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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第10章 継承せしものーHoly night Romanceー
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第121話 紡いだ雫(1)

 

 しばらく、私達は呆気に取られて動くことが出来なかった。目の前にいる存在に対して、純粋に疑問を隠せなくて。確かに星の大精霊だと、目の前にたたずむ少年は言った。耳でちゃんとそう聞いたのに、その事実が信じられなくて。

 それに、その登場の仕方も。てっきり水面に映り込んだ星が光り輝いて、その中から出てくるかと思ったのに……。星の大精霊だと思われる少年は背後から話しかけてきたものだから、それがより一層疑心を煽る。


 確かに他の精霊とは明らかに違う雰囲気を漂わせているのだけど、見た目がそれに伴ってないんだ。大きな青い蒼い瞳に、丸い顔立ち。身長だって、私とルーザより少し低いカーミラさんの方が高い。もっと正確に言えば、私の胸部辺りしかない。

 腰に手を当て、胸を張って強気な姿勢をとってはいるけど……どう見ても子供だ。


「何? 初対面なのにジロジロみるなんて失礼だよね、キミ」


「え? あ、えっと……ごめんなさい」


「……まあいいけど。でもさ、本当にキミが起こしたの? さっきからオドオドしてて頼りない。もしかして偶然?」


「偶然なわけあるかっての。大体お前こそ、さっきから黙って聞いてれば上から目線でベラベラ喋って何様さ」


 戸惑ってどうすればいいのかわからず、あわあわしていた私に助け船を出すようにオスクが私と目の前の少年の間に割って入ってくれた。

 目の前の少年も急に他所から声が飛んできたことに、一旦は私から視線が外れた。視線をズラしてオスクの姿を捉えると、横槍を入れられたことに不満そうにしていたその表情が一変、小さな身体が飛び上がる。


「ゲッ、オスク⁉︎」


「よお、サボリ魔。ゲッ、とは随分なご挨拶だな」


「な、な、な、なんでお前がここにいるんだよっ⁉︎ 15年前、どっか行って消えた癖に!」


「なーんだ、そこんとこキッチリ覚えてんの。それよか、起こしてくれた相手蔑ろにして恥ずかしくないわけ? 恩知らず」


 15年間、『支配者』のせいで大精霊達の前から行方をくらましていたオスクがまさかいると思わなかったのだろう。オスクも関わりは浅いとは言っていたけど、星の大精霊はそれは知っているだろうからすごく驚いている様子だった。

 でも、起こしてもらったことに対して何もしないという訳にもいかない様子。オスクの言葉に促され、星の大精霊は渋々ながら私に向き直った。


「あー、えっと……キミ、名前は?」


「え? あ、ルジェリア……です」


「……ん、その名前どっかで聞いたような」


「あ、その……命の大精霊って言えば分かるかな」


「……は?」


 その言葉を告げた瞬間、星の大精霊の蒼い目が驚きに見開かれる。

 15年前に姿を消したとはいえ、私とルーザの存在は大精霊間じゃ有名だ。星の大精霊もその例外じゃない……それは、その反応から明らかだ。


「え、それ本気で言ってるの?」


「そんなこと、デタラメで言うと思うのか? ついでに言っておくと、オレがルヴェルザだ。記憶は無いけどな」


「……事実なんだ。正直、あんまり信じられないな〜。記憶が無いとかも怪しいとこだけど」


 なんて、星の大精霊は素直に認められないとばかりに訝しげな視線を向けて、私とルーザをジロジロ見ている。見た目の年相応に、その態度はちょっぴり生意気だ。

 今まで会ってきた大精霊は私とルーザを見て驚いたり、再会を喜んだりしてくれたりしたのに今回はそれが皆無。自分が大精霊だということを自覚してから日は浅いとはいえ、初めての反応に少しびっくりする。


「まあ、いいや。起こしてくれたことには変わりないし……ボクにだってポリシーはあるからね。ボクは『エスト』。知ってるだろうけど、ボクは星の大精霊。あらゆる願望、欲を司る者だよ」


「へえ。じゃあ、エストくんって呼べばいいかしら?」


 エストと、目の前の少年はそう名乗った。

 それを聞いた不意にカーミラさんがそう口を挟む。確かに、くん付けでも違和感無さそうな容姿だけど、そんなカーミラさんにエストは不機嫌そうに表情を歪める。


「子供扱いしないでくれる? キミは吸血鬼っぽいからキミもそれなりの年齢なんだろうけど、ボクの方が遥かに歳上だと思うんだよね」


「あら。じゃあ、あなた何歳なのよ?」


「そいつ、そんなチビだけど900は超えてるんだよね。大精霊間じゃカグヤの次」


「え、ええっ⁉︎」


 オスクが告げた真実に、私達の視線が一斉にエストに集まる。

 900歳ということは……私とルーザの約3倍。オスクだって600歳代。カーミラさんやレオンなど、このメンバーの中にも私も含めて高年齢なのが複数人いるというのに、エストはそれを凌駕(りょうが)しているなんて。

