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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第10章 継承せしものーHoly night Romanceー
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第122話 想いよ届け〜Holy night Romance(2)


「あ……」


 願いを告げた途端、私の目の前に光がぽっと浮き出る。

 予想通りというべきか、その光はエメラのものとは比べ物にならないくらいの、私の頭くらいの大きさがあるものだった。恐らくこれだけでカプセルの半分程が埋まってしまうだろう。


 大きいことは予想していたけど、やっぱり不安になる。これだけ大きいとなればこの願いがそれ程難しいということを表しているから……これから犠牲を出してしまうんじゃないか、そんな不安が拭いきれない。


「あちゃ~。『滅び』相手じゃ色々不確かだから、やっぱりそこそこはいっちゃうか」


「……やっぱり難しいかな」


「やる前から難しいって決めつけるとか、キミ悲観的すぎじゃないの? 全く……そんなのが命の大精霊なんて先行き不安だけど、恩はあるからね」


 エストは私を嗜めると、その光の玉を指先でちょんと触れる。

 その途端、光はより一層強く輝いて。すると、その光の玉を覆うように、薄い膜のようなものが現れて光を丸ごと包み込む。


「これは?」


「ちょっとしたおまじないってとこ。願いって元々カタチがあるものじゃないからね。さっきのままだと願いも色々不安定で運ぶ内に零れ落ちちゃうんだけどさ、ボクの魔力で願いをある程度保護して守れるんだ。これで少しは叶う確率上がったよ」


「ほ、本当⁉︎」


「まあ気休め程度だけど。でもまあ、『滅び』に関しちゃこっちだってソレに好き勝手されるのは御免だし。雫貰った恩もあるから、安いものさ」


「あら、エストくんって意外と良いとこあるのね〜」


「子供扱いしないでってば! それに、色々失礼だと思うんだよね、その言葉!」


 からかうカーミラさんにエストも堪らず抗議する。でも、確かに願いが叶う確率を上げて貰えるのは有難いことだ。

 エストが言ったように、気休めなのかもしれない。それでも、そうして貰えるのは安心感ももたらしてくれることだから。


 カプセルの空きは半分程になってしまったけど、まだまだ願いを収める余裕はある。またとないチャンスだから、空いたままでは勿体ない。みんなもそれぞれ、自分の願いをエストに伝えて、カプセルに収めていった。

 何が欲しいだとか、将来なりたいものなどの願い事らしい願いから、みんなといつまでも友達でいたい、卒業しても全員で会いたい、など様々。大小様々な光は私達の頭上を舞い、それらは全てカプセルの中に吸い込まれていく。

 レオンとオスクは特に興味が無いらしく、その様子をただ傍観してるのみ。まあ、2人は願掛けなどせずにひたすら努力していく性格だから、元からあまり興味は無かったようだけど。


「これで全部? もうちょっと空きはあるけど、これでいいならもう締め切るよ」


「んー、隙間があんの? じゃあ僕も何か一つでも言うかな」


「オスクが?」


 と、ギリギリになってからさっきまで静観を貫いていたオスクが何故かいきなり前に出る。

 オスクが何か願いたいというのならそれは構わないけど、なんでいきなり。一体どういう風の吹き回しなんだろう?


「お前はてっきりこういうの興味ないと思ってたんだがな」


「ま、正直言ってアテにはしてないけど。でも雫は貴重なものらしいし、無駄にするくらいなら利用した方が得じゃん」


「別にボクは構わないよ。さあ、どんな願いか聞かせてよ、闇の大精霊さん?」


「ふーん、じゃあ遠慮なく……」


 エストにそう言われて、オスクはニヤッと笑みを浮かべる。

 闇を司る者らしい、絶対悪意が含まれているであろう邪悪な笑み。……嫌な予感しかしない。


「『星の大精霊は「滅び」が止められるまで一切の惰眠は許さず、以降仕事に励むようになるように』! 以上!」


「はあ⁉︎ どんな願いだよ、何してくれちゃってんの⁉︎」


 オスクの願い……願いというべきなのか疑問なその望みはエストの持つカプセルにすぐさま反応、オスクの目の前にぽっと光が出現する。

 エストもオスクの突拍子もない望みに気が動転したらしく、運悪く光が指先に接触。光を膜が包み込み、そのままカプセルの中に入ってしまった。


 そして満杯となったカプセルは完全に口を閉じる。そうなるとエストの魔力でもう願いを届ける体勢に自動的に入るらしく、次の瞬間にはカプセルは空へと昇っていった。

 今まで目の前にあった光は、もう視界に捉えきれない高さまで急上昇して……あっという間に見えなくなってしまった。


「ああ、もうどうしてくれんだよ! これで一年寝られなくなっちゃったじゃないか! おまけに願いが保護されちゃったし!」


「別にいいっしょ? お前はこれから一年しっかり起きて、仕事に励む。良かったじゃん、規則正しい生活が出来て」


「というか、願いは絶対じゃないんだろ? そんな慌てなくても……」


「努力で叶えられるやつは自力で叶えるのが星の精霊じゃ常識なんだよ! 最悪だ、一年の楽しみが……!」


「一年の楽しみというか、ほぼ眠ってばかりなんじゃ……」


 よっぽどショックだったらしく、エストは噴水にガンガンと頭をぶつけながら「夢であれ、夢であれ、夢であれ」と連呼している。

 星の精霊での間の常識が、今は裏目に出てしまったことで余計にその気持ちが大きいらしくて。自傷行為に走ってるそんなエストを前に、オスクは愉快そうにケラケラと笑い飛ばす。


「……ぷっ、あははっ!」


 その様子がおかしくて、耐えきれずに私もオスクにつられて笑いが止まらなくなってしまった。

 みんなもそれを起点として次々に笑い始める。たちまちこの場はみんなの明るい笑い声に包まれて、クリスマスツリーの頂点で輝く星も、それに反応したかのようにキラッと一際強く輝き。


 ────聖夜祭はまだまだ終わらない。

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