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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第12章 暁天繚乱ーOld Tellerー
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第138話 渡来と出会いと(3)★


 やがてカーミラの注文した着物を見つけてきたらしいモミジが戻ってきて、オレらはそれぞれの着物の着付けをしてもらった。腹に巻きつける帯は相変わらずキツかったが、身を引き締めるそれは程よい緊張感も与えてくれた。これから『滅び』との戦いに赴くオレらにはこれくらいが丁度いい。

 カーミラは初めてとあって着替えに少々時間がかかるようだから、オレら3人は先に外に出てカーミラを待つことに。店の前では既に着替えを終えていたらしい男達も待っていた。


「滞りなく着替えられたようですね。よくお似合いです」


「うむ、皆の雰囲気に合っている。モミジの見立てに間違いはないようだ」


「それはいいけど、相変わらず胸がスースーすんな、この服」


「僕も……なんでモミジさん、ハカマにしてくれないんでしょうか……」


「あ、フリードは変わらず着物なんだね」


 オスクが寒さ避けに巻いているマフラーを巻き直している横で、着替えたにも関わらずまだ恥ずかしそうに縮こまっているフリード。原因は前回と同じく男の中で唯一着物姿のためだ。

 モミジ曰く、着物に男物も女物も関係ないらしいのだが、他の男全員がハカマ姿の中でフリードだけ着物では、中性的な容姿も相まってどうしても女子に見えてしまう。以前、着た時もフリードは嫌がっていたのにそれを変更しなかったということは……明らかにわざとだな、これ。


「そう恥じることはありません。貴方の雰囲気によく合う見立てだと思います」


「う、うむ。モミジもそれが其方そなたに一番合うとの判断した上での選択なのだろう」


「褒めてくださってるところ申し訳ないんですが、あまり嬉しくないです……」


「ま、まあ市街地を出たら脱ぐから、それまでの辛抱だよ」


 カグヤとイブキに褒められても、逆に落ち込んでしまったフリードにルージュは咄嗟に励ましの言葉をかけている。本人が落ち込んでるところ悪いが、オレも似合っているのは否定出来ない。

 さて、後はカーミラだけだが……


「じゃーん! おまたせ!」


 噂をすれば。着替えを終えたらしいカーミラは、自分で効果音を付けながら早速着物姿を披露する。


挿絵(By みてみん)


 カーミラが希望した通りの、雪の結晶が無数に描かれた青い布地。ただ、通常の着物とは違って肩も剥き出しで、裾の丈が随分と短いその形はまるでミニスカートのよう。

 普段、カーミラが身に纏う紅や黒のゴスロリ姿とはまるで違う雰囲気だが、銀髪と色合いが良く合っている。それに、内側の布地や頭に結びつけてあるリボンなど、あちこちに紅があしらわれているのがどことなくカーミラらしい。


「わ、すごい! その着物も可愛い!」


「えへへ、着物なんて初めてだけど気に入っちゃったわ。ありがと、モミジさん!」


「ええんよ、見た目がええとウチも楽しくてなぁ。旅精霊用のちぃと露出が激しい型やったけど、素材が良質だと映えるもんやね」


 カーミラの着物姿にエメラは盛り上がり、仕上がりにモミジも満足げだ。カーミラも気に入ったという言葉は嘘じゃないようで、楽しげにその場でくるくる回っている。

 さて、これで町も問題なく歩けるようになった。だがこれはあくまで下準備、さっきのカグヤの言葉によれば突っ込む前にまだ何か手札を増やしておきたいようだし。


「まだ何か準備があるっしょ? 僕らが加わるだけで対抗できるような相手でもなさそうだし」


「ええ、まず会いたい相手がいるのです。このシノノメ中央に聳える、霊峰・フジの頂上に住まう者を訪ねたく思ってまして」


「アンブラじゃあの火山に当たる山か……。登るだけで手強そうだね」


 ドラクの言葉に、思わずうなずく。

 アンブラの火山ではなかなか酷い目にあった。『滅び』の異変もそうだが、落石にぶつかりそうになったり、ヴリトラの襲撃に遭ったりなど悪い思い出しかない。

 裏側とはいえ、あの火山と同等のレベルの山にまた登ることになると思うとあまり気乗りしないのが本音だ。だが、これも『滅び』への対抗手段を増やすため、文句は言ってられない。


「霊峰というだけあり、登るのも決して容易くはありません。しかし、その頂上に住まう者はかなりの力を有しているのです」


「……ふーん、君らはそんな力を求めるためにそんな危険な山に突っ込むつもりかぁ」


「ああ。……ん?」


「えっ、誰⁉︎」


 突然、オレらの話に割り込んできた部外者。あまりに堂々と話に混ざってきたものだから反応が遅れたが、ルージュが咄嗟に飛び退いたことで全員の視線がそいつに向く。


 そいつは何かの植物を編んだような笠を被り、白い着物に身を包んでその上から黒の外套がいとうを羽織っている、雪のように真っ白な髪を持つ人間体の青年だった。

 そいつはオレらが警戒の眼差しを向けている中で、何故だかぽかんとした表情をしていた。が、やがて自分が何をしていたのか思い出したらしく、慌てて否定するように手をブンブンと振ってくる。


「おおっと、ごめんごめん。職業柄、つい気になる話に耳を立ててしまって。いやー、失礼なことしちゃったな」


「職業柄、って……」


「な、何者だよ、お前……」


「まあまあ、君らに危害は加えないんで安心してよ。何者か、って言われればそうだなぁ……」


 その青年は一歩下がり、被っていた笠を脱いで顔を露わにする。そして、潤いが感じられる蒼の瞳でオレらをじっと見据えながら、ゆっくりと口を開いた。


「俺は『フユキ』。ただの風来坊……しがない情報屋さ。仲良くしようぜ、妖精さん?」


 ……フユキと名乗ったその青年は、挨拶代わりとばかりに口角を持ち上げて悪戯っぽい笑みをオレらに向けてきた。

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