 でも、その年齢でこの見た目って……うーん、頭の中がおかしくなりそうだ。


「何その反応。とにかく、キミ達が本当に王笏を託された者だとしても、歳上を敬うくらいしたらどうなの?」


「え、オスク。それ、本当……なんだよね?」


「信じられないのも無理ないけどね。でも大精霊じゃお前ら二人が最年少。僕はその次、下から2番目」


「嘘だろ……」


 オスクが嘘を言っている様子は一切ない。オスクがそんなことを口から出まかせで言わないようなことはわかっているとしても、やっぱりその事実に愕然(がくぜん)とする。

 大精霊は見た目と実年齢が伴わないことはわかっているつもり。自分だってそうなのだから。でもだからといって、これは極端すぎる気がしなくもないような……。


「だからホントだって言ってるじゃん。さっきからなんなの? やっぱり命の大精霊なんてデタラメ……痛っ⁉︎」


「れ、レオン⁉︎ どうしたの?」


「……なんだか無性に殴りたくなった」


「ちょっと⁉︎ 仮にも大精霊であるボクに殴りかかるとか、無礼もいいとこだよね!」


「フン、大精霊など肩書きに過ぎん。今ここで見せしめとして潰してやってもいいのだぞ?」


「はいはい、ストップ。レオンの気持ちはわかるけど、大切な取引相手なんだから手を上げちゃダメよ」


 エストが言い放った何らかの言葉が逆鱗(げきりん)に触れたらしい、レオンはいきなりエストの脳天に拳を落としたものだから、これには本人も私もびっくり。

 それでもまだ怒りが収まらないらしいレオンは、さらに制裁を与えようとしたところをすかさずカーミラさんが腕を引いて、なんとか止めてくれた。


「……何故止める。大体、貴様に一体僕の何がわかる、失格吸血鬼」


「少なくともあたしには筒抜けよ? 想い人がののしられるのが不満だったんでしょ?」


「ぐっ……」


 図星を突かれたらしい、レオンはくしゃっと顔をしかめて黙りこんでしまった。

 想い人……私のことを庇うために、レオンは私のことを思って間に割って入ってくれたのかな。でもそれだけじゃ言葉の意味として足りない気がするような。


 でも、今は本来の目的に集中だ。まだエストは私とルーザが大精霊だということに半信半疑らしいけど、役目は果たさなければならないという心構えはある様子。殴られた頭をさすりながら、エストが私に向き直ったところでいよいよ本題を切り出した。


「でさ、ボクをわざわざ起こしてくれたってことは、キミに何か望みがあるからなんだよね?」


「う、うん。じゃなきゃ、あんな短いタイミングを狙うためにあなたのことについて調べをつけたりなんかしないよ」


「……そりゃそうだ。じゃあ、一体何がお望みなの? 叶える叶えないは別として、とりあえず言ってみなよ」


 ……? なんだろう、その言葉に違和感を覚えた。

 まるで場合によっては叶えられないというかのような台詞だ。そりゃあ死者の蘇生とか、どうやっても叶えられないような無茶な願いは無理だろうけど……相手は大精霊。大抵の願いなら聞き届けてくれそうなのに。


 ともかく、こちらの要求を伝えなければ。エレメントを渡してもらうのはもちろん、せっかくの機会だから少々の願掛けも。

 全員無事に、いつの日か『滅び』を止められるように────と、そう願いたい。もちろん、そのための努力は怠らないけど、心の支えとしても言っておきたくて。


「……へえ、それがキミの願いなんだ」


「あ、駄目……かな?」


「別に? 歳の割に高望みしないな~、って思っただけ。だけど残念だね、エレメントはいいけど今のボクじゃ願いを叶えられるような力は無いんだ」


「えっ。ど、どうして?」


 思わず呆けた声が出る。いや、エレメントが手に入ることは嬉しいことだけど……願いを叶える力が無いって、どういうことなんだろう。まさか、これも『滅び』の影響?

 でも、エストは首を振って直ぐ様その可能性を否定する。


「ほら、ボクって起きたばっかりだよね? 寝起きだし、眠っている間にも少しずつ力は使ってるから、今はそれが空っぽなんだよ」


「はあ? じゃあどうしろってんだよ」


「ボクに限らず、星の精霊が力を取り戻すにはあるものが必要なんだよ。そしてそれはね……」


 言葉が一瞬途切れ、私達の間に緊張が高まる。エレメントは貰えるようだから、願い事の方は無理そうであれば諦めてもいいと思っていた。だけど、これからエストにも協力してもらうことを考えると、力が空っぽのままも困るから無視は出来ない。

 星の精霊が力を取り戻すに必要なもの……一体なんだろう?


「────星の力が蓄えられてこぼれ落ちたもの。星の力の象徴である、『星のしずく』が必要なのさ」

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