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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第2章 影の輪唱
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第13話 嘲笑う傍観者(4)


「さあて────お前ら馬鹿どもを僕の闇にご招待、ってな!」


 その予感が嫌な方向に当たる。突如としてギュンッと影が伸び、この空間一帯を包み込む。蝋燭しか光源がない地下神殿は一瞬で暗闇に閉じ込められた。


「なっ⁉︎」


「ククク。さあ、精々足掻いてみせろ!」


 オスクの声が空間にこだまして、響き渡る。やがて暗闇にその身体が溶け込み、オスクの姿が見えなくなる。

 大精霊の力故か、その闇は真っ暗というちゃちなものじゃなかった。手元が辛うじて見える程度で、足元は霞みがかったように視界に捉えることさえ難しく思える程に。

 チッ、変な真似しやがって。意地でも当ててやる!


「そらっ!」


「えいっ!」


 オレらは武器を何度も振るい、なんとか攻撃を当てられないか闇に挑む。だが、何度やっても手応えがない。空気を切り裂き、視界の闇を歪める程度だ。

 だがオスクは違う。暗闇に紛れ、オレらに向かって正確に刃を振り下ろす。視界に捉えることが出来ず、予想外の方向から飛んでくる斬撃にオレらは翻弄されるばかりだ。

 状況は最悪。どうする……⁉︎


「アッハハハッ! まるで踊ってるみたいじゃん。お前ら、やる気あるわけ?」


「だ、駄目です。当たりません……!」


 暗闇の先から、オスクの嘲笑う声が聞こえてくる。それでもオレらは武器を振るうが、一向に当たる気配はない。オスクにはそんなオレらの様子が見えているようで、馬鹿にした声が返ってきた。


「無駄なことはやめろっての。影は空虚同然、お前達に勝ち目はない。ズルズル伸ばすのも面倒だ、……次は完全に沈めてやるよ」


「……っ!」


 暗闇越しでも、オスクの寒気がするほどの魔力を感じ取れた。この暗闇さえ揺らぎ、全てを吹き飛ばさんとする……破滅の予感が脳裏によぎる。


「おい、お前の光の魔法で晴らせないのか⁉︎」


「やってる! けど、晴れる気配がない……!」


 ルージュは光弾を出来るだけ多く闇に飛ばすが……それは闇に呑み込まれるようにフッと消えてしまう。


「無駄無駄。その程度の光なんて、僕の闇で搔き消える。精々消しとばされないないよう、踏ん張っていたら?」


「……ッ‼︎」


 本能的に感じる。暗闇の先で、オスクが次に取る行動によって……オレらに終焉がもたらされようとしていることが。

 クソッ! せめて……せめてさっきの光弾が反射してあいつに当たればいいのに!


「反射……? そうか、フリード氷を作って! 特大の!」


「え。あ、はい!」


 ルージュの指示でフリードは手の中にありったけの冷気を集める。たちまちその冷気はカタマリとなって、……やがて巨体なつららへと形を持って現れる。


「それをどうする気だ?」


「正直、確証はないの。大精霊相手じゃ、私の光なんてせめて手の中を照らすくらい。……でも」


 ルージュはつららを見据える。その途切らせた言葉には相当な覚悟を込めていることを表して。紅い瞳で、まっすぐつららを見つめる。


「でも、足掻くって決めたから。せめて……敵の斬撃を視認出来る程度にまで照らしてみせる────!」


 ルージュの手の中から光の玉が出現する。それは徐々に大きくなり……やがて月のように優しくオレらを照らし始める。

 その光の玉をルージュはつららに押し込んだ。


「『リュミエーラ』‼︎」


 つららに押し込まれた光は、つららの中で跳ね返る。

 自然の氷のように、複雑に平面を作り角ばる氷に、ルージュは光を中で暴れさせて……たちまち透明な結晶の中で光は乱反射する。

 ぶつかり合い、やがて止まり……結晶を通して四方八方に輝きを放った!


「うわっ……!」


 まるで太陽だ。今まで視界が暗闇で塗りつぶされていたこともあって、とても目を開けていられない。

 だが、これほどの強い光ならなんとかなったんじゃないか……!


 まぶたの裏が暗くなった後、恐る恐る目を開く。そこにあったはずの暗闇は、今まで閉ざしていた闇は、ルージュの光によって掻き消されていた。暗闇で隠されていたオスクの姿も見事に炙り出されている。


「や、やった……!」


「はん、大手柄じゃねえか。これで袋叩きだな」


 オレはにんまりと笑みを浮かべ、鎌を握り直す。その切っ先にいるオスクは術が破られたことにご立腹だった。


「ふん……。闇を晴らせても僕には敵わないさ。下等な妖精どもが、さっさと終わらせてやるよ!」


「そうはいかないよ。……正面に気を取られて、肝心なところに配慮が足りていない」


「……ッ⁉︎」


 ルージュが指差す先。そこにはいつの間にかオスクの背後に回っていたドラクが電気の魔法でオスクの身体を縛り付けていた。

 不意をついたことで、オスクも気づかなかったらしい。────絶好のチャンスだ。


「ルーザさん、トドメを!」


「……ああ!」


 当然、オレは深く頷く。

 オスクは電気でがんじがらめに身体を縛られ、その場で動けずにいた。オレは逃さないよう素早く間合いを詰める。


「お望みの迷惑料だ。貰っとけ‼︎」


「────ッ‼︎」


 鎌から精一杯の鋭い斬撃を放つ。斬撃はオスクの身体を捉え、ザシュッ! と音を立てると同時に、確かな手応えが鎌から伝わってくる……。


 オスクはオレの全力に耐えきれず、倒れこむ。ドラクの魔法からも解放され、大剣が手から離れて霧のように消滅した。

 ……結果は明白。オレらの勝ちだ。


「ほら約束だ、出してもらうぞ」


「……ふんっ! まぐれで勝ってめでたい奴だな!」

 

 オスクはそう吐き捨てると同時に、後ろで重々しい音が聞こえてきた。振り返って見ると、あの入り口の石の扉が開かれている。

 オレはオスクと、この神殿を後にすることに。オレとルージュについて何か知っていたようだがこの状況で聞いても無理と思い、そのまま出口へ向かう。オレは悔しがっているオスクを背にして、そんな態度を鼻で笑った。


 ……ふん。まぐれでも勝ちは勝ちだ。勝負は時の運というように、何が起こったって不思議じゃないんだから。

 オレはオスクから完全に顔を背けて、扉の前で待っていた3人と出口をくぐる。そして元来た道を歩き始めた。気になることはあったが……もう疲労で帰りたい気持ちを優先した。

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