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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第11章 響く災厄の鼓動ーSign of Destructionー
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第124話 それは「虚無」という名の(1)

 

 ────白と言われたら何を思い浮かべるか。

 潔白、純白など、何かと汚れのないように扱われる。そしてそれは決して主張が強くない、もっぱら周囲の引き立て役として扱われる色でもあるが、汚物と見られることも無いだろう。

 しかし自分に取ってそれは、少なくとも今目の前にある『白』は……()()でしか無かった。


「嫌悪感しかないっての、こんなの……」


 その『白』を見据え、僕────オスクは不満を包み隠すこともなく舌打ちする。

 今、自分の目の前に広がるその色は白には変わらないが、綺麗さなんて欠片もありゃしない。この白はこの世界に迫っている災厄が全てを消し去って生み出したに過ぎない色だ。


 有無を言わせず消されて、その結果として生まれた爪痕がこれだ。そんなものに、何処に綺麗だと言える要素があるだろう? 探し物のためにここに来たとはいえ、長時間留まるなんてこっちから願い下げだ。


「目的達成したら闇で包んで消し飛ばすかなぁ?」


 そんな冗談にも等しい独り言を呟きつつ、とりあえず目を逸らしたいがために、まぶたを閉じて視線を一旦遮断(しゃだん)する。……まあ、モノがモノだから終わったら本気で消すけど。そんなことを思いつつ、首に巻いたものに触れた。

 双子から貰った、蒼のマフラーと紅いアミュレット。汚らわしい白に囲われた今の状況に、その2つはより一層その色が映える。願掛けなんかに頼るつもりはさらさらないけど、今ばかりはこの二つの存在が状況が状況なだけに有り難いものだ。


「さーてと。そろそろ動くか」


 そう(つぶや)いて、僕は持ってきておいた唯一の手掛かりを取り出す。

 一点の曇りもない、澄み切った結晶石。砕け散って歪な形だというのに、その表面は磨かれたように艶やかで、ぱっと見では高価そうな鉱石。

 これは浄化した『滅び』の結晶だ。今まで敵のことをを少しでも知るために、とサンプルとして掻き集めていたそれ。ルージュのカバンに突っ込んでおいて後から取り出し、少しずつ調べていたのだが……探し物のためという用途で使うとは思わなかった。


 このままではただの石同然なのだが、調べていて最近わかったことがある。魔力を含ませながら軽く叩くと、何故だか結晶自らが光を放つんだ。そしてその光は結晶の中で暴れて、やがて光線となって外へ出てくる。

 確かに気になることではある。ましてやこいつは元はと言えば『滅び』の結晶、無視出来ないことだった。だが所詮は光、それ以外に気にすらこともなく、探し物のために必要なんてことは無かった。……そうであった筈なのに。


「なんでこれに、お前が……」


 その光から感じたのは、紛れもなく光の魔力。それも……どの光よりも強く、澄み切った大精霊のもの。

 光の大精霊、それは────僕がずっと探していて、今もまだ見つかっていない片割れともいえる存在……『ティア』。この結晶からティアの魔力を感じたのも不可解だが、結晶から飛び出した光は何処かを指し示すように、全く同じ方向ばかりを照らし出して。まるで、自分の居場所を僕に知らせているかのように……僕に見つけ出して欲しいとでも言うかのように。

 こんなところにわざわざ出向いたのもティアを探しに来たためであったが、それでも不可解なことには変わらない。


「まあ、使えるなら使わせてもらうけど」


 怪しいといえば怪しい。何百年単位で手掛かりの一つもなかった状況でいきなりこれだ、疑わない方がどうかしている。

 それでも、やっと見つかった手掛かりなことには変わらない。闇雲に、ただ面影を求めて彷徨うよりはずっとマシだ。いなくなった当初はそれで無茶してぶっ倒れるなんて醜態(しゅうたい)(さら)したのだから、尚更。


 この光にはきっと意味がある、そう思ってここまできた。だから怪しいとは思っていても、僕はこの先へ進むしかない。

 ……と、その前にやることが一つ。


「いつまで隠れてんのさ。さっさと出てきたら?」


「あ、やっぱりバレてたんですね……」


 背後に潜む気配に向かってそう言い放つと、その影は観念したかのように姿を目の前に現わす。

 淡い桃色がかった長い髪と、紅い瞳。最早見慣れてしまったその特徴を持つ、僕が今まで散々見守ってきたやつの片割れが。


「一体何の用さ、ライヤ」


「もちろん、お手伝いに来たんです! ティアさんのことが関わってるなら、私だって大人しく出来ません!」


「あのさあ……」


 そんな鼻息荒く意気込む命の大精霊……正確にはその『記憶』であるライヤに、僕はため息をつかずにいられない。予想通り手伝うために勝手についてきたらしく、いくら言っても帰るつもりはないようだ。

 全く、割と冷静な性格の『身体』とは大違いだ。元は同じなのに、一体何処でネジが狂ったんだか。


「で、こんなとこに来たってことは妹の手引きか?」


「あ、はい……。あの間抜け一人じゃ手に余るから手伝ってやれ、と」


「……あのお節介め」


 はあっ、と僕は再びため息を一つ。

 面倒事を押し付ける癖して、いつも余計な世話を焼く。姉妹揃って何かと僕に助力しようとするのは昔と全く変わってない。

『ここ』に来るためにはレシス(あいつ)の手も借りていたから、僕の目的なんざとっくに知れ渡っているにしても、わざわざオマケをくっ付けてくれちゃって。……まあ、その善意自体は嬉しいから間抜け呼ばわりしたことは水に流しておいてやるか。


「ここなら実体も保てるので問題なく力を行使出来ます! ティアさんの魂の形は私もよーく覚えてますから、きっと力になれますよ!」


「ふーん……。正直言ってお前の身体の方が信頼度高いんだけどな」


「ひ、酷いです〜! 私だってお役に立てるんですよ!」


 そういってライヤはぷりぷりと怒る。

 ……この辺りが『身体』とはかけ離れているんだけど。この様子じゃそれを自覚してないな。


「ま、いいや……手が増えるのは便利だし。そうと決まればさっさと行くぞ、ライヤ。────いや、ルジェリア」


「え!」


 この相手に、その名で呼ぶのは久しぶりだった。『身体』と区別するため、今じゃ正体を隠すために使っていた偽名で呼ぶばかりだったから。

 だが、今ここに『身体』はいない────ならせめて今だけでも、昔と同じことをする時間を享受してもいいだろう。ライヤ……いや、ルジェリアもそれは嬉しかったらしく、さっさよりもにこにこ顔で歩き始めた僕を追いかける。


「そういえばそのマフラー、ルーザさんから貰ったものですよね? 身体を通して私も見てたので知ってます!」


「……」


「ルージュが贈ってたアミュレットもちゃんと付けてくれてるなんて、やっぱり3人共すごく仲良し……」


「……調子乗んな!」


「痛いっ!?」


 図に乗ってペラペラと余計なことを喋りまくるルジェリアに、お仕置きがてら僕は振り向き様その額に渾身のデコピンを食らわせてやった。

 それでも全く懲りないルジェリア。額を赤くしながらもえへへ、と気持ち悪いくらいに明るく笑いながら、てこてこと動物の赤ん坊のように僕と歩みを合わせてくる。そんなルジェリアにやれやれと肩をすくめつつ、僕は光を頼りにさらに奥を目指す。



 ……そうしてそんな奇妙なコンビは、『光の大精霊を探す』という目的のために進み初めたのだった。

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