表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第10章 継承せしものーHoly night Romanceー
362/711

第122話 想いよ届け〜Holy night Romance(3)

 

「はい、これ! 僕のエレメント、これで文句無しだよね⁉︎」


「う、うん。ありがとう……」


 わかりやすいくらいの苛立った声を上げて、エストは私達のもう一つの目的であるエレメントを見せつけてきた。蒼く、それでいて確かな光を発する夜空をそのままくり抜いたかのような見た目のエレメントを。

 それは有り難いのだけど、エストはさっきの噴水に頭をぶつける自傷行為と怒りとで顔が冗談みたいに真っ赤になっているのが現状。それを真正面から見る側としてもどう反応すればいいのかわからないものだから、表情が引きつってしまっているのが鏡で見なくてもわかる。


 オスクに睡眠という一番の楽しみを阻害されたことがそれだけ嫌だったようで。でもまあ、これで普通の生活になれるんじゃないかとは思うのだけど……その怒りの矛先を私に向けないで欲しい。


「何モタモタしてんの? 収めるなら早く収めちゃってよね」


「えっ。ああ、ごめんなさい」


 エストにそう言われて、縮こまって下に向けていた意識を正面に戻した。

 そうして、ルーザはここに来る前に持ってきていてくれたらしい私のカバンからゴッドセプターを取り出した。


 私は今、白いドレス姿だし……エレメントを受け止める時の衝撃で汚れない可能性も無いとは言い切れない。悪いとは思うけど、今回はルーザに王笏のことを任せよう。

 ルーザにそのことを伝えるとルーザは快く「任せろ」と頷いてくれた。そのままルーザは王笏を前に突き出し、エレメントを受け止める体勢を取る。


「ほら、いつでも来いよ」


「はいはい。……えいっ!」


 そういうが早いか、エストはすぐさまエレメントを王笏に向かって投げつける。

 主人の手元を離れたエレメントは迷うことなく王笏に向かって飛んでいく。そして、ガンッ! と大きな音を響かせて次なるあるべき場所に収まった。


「……ふう、これで終いか」


 ルーザの口からも、安堵のため息が一つ。

 収まったばかりのエストのエレメントは、既に収められていた他の五つのエレメントの光と合わさり、大きな輝きを生み出していた。

 闇、新月、水、満月、風、そして……星。これで6つ目────今までの努力という足跡が、そこには確かに刻まれていた。


「やったわね! これで今日の目標達成ね!」


「うんうん、もうこんなに集まっちゃうなんて」


 カーミラさんとエメラは形となって現れている今年の成果にハイタッチしながら喜んでいる。他のみんなもそれは同じ、嬉しそうに笑顔を見せている。

 レオンも少しずつ『滅び』に対抗し得る力を付けていることにほっとして、オスクも満足げな表情を浮かべて。今までやってきていることは決して無駄じゃないんだと、そう思えた。


「終わったんだから、もういいよね。ボクはこれから仮眠取るから、騒ぐんならさっさとどっか行ってよ!」


「え。あっ、ちょっと⁉︎」


 その言葉に驚いて手を伸ばすも既に遅く。

 エストはそれだけ吐き捨てると、噴水に映り込んでいた一際大きな星の光に向かって飛び込み、あっという間にその姿を消してしまった。


「い、行っちゃった……」


「てか仮眠取るって。そのまま来年まで寝たりしないよな?」


「大丈夫だって。星の精霊にとって努力で叶えられる願いってのは、掟みたいな意味を持つんだから。ま、それで起きなかったら僕が毎朝直々に起こしに来てやるよ」


 ニヤッと笑いながら、さも楽しそうにそう言ってのけるオスク。確かに、あの嫌がりようならどうやってもあの願いには逆らえないようだし、多分大丈夫だと思うけれど。


 でもこれでやるべきことは終わった。使命感からの緊張も抜けて、今までのしかかっていた肩の荷も降りた。

 エレメントもこの数ヶ月だけで半分以上も集められて、これ以上無いというくらいに達成感を感じて。まだ会う必要がある大精霊はいるけれど、しばしの間でも今はその鎖から解放されているんだ。


「じゃあ残りの時間、パーティーの続きをしましょう! まだ料理とケーキ、いっぱい残っているから味わわなきゃ損よ」


「だね。ルージュさんなんて、まだ何も食べてないし」


「あ、あはは……」


 ドラクにそう言われて思い出した。そう言えば私、パーティーを始めてからすぐにカーミラさんにドレスを発見されちゃって着替えたから、まだジュースしか口にしてないんだった。

 思い出した途端、今まで抜けていた空腹感が蘇ってお腹の虫がぐうと音を立てる。そんな私を見かねてかカーミラさんはクスッと笑みをこぼしつつ、私の腕を引いてくれた。


「ほらほら、帰りましょ! ルージュにもあたし達が頑張った成果を味わって欲しいし」


「あっ、うん!」


 少しよろけながらも、私もカーミラさんの勢いに合わせる。

 カーミラさんとエメラが頑張って作ってくれたご馳走だ。どんな味なんだろう……そんな期待を胸に、みんなと共にカフェへと続く道を駆け抜けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