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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第11章 響く災厄の鼓動ーSign of Destructionー
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第136話 響く厄災の鼓動(2)


「……ふう」


 額に手を当て、ため息を一つ。朝日が自分の顔に直撃し、眩しいったらありゃしない。


 どうやら、問題なく現実に戻ってきたようだ。前回は夢の世界へ一度戻されてから現実へと引き戻されたが、それはルヴェルザ……いや、レシスに状況報告をするため。

 今回は頭の中で会話しながら情報共有が出来ていたから、それは不要だと判断されたのだろう。いつの間にか、僕の意識は一気に現実へと帰らされていた。


「さて、と」


 精神的な気怠(けだる)さから、二度寝でもしたいところだが証拠隠滅が終わってない。このまま眠気をズルズルと引きずっていてはカバンのことがバレてしまうために、仕方なく飛び起きて身なりを整えていった。

 それが終わったら、行く前と同じようにルージュの部屋をこっそり覗き、まだ眠っていることを確認して、カバンを元の位置に戻した。これで全ての作業も完了、一安心ってわけだ。


 ……と、思っていたのだが。


「ねえ、ちょっといい? 確認したいことがあって……」


「ん、どうした?」


 それから一時間後。朝食の時間になって、この屋敷に居座っている全員がリビングに集まってきた時にその話は切り出された。

 そう言ってきたのはルージュ。何やら不安げに表情を少々歪め、あまりいい話でないことは明白だった。


「どうかした? 何か嫌なことがあった、とか?」


「うん。ちょっと、ね」


「ほう。愚にもつかぬ程くだらない案件でなければ助力しないことでもない」


「え、ええっと……そこまで深刻なことじゃないんだけど。誰かに部屋をいじられたらしくて」


 カーミラが心配そうに、レオンが興味がないといった風の反応をする中で、僕はギクリと肩を若干震わせた。

 まさか、な。カバンはちゃんと元の位置に戻した筈だし、万が一ズレがあったとしてもミリ単位程度の誤差だろう。それに、他の物には一切触れてないんだし、部屋に忍び込んだのも一分に満たない。僕が犯人だと特定する材料も少ない筈。

 沸点が高いルージュのことだし、余程のことが無ければこんな話を持ちかけられることもないと思っていたのだが。


「それってコソドロにでも入られたか? そんな気配はしなかったが……」


「そうだろうね。……犯人は身内だったし」


「……は?」


 ルーザと、吸血鬼2人が揃って首を傾げる中で僕は内心焦っていた。

 おいちょっと待て、なんでそこまで知ってる。それに、その口ぶりからしてもう断定しているところまで来てるといった様子だし……一体どうやって。

 表面では冷静を取り繕い、しかし内面で慌てまくっている僕に、ルージュは何故かにっこりと笑いながら近づいてくる。


「あのさ、オスク。気になるものがあって一緒に見てほしいんだけど」


「……へえ、何なのさ?」


「これ、なんだと思う?」


「ゲッ⁉︎」


 ルージュから差し出されたのは一枚の絵……確か写真というものだったか。それにはある場面がバッチリと映っていた。

 僕がルージュの部屋に忍び込み、カバンを拝借している決定的瞬間を。


「は、おまっ……これどこで?」


「元は姉さんのものとはいえ、今は私の屋敷だよ? 王族御用達の警備用魔法具って便利でね……。そこに私が少し改造を施して、証拠を取り押さえるためにこうして写真に撮るようにしていたの」


「へ、へぇ〜……」


「元引き篭もりで本の虫だった私の知識量舐めないでよ? まあ早い話ね、オスクに用があるの。この前聞いたルーザの言葉を借りるとすれば、」


 不意に言葉を遮り、逃すまいとばかりに僕の手首を掴むルージュ。そして空いたもう片方の手で外を指差し、最高に良い笑顔で僕に迫って……


「『表出ろ』、だよ。大人しく」


「……」


 そんな残酷な死刑宣告が下され、「あ、終わった」と一気に血の気が引く。

 確かにルージュは沸点が高い。僕とルーザの小競り合いで声を少々荒げる時があるが、それだけ。だが普段が穏やかなだけに、一度爆発した時が手を付けられない。

 ……何せこいつはブチ切れた時に、プラなんとかとかいう学校を半壊させたことがある化け物だから。


『あ、私しーりません』


『じゃあな、強く生きろよ』


「おいこら、テメーらぁ‼︎」


 何とか周りに助けを求めようとするが、時既に遅し。半透明な双子には早々に見限られ、


「まあ……その、なんだ。なんだかんだで良い奴だったよ、お前」


「え、ええ。オスクさんのことは一生忘れないわ!」


「……潔く逝け」


「要するに死ねって言ってんじゃん‼︎」


 他の3人にも見捨てられ、頼みの綱はもう全滅。まだ始まってもいないというのに、それすらもまるごと『絶命』させられていた。


 一つ良かったすれば今回のことで新たに得られた教訓があることくらい。

 それは、ルージュだけは絶対に怒らせちゃいけないということだろうな……と、そんな軽い現実逃避を脳内で繰り広げながら、目の前に迫り来る光の手槍を真っ直ぐ見据えていた。

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