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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第11章 響く災厄の鼓動ーSign of Destructionー
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第126話 ブラインド・タイム(4)


「『ワールド・バインド』!」


 詠唱した直後、闇の障壁から無数の鎖が出現する。それはまだ空中でもがいていたガーディアンどもを絡めとり、その動きを封じる。

 ヤツらは墜落こそ免れたが、今まで好き勝手に飛び交っていたのが一点に集められる。拘束されたことでやっと超音波が正常になってきたのだろうか、キィキィと耳障りな音で僕を威嚇するように喚くが僕の鎖はそう簡単に解けるものではない。


「これ仕掛けるために逃げ回っていた、って聞いたら怒るかなぁ?」


 ヤツらを見据えて、僕はそう呟く。

 さっきまで、ヤツらの攻撃を避けまくっていた意味。この急いでいる時に敢えて時間稼ぎをしていたその本意は、全て今の状態を成すため。逃げ回りながら鎖の『種』を障壁に植え付けて、すぐに実行すれば良い作戦を引き延ばしていたその訳は……全て今の状況を作り出すためのものだった。

 つまり、最初からこうするつもりだった訳だ。


 あの時の、『(アイツ)』が言っていたことは正しい。失ったものはそう簡単に返ってこない。保険をかけていたとしても、この刃は不自由なく振りかざせるものではない。

 ただし、今のような極限状態を除けば。だからこそ敢えて自分を追い詰め、焦らせて、今の状況を作り出した……それこそが僕の真の目的。


「聞こえてたっしょ? 終わったら本気で消すってな……!」


 ここに来たばかりの時に呟いていた独り言。あの場にはいないとは思っていても、この世界が『滅び』そのものも同然……ヤツらは僕らがここに入り込んできたその時から、僕らの動向を伺って、あわよくば仕留めようとしていた。

 最初は存在こそ気づいていなかったが、だからといって警戒しない程馬鹿じゃない。その何気無いような一言もヤツらへの挑発である前に、この世界への宣戦布告でもあったのだから。


「そらっ!」


 ヤツらの動きを完全に封じたことを確認し、僕は頭上の障壁に穴を開ける。それから水鏡を回収すると同時に飛び上がり、僕もその穴から障壁の外へ出る。

 ヤツらも障壁の穴から外へ出ようと試みるが、それは叶わない。ヤツらに巻き付けた鎖はしっかりとヤツらを絡め取って、障壁の中に縛り付けてくれた。


「さあ、終わりだ!」


 暗闇の中でもがくヤツらを見据え、僕は最後の仕上げに取り掛かる。

 今でこそ分裂して数を増したとしても、それは無意味だと思い知らせるために。せめて一体でも助かろうと足掻く害獣どもに、今度はこっちが絶望を思い知らせるために。


 ……腕を振り上げ、高まらせた魔力を限界まで張り上げる。すると開けた穴は再び閉じて、ヤツらを完全に闇の中に封じ込める。そして僕の魔力に反応し、闇の塊はドクンと脈打った。

 僕は完全にヤツらを葬り去るために、力を一点に集中させる。闇の塊はみるみる内に凝縮し、ヤツらが動ける範囲をどんどん狭めていく。

 そして……


「────『パニッシュ』」


 開いていた手を握りしめて、その中の空気を潰すような動作をして見せることで、闇はさらに大きく揺らぐ。『裏』との小競り合いで吸収しておいた、全てを絶つ力を用いたことによって。

 瞬間、グシャリという鈍い音を響かせ……闇の塊は消失する。閉じ込められた、コウモリ達を道連れに。


 それを見届けた後に、僕はふう……と息をついて、一言。


「……おしまい、と」


 安堵感か、達成感か。その言葉を発した気持ちが何にせよ、無茶した分の代償が今になって押し寄せて、僕はその場で膝をつく。それと一緒に、終わりを実感した僕は後ろ髪を消滅させて。


 ……これはきっと始まりに過ぎない。これからも、この世界でのティアの捜索にはまだまだ障害が立ちはだかる。

 しかし、だからなんだ。壁があるのはわかっていたこと、そう簡単にいかないことは百年以上探している僕にはとっくに覚悟していたことだ。どれだけ足止めされようが、どんなに強敵であろうが、僕はもう立ち止まったりはしない……決して。


「オスクさん!」


「ああ……ルジェリア」


 そっちも終わったことを確認したのだろう、先に逃がしておいたルジェリアが僕の元へ駆け寄ってくる。そうして、どこにも傷が無いか確認するためなのか、僕の全身を舐めるように見てくる。


「おい……あんまジロジロ見んなっての」


「だってだって、本当に心配したんですよ! もう一人で取り残されるのは嫌なんです……!」


「……悪い」


 そういえばそうか、と僕は今更ながらルジェリアに酷な選択を強いたことを詫びた。

 たった一人で夢の世界に追いやられ、十年以上も孤独なまま待つことしか出来なかったルジェリアには、『一人』というのがそれだけ恐怖を煽ることはわかっていたのに。

 全く……その点じゃ身体も記憶も変わらないな。


「納得しないまま追い出したのは悪かったけど、あれが僕に出来る限界だったんだよ。僕はお前の身体みたく、機転利かせた策を練るのはじれったくて無理だし」


「……はい。でも、オスクさんが無事ならそれでいいです。終わり良ければ全て良し、です!」


「勝手に終わらせんな」


「あっ、そうですね!」


 うっかりしてた、という反応を見せるルジェリアに僕はため息をつく。

 今はガーディアンを一体退けたに過ぎない。ティアの捜索はまだ始まったばかり、ここで回れ右をするなんて真っ平御免だ。そう思いながら、僕は脱げていたフードを被り直して再び前を向く。


「意外とまだ余裕あったっぽいし、進展ないにしても少しでも距離を……」


 ────そう言いかけた時だった。

 視界が、ぐらりとブレる。足が急に重たくなり、頭が霧がかったようにぼんやりし始めて。胸を握り潰されているような圧迫感と息苦しさが一気に僕らに襲いかかる。


「ぐ……これ、は」


「なんで、すか……なんか、急に……!」


 ルジェリアは慌てふためくが、僕は何となくわかってしまった。

 世界の毒が今になって回ってきたんじゃない。ここに入って来る前にも体験した、他者に自分の魂ごと引き上げられるような……そんな感覚。つまり、これは……


『タイムリミット。……時間切れだ』


 聞き覚えがある声がした。告げられた言葉に僕はああそうか、とまるで他人事のように納得する。視界を遮られ、盲目だったのは敵じゃない。自分自身だったのだと、そこでようやく気が付いた……。

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