鬼を囲み、鬼の周りを踊るというわらべの間でよく行われる遊戯の一つだ。発祥は諸説あるのだが、いずれにしても前向きなものではなかった筈。儀礼を真似たという説もあるが、囲む者を囚人に見立てているという話もあった」


「しゅ、囚人って……」


「そして、『後ろの正面、だあれ』と唄を占めるのだが、これは背後にいる者が何なのかを当てろという指示だ。転じて、背後に憑いている存在を指している」


「相手は妖だからな。強ち間違いでもない、か」


「そして囲む者が『鬼』……仲間に引き入れることを指していたのだとすれば、フユキ殿の言葉選びは正しかったであろうな」


 フユキの情報は直接言葉にすると危ないからと、わらべ唄のような分かりにくい形にしていたが、こうして冷静に考えてみるとちゃんと近い意味の言葉を選出してくれていた。

 前半部分は山に入ってからでないと分からないが、実際の景色と照らし合わせれば解けるだろう。


「ま、何にしても後ろは気にしてた方が良さそうだな。背後は任されてやるから、先導はそっちでやってなよ」


「うん、分かった。ルーザ、一応精霊の姿になっておく?」


「ああ……そうだな。視界も広い方がいいか」


 ルージュと頷き合って精神を研ぎ澄ませる。オレらは浴衣姿はそのままに、身体だけを精霊のものへと変えた。見せかけだけだが、この姿なら僅かでも大精霊としての力を行使できる。最強の妖相手なら尚更だ、念には念を入れておくに限る。


「効果があるかわからないけど、一応このランプも使っておこうかな」


 山に入る前に、ドラクは自分のカバンの中にしまっていたらしい、いつも腰に下げているランプを取り出して明かりを灯す。

 ドラクのランプはドラクの魔力によって正しい道筋を光によって指し示してくれる魔法具だ。安全な道に導く案内妖精の必需品というべきものだが、妖の干渉がある山の中でどれだけ効果を発揮できるかは正直わからない。だがまあ、できる備えはできるだけしておいた方がいい。


「では、参りましょう。災いを止めるため、何としてでも酒呑童子の協力を取り付けるのです」


 準備完了と判断したカグヤはそう宣言すると、身に纏っていた見すぼらしい麻の浴衣を脱ぎ、一瞬の内にあの夜空を染め上げた浴衣に腕を通す。そしてオレらはドラクを先頭に、いよいよ霊峰へと足を踏み入れた。

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