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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第2章 影の輪唱
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第13話 嘲笑う傍観者(2)

 

 そして翌日。予定通り、オレら4人は昨日見た地図の食い違う場所へと向かう。ちなみにオレの家を訪ねる前にルージュはイアとエメラも誘ったようだが、それぞれ親に店の手伝いをしろと言われたらしく、来れないとのこと。2人が来れないのは残念ではあるが、そういうことなら仕方ない。


 目的の場所は話に聞いていた通り、ゴツゴツとした岩肌が剥き出しで、周りにも尖った岩があちこち飛び出しているせいで見た目以上に狭く感じるところだった。飛んで登る手も考えたが……岩の間に引っかかる可能性が高いから無理そうだ。


「いかにも秘境って場所だな」


「聞いてはいましたが、こんなに険しいなんて……。斜面もあるので危険そうですね」


「よし、僕が先頭を行くよ。こういった事には慣れてるし」


 いうが早いか、ドラクが先陣を切って突入し、素早く斜面を駆け上がる。

 流石、山の監視をしているだけあって登り方が手慣れている。岩の間にある僅かな足場を正確に見つけだして、飛び跳ねるようにぴょんぴょんと登っていく。安定しない場所だというのに、一切身体がふらついていない。


「うん、ここの辺りは大丈夫そうだ。左は岩にヒビが見えるから避けて通って」


「へえ、そんなことまでわかるんだ」


「ドラクのご両親にその辺りみっちり仕込まれているようですから」


 ルージュが感心する横で、フリードがその理由を伝えた。

 氷河山は危険と悪名高い山だ。案内妖精として、山登りに使うありとあらゆるスキル覚える必要があるんだろう。そのおかげで後ろのオレらが安心して進めるのだから助かるものだ。

 ドラクが通った道をオレらも続いて歩いていく。道とはいったものの、岩と岩の間を抜けて足をかけられそうな場所に引っ掛けながら行く歩き方だ。

 道無き道とはまさにこのことだろう。歩きにくいったらありゃしない。その中で唯一幸いなのは、岩が頑丈で崩れる心配は無さそうなこと。下手に踏み外さなければ大丈夫そうだ。


 しばらくそうして登り進んで行くと、斜面が急に平らになった地点へと辿り着いた。だが、道……というか、進めそうな場所は途切れている。

 当然、行き場を無くしたオレらはその場で立往生することとなってしまった。


「ここは……、行き止まりでも無さそうですけど」


「でも特に進めるような道も見当たらないなぁ」


 ドラクは先に進める道は無いかとキョロキョロしている。しかし見えるのは岩の隙間、生い茂った草木など、進めそうにないものばかり。

 ここで終わりなのか……?


「うーん……あ!」


 不意に周りを見渡していたルージュが声を上げ、何処かへと駆け出す。オレらも何事かとその後ろを付いて行き、ルージュはある場所で立ち止まった。


「どうした?」


「うん。この岩、周りにあるものと比べてあまり土がついてないの。それに地面も、うっすらとだけど動かされた跡がある」


 ルージュが見ているのはオレらの身長に届きそうなくらいの一際大きな岩。確かに一部が不自然に汚れがとれていて、地面には何か擦れたような傷が残っている。

 明らかに、誰かが動かした跡だ。まるで蓋をしているかのように。


「どうしましょうか。流石に魔法でも動かせませんし……」


「簡単なことだ。これが蓋だっていうなら、ぶっ壊してこじ開けてやるまでさ。お前ら下がってろ」


 道が通れないのなら、切り開いて進むだけだ。でかいだけの岩がなんだ、ここまできて進路をこんなものに邪魔されてたまるか。

 鎌を構えると同時に、周りが余計な被害を被らないよう3人に充分な距離を取ってもらう。そしてオレは岩を見据えて────その中央目掛けて斬りかかる!


「せやっ!」


 岩を真っ二つに切り裂き、割れたそれはドンッと音を立て崩れる。そしてその岩で塞がれていた空洞が目の前に現れた。


「道が……!」


「……何かあるのは明白だね。でも、どうしようか?」


 ドラクが念を押してそう聞くのも無理はない。何せここはでかい岩に塞がれていた空洞、中にどんな危険があるのか分かったものじゃない。

 なのに……どうしてオレはここから目が逸らせないのだろう。ここを入らなくては何か大きなことを逃すような、そんな焦りが訳も分からぬまま湧いてくる。


 ……危険なことは承知なのに。オレはこの空洞の先にあるものが気になって仕方がなかった。


「ルーザ、この先が気になるの?」


「あ、いや。オレは……」


「誤魔化さなくていいよ。気になるって顔、してるから」


「……っ」


 ルージュにはオレの気持ちなんてお見通しだった。ルージュの言葉通り、気になって仕方がないという感情が無意識の内に表に出ていたのかもしれない。


「危険かもしれないけど、気になるなら行ってみようよ。やらないまま後悔するなら、やってから後悔した方がいいもの。それに以前の廃坑の時だって割と無茶してたでしょ?」


「……フッ。ああ、そうだな」


 ……そう言われてみれば、あの廃坑に行った時も結構無茶していた。危険そうだからと遠ざけるなんて今更だったんだ。

 何があるか分からない。分からないからこそ、その先にあるものに興味がある。オレが何故だかここに進まなくてはいけないと思った理由も掴めるかもしれない。


「ルーザさんが行くなら僕たちも行くよ。僕たちだけ逃げ出すのも格好がつかないからね」


「はい。まずいと思ったら逃げ出せばいいだけですから」


「……上等だ。行くぞ!」


 オレは覚悟を決めて、先頭に立って空洞に足を踏み入れた。続いて、ルージュ、ドラク、フリードも。


 そしてその内部は水が滴る音が響き、ひんやりとした空気で包まれていた。上でも寒いのに、こんなところだと余計に冷え切っている。オレは羽織っていたマントの結びを固くすることで隙間を狭めて、少しでも風を防ぐよう努めた。

