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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第10章 継承せしものーHoly night Romanceー
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第122話 想いよ届け〜Holy night Romance(5)

 

「綺麗だな……」


 ただ一言、それだけで目の前の光景を表現出来た。

 純白の氷の華はちらちらと揺らめきながら地面に舞い降り、そこを一瞬白く染めて。やはり元から高い温度のせいか積もるまではいかないのだけど、この景色を堪能できるだけで満足だ。

 初めての聖夜祭で、こんな綺麗なホワイトクリスマスを楽しめるんだ。ご褒美としては充分すぎるものだから。


「よっしゃ、成功! これで文句ないだろ、フリード?」


「……まあ、兄さんが魔法の発動を先導してくれたからね。盛大に遅刻してきたことはこれでお咎めなしにするよ」


「へへっ、サンキュー」


 雪妖精の兄弟も、この結果に満足そうにしている。

 みんな嬉しそうだ。笑顔が溢れて、活気に満ちて、幸せそうな雰囲気に包まれている。今までの数ヶ月、『滅び』との戦いでそれらは何処か擦り減らしていたようにも思えたけど……そんなことはなかったんだと、すぐにでもわかった。


 みんなと出会って、私が心から友達として過ごせた時間は短いもの。けれど、時間なんて関係ないくらいにかけがえのないものになっていたことには変わりない。

 ……そんなことを思いながら一つ、また一つと落ちていく雪を眺めていた。


「よ、よしっ!」


 と、急にイアが何やら決心したように声を張り上げる。そうして、何故だかやけに緊張した面持ちで私に近づいてくる。


「ど、どうしたの、イア?」


「あ、いや。どうしたもこうしたもあるんだが……あ、あのさ、ルージュ。これから話したいことあるんだが、時間あるか?」


「え? そりゃあ、あるにはあるけど……」


 どうしたんだろう、急にそんなことを言い出すなんて。

 それにこんなに改まって。そんなに大事な話なのかな……と、少し不安になる。


「はっはーん……これから何を話すつもりなの〜、イア?」


「ゲッ⁉︎ え、エメラには関係ないだろ! オレの問題だし、話があんのはルージュなんだよ!」


「あらあら、じゃあ何話そうっていうの?」


「カーミラでも駄目だって! 他人に話せることでも無いっての!」


 何やら事情を知っているらしい、エメラとカーミラさんに詰め寄られてイアは物凄くたじろいでいる。でもイアの決心は固いようで、いくら問い詰めようとしても口を開く気は一切ないらしい。

 私だけにそんな大事な話なんて、一体なんなのだろうか?


「だー、もう言えないものは言えないんだよ! ルージュ、こっち来てくれ!」


「う、うん」


 最終的に、イアが強引に2人に尋問されそうになったところを逃げ出してしまった。

 どんな話だったとしても、イアがそこまでの覚悟を持っているのなら行くべきことだと思って。あれ程までに口を割るまいとしたことだ、それはイアも決意するのに相当な勇気を要したことだろうから。

 仕方ないなと思いつつも、私はその姿を見失うまいと後を追った。



「あーあ、行っちゃった。つまんないの」


「まあまあいいじゃない、ちょっとからかいすぎちゃったし。……それよりもレオンはいいの? 追いかけなくて」


「なんのことだか」


 2人がさってからしばらくして、不意にカーミラが視線を落とした先────どこかムスッと不機嫌そうな表情を浮かべながら椅子に腰掛けるレオンに、彼女はそんな言葉をかける。

 あくまでしらばっくれるレオンに、カーミラはクスッと悪戯っぽい笑みを向けた。


「このままだとあなた置いてけぼりじゃない。今からでも追いつけるのに、見過ごしていいのかしら」


「……フン、貴様に何がわかる。選択肢があるのは僕じゃない、今頃手を伸ばしたところで徒労に終わる」


「あら、そう。まあ、あなたがそれでいいのならあたしは構わないけど……とにかく、」


 カーミラは不意に言葉を切り、2人が走り去った物陰を見据える。そこでこれから起こるであろうことを予想し、優しげな笑みを浮かべながら、


「頑張ってね……イア」


 と、ささやかなエールを送ったのだった。





 それから私はイアにカフェの入り口とは反対の、カフェの裏口近くまで連行された。

 パーティーをしていたテラス席はここからじゃ全く見えない。それは向こうも同じということで……ここに着いた頃にはみんなの視線も感じなくなっていた。イアがこれから話したいことがみんなの前で大っぴらにするのが嫌だから、こんな場所に来たのだろう。

 でも、そこまでして私だけに話したいことって一体……?


「よ、よし……もう誰も見てねえな」


「う、うん。それで、話したいことって?」


「……悪い、心臓バックバクでまだちょっと無理だ。深呼吸するから待ってくれ」


「それは別にいいよ。落ち着いて、話してくれればいいから」


 この話を切り出すのにもかなりの勇気がいるのだったら、イアが緊張しててもおかしくない。

 私だって、ちぐはぐな言葉でそんな大切な話を台無しにして欲しくない。ゆっくりでもいいから、イアがちゃんと話せる状態になるまで待ってあげるのは当然の気遣いだ。


 深く吸って、ゆっくり吐いて。すー、はー、という息遣いの音が聞こえること数回、ようやくバクバクと煩かった鼓動を鎮められたらしいイアは改めて私に向き直った。私も、姿勢くらいはちゃんとしようと背筋を伸ばす。

 それ程までの覚悟を持って私に話したいことを、しっかり聞届けるために。

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