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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第10章 継承せしものーHoly night Romanceー
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第122話 想いよ届け〜Holy night Romance(1)

 

 エストはその後も魔力を高まらせてさらに周りの光を集めて、その身に取り込んでいく。

 星の光はエストを中心に集まり、それはやがて大きな塊と化して……限界だと思われる大きさまで光が集まると、エストはその光で一つの球を形成した。


 光り輝く、それでいて半透明な球だ。まるでカプセルのような見た目なのだけど、これを一体どうするというのだろう?


「よーし、完成! なかなかいい大きさができたかな、うん」


「えっと、それは?」


「そうだな〜、さしずめ願い事の入れ物ってとこかな。この中に願い事を詰めて、僕はそれを届けるのさ」


「んー……?」


 ……駄目だ、そう説明されてもさっぱりわからない。

 そもそも、願い事を詰める入れ物ってどういうことなのかすらわからない。願い事なんてカタチすら持たないものを、まるでモノのように扱い、尚且つそれをこの中に入れるなんてことが全く想像出来なくて。みんなも不思議そうに首を傾げている。


「……わかってないって顔してるね。じゃあちょっと見本、誰でもいいからちょっとした願い言ってみなよ」


「え! え、えっとじゃあ……『ケーキいっぱい食べたい』!」


「さっきだって食ってたじゃねえか⁉︎」


 咄嗟に思いついたらしい願いをエストに伝えるエメラに、すかさずイアの鋭いツッコミが炸裂。

 その言葉通り、パーティーでもエメラは自分で作ったケーキを誰よりもいっぱい食べていたというのに、まだまだ食べ足りないようだ。みんなも何処か予想してたのだろう、苦笑いを零したり、やれやれとため息をついたりしている。

 私も、その清々しいまでにお菓子一点張りなところに、呆れるを通り越して最早尊敬の感情すら湧いてくる。


「ま、ボクとしてはなんでもいいけどさ。それよりもほら、よく見てなよ」


「わっ、何これ?」


 エメラが突然、驚きの声を上げる。

 それにつられて見てみると、エメラの前に何やら光の粒が。まるで蛍のような、淡い光がふよふよとエメラの目の前に浮いていた。

 なんだろう、と思って凝視しているとそれは突如としてピョンっと飛び上がり。くるくると宙を舞うと……やがてそれはエストの持つ光のカプセルの中に吸い込まれてしまった。


「これで完了っと。どう、わかった?」


「え、え? 何が起こったの?」


「理解力無いなぁ。いい? さっきの光はキミがボクに伝えた願望。あの光はキミの願いが実体化したものでさ、それをこれに収めたってわけ」


 エストはそう言いつつ、カプセルを前に突き出して中を見せてくる。

 さっきの光の粒は小さいものだったし、カプセル自体が光っていることも伴って大分視認しづらいけれど、その中にはエメラの願いだという光が確かに入っていた。

 実体化した願いがこのカプセルに収まって……一体、どうなるというのだろう?


「星の精霊は星にこういった願いを届ける、いわば伝令役なのさ。このカプセルは願い事の伝書鳩みたいなものさ」


「へえ……」


「さっきの願いは簡単に叶うみたいだから光も小さいね。まあ、聖夜だから当たり前かもだけど」


「本当⁉︎ わーい、まだケーキいっぱい食べれるんだ〜!」


「呑気だな……」


 エストにそう言われて、幸せそうなうっとりとした笑みを浮かべるエメラ。場違いなまでのあんまりにものほほんとしたその表情を見て、ルーザもやれやれと肩をすくめる。


 とにかく、エストの言葉を整理すると……願い事の難しさによってさっきの光の粒の大きさも変動するようだ。難しい願い事なら、当然光も大きくなる。高望みすればするほど、カプセルはすぐにパンパンになってしまうのだろう。


「理屈はわかったっぽいね。補足するとボクはどの星の精霊よりも大きなカプセルを作ることが出来るんだ。つまり、それだけ聞いてあげられる願いも多いってこと。必ず叶うかは保証しないけどさ」


「なんだ、絶対じゃないんだな」


「確率の問題でもあるからさ、こればっかりは責めないでよ。くじ引きみたいに、運に左右されるものはちょっと引きを良くする程度で限界なんだし」


 イアのあからさまに残念そうな反応を前にしても、エストはそればかりはどうにも出来ないようだ。やっぱり大精霊といえど、そう上手くはいかないらしい。

 でもそれが納得するところでもあるのは事実。願いは欲望そのもの。あれもこれもと聞き届けてしまったら、世の中が滅茶苦茶になってしまうだろうから。エストは色々面倒くさがりだけどそこは大精霊、その辺りはちゃんとわきまえている様子だ。


「考えてもみなって。なんでもかんでも一人の欲望のままに叶えるっていうのは、周りの幸せすら吸い取ることに繋がるんだし。ボクも起こしてもらったり、雫貰ったりしたのは有難いと思っているけど、無茶は出来ないのさ」


「まあ、なんなら直接他人の不幸を願う奴もいるだろうからな」


「それだとちょっと嫌な話ですね……」


「ボクだって、そんなふざけた願いならカプセルに収める前に突っぱねるよ」


 ルーザとフリードのそんなやり取りに、エストも口を尖らせる。凄く嫌そうなその表情……そういう反応をするということは、かつてそのような願いをした者がいるんだろうか。

 でも、それを詮索してても仕方ない。絶対ではなかったとしても、望むものに近づけるなんてなかなか無い機会だ。エストに渡した星の雫を無駄にしないためでもあるけど……せっかくだから、ちょっとは高望みしてもいいよね。


「お前が渡して得た報酬だろ。先に言えよ」


「あ、うん! じゃあ……『「滅び」と戦ってもなんの犠牲も無く、そしていつか打ち勝てますように……!』」


 ルーザの言葉に頷きつつ、私は心の底からそう強く願う。

 我ながら都合の良すぎる願いだと思う。シノノメの妖精達を始め、あちこちでもう確かな被害が出ているのにそう願うなんて。

 なんの犠牲も無く、なんて……それがどれ程傲慢であるかなんて自分でよく分かっている。それでも誰にも傷付いてほしくないから、そう願わずにはいられなかったから。

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