 あんな入り口の割に中は意外と広く、道はオレら4人が横に並んで歩いてもまだ余裕があるほどの幅がある。……これだけ広いとそろそろ出迎えが来そうだ。


『ゲコッ‼︎』


「おっと!」


 予想的中。カエルのような魔物、フロッグが数匹、わらわらと集まってきた。

 数は多いが強さは大したことない。オレは再び鎌を構える。3人もそれぞれ武器を出した。


「『グロームレイ』!」


 ドラクは双剣を振るいながら電流を操り、フロッグに当てる。

 電流は地面を伝って広範囲にほとばしり、フロッグの群れに襲いかかる。電流がフロッグの身体に流れ込んだようで、フロッグはドラクの攻撃を受けた途端に身体を痙攣させ、その場から動かなくなった。

 

「くらえっ!」


「えいっ!」


 そこに続いてオレは鎌で斬りつけ、フリードはそれに合わせて槍を突き出して攻撃する。

 それから何度も同じように2人で武器を振るう。その甲斐あってフロッグはもう5体まで減っていた。


「大地に眠りし業火よ、天に舞い我が敵を焼き尽くせ……『ラデン』ッ!」


 魔導書を構えたルージュが火炎を放ち、残りのフロッグを焼き払う。当然、フロッグは耐えきれずに次々に消滅した。

 これでフロッグは全滅。空洞に元の静寂が戻る。


「ふう。なんとか倒せましたね」


「先を急ぐか。騒ぎでまたたかられると面倒だ」


 反対するやつはいなかった。オレらは頷き合い、奥を目指して駆け出した。

 その後も道に沿って曲がったり、魔物に出くわしたり。入り組んでいて迷いそうにもなったが順調に進んでいっている。


 ……そして最後に石でできた扉の前に辿り着いた。周りは相変わらず岩だらけだというのに、そこだけ何者かの手で削られている人工物だった。周りの環境からもここにあるのはあまりにも場違いだ。


「……何か、いるだろうね」


「ああ。あからさまにな」


「ここまで来たら突き進むしか考えられないね」


 ……引き返したくない。それはここにいる全員が同じ気持ちだった。全会一致────ここで回れ右する選択肢も、今を持って消え失せる。

 オレらは顔を見合わせ、頷き合う。そして意を決して扉に手をかけ、4人で同時に開こうと試みる。


「やるぞ!」


「はい!」


「せーのっ!」


 ルージュの声に合わせ、一気に扉を引く。

 石で出来ているせいでかなりの重量だ。押す度にズズッ……と重々しく擦れる音が響き、砂煙が舞う。

 やがて扉を開ききり、空気の抜ける音が辺りに響き渡る。その代償として、無茶なことをしたせいで手は真っ赤。後から手にじんじんという痛みが広がってきた。


「いたた……。とりあえず開いたね」


「うん。肩に響かなきゃいいけれど……」


 手の痛みが治まる頃に、オレらはその中へと踏み出した。

 中は思っていた以上に広かった。運動場程の奥行きがあるし、周囲には石で出来た柱が立ち並んでいる。そして奥には細かい彫刻が施されたやけに豪華な祭壇まであった。周りに立てられた蝋燭が空間をぼんやりと照らし……まるで何かの神殿のようだった。


 なんだ、ここ……。(まつ)るにしても場所がおかしい。


「……ふん。こんなところにまで上がり込んだ挙句、土足でズカズカ踏み荒らしてくれちゃって。つくづく妖精は下等で礼儀がなっちゃいない」


「……っ!」


 突如として男の声が響き渡る。見下したような、冷めた声が。

 一体何処から……!

 全員でキョロキョロしていると、周囲に気をとられていたオレらは完全に後ろへの注意を怠ってしまい、


  ────バタンッ!


「しまった、扉が!」


「そ、そんな!」


 轟音を立てて、勢いよく閉まる扉。閉じ込められた────それを悟り、4人がかりでなんとか再び開こうとするものの、どうやら何かの呪文がかけられたらしく、いくら押したり引いたりしてもビクともしない。

 チッ……。やってくれるじゃねえか。


「テメェ! 閉じこめるぐらいなら、せめてその面見せろ!」

 

「……これはまた無礼なこった。ま、望みとあらば……」


 怒りのままに声を張り上げると、意外にも返事はすぐに来た。この神殿の主人らしき男の声が響いた途端、周囲を包む暗闇が揺らいでその濃さを増した。オレらは緊張しつつ、その暗闇の先を見据えていると────突如として、それはカタチを成した。

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