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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第10章 継承せしものーHoly night Romanceー
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第120話 日の下に生きて(4)

 

 シルヴァートさんとの話を終えるとオスクは銀の杯の縁をコツコツと叩き、その水面を波立たせて呪文を解除した。

 星の大精霊を起こすヒントは確かに貰えた。貰えたけど……


「それで? 堅物からのヒントで星の大精霊の起こし方わかった?」


「え? そ、そんなにすぐは解けないよ……」


「はあ? こういうのでひらめくのはルージュの得意分野じゃん」


「そう言われても、まだこれから考えなくちゃいけないし。もう少し時間くれないかな、って」


「ふーん、まあいいけどさ」


 遠写の水鏡をカバンの中に戻しつつ、オスクは私に向き直っていきなりそう言うものだから、私も戸惑ってしまう。

 そりゃあ答えを早く見つけたいのが本心だけど、ヒントが指し示す『刻』はなんなのか……まだそれがはっきり見出せていないし、すぐに解けたら苦労はしない。みんなも一緒に考え込んでいるのが現状だし、もう少し考える時間は欲しい。


 でも、オスクが私にそう聞いてくるということは、オスクが私を頼ってくれているということ。オスクが私を当てにする程みんなの役に立てている、それは素直に嬉しい事実だ。

 実際ルーザにも、他のみんなにも助けてもらってばかりだし、オスクにも力が半分だというのに大精霊としての実力は私じゃ遠く及ばない。与えられたヒントで、私が読み解いてくれるんじゃないかという期待を寄せられているなら、それに応えたい。


「まずは情報の整理だな。ごちゃごちゃなままでも仕方ないし、正しく並べてさっさと答え出すべきだ」


「うん、そうだね」


 ルーザの言葉に迷わずうなずく。

 シルヴァートさんからいくつかのヒントは貰えたけど、まだそれは私達の中で繋がりを見出せていない。欠けたパズルのピースをはめ込んでいくためにも、急いで情報を並べてみなければならない。

 ……きっと、時間もそんなに余裕が無い筈だから。


 大前提として、ゲートが出てくるのは星の映り込む場所ということ。次に光か影、どちらの世界でもいいこと。そして……日の下で生を育むその刻を空が指し示し、聖夜の星と重なった時、映り込んだ星を射る────これが、シルヴァートさんから聞いた主な条件だ。

 今の時点じゃさっぱりだけど……ゆっくりでもいいから、確実に答えを導き出そう。


「星の映り込む場所……水面だったらどこでもいいのかしら?」


「……ううん、どちらの世界でもいいってだけで、どこでもいいというわけじゃないと思う。もう一つ、場所の指定がされてる言葉がある」


「え、それって?」


 カーミラさんは首をかしげているけど、ヒントの中に確かに指定されてる言葉が存在する。

 ……『聖夜の星』という言葉。多分だけど、聖夜だってことを大精霊に示すために聖夜祭の象徴になるような星が必要なのだろう。そしてそれは恐らく……


「聖夜祭の象徴であるクリスマスツリー、その頂点に乗せられた星の飾りのことだと思う。その中で一番大きくて、一番目立つ『聖夜の星』なら、それしか当てはまらないんじゃないかな?」


「そうなると、王都の噴水広場が指定されてるってことか。だが、なんでそう決めつけられるんだよ?」


「ほら、聖夜祭って色々なオーナメント飾るでしょ? 星の形のもあったし、それだとそれら全部が該当しちゃうから」


「ほう。まあ確かに、大精霊程の存在がそこらにある陳腐な飾りで反応するとは思えん」


「ち、陳腐は言い過ぎじゃないかな……」


 ルーザもその説明で「成る程な」と納得してくれて、レオンも言い方はキツいけど同意の声を上げる。

 正解を確かめられないからまだこれが正しいとは言い切れないけど、筋としては間違ってない筈。大精霊がゲートの目印として示すものだ、この聖夜祭でも飛び切り目立つものに違いないから。


 王都の噴水前に設置されたクリスマスツリーは姉さんが用意したもの。王族が用意したものともなれば、当然それは国で一番の規模を誇る。そこに添えられた星の飾りも、どのオーナメントよりも大きいもの。大精霊が目印にするならこれしかない。

 これで向かうべき場所は突き止められた。あとは……『日の下で生を育むその刻を空が指し示し、聖夜の星と重なった時』。即ち、時間だ。


「日の下……日の逆、月ってことでしょうか」


「じゃあ月が出て、ツリーの星と重なる時ってことか?」


「うん、シルヴァートさんも月の状態にもよる、って言ってたし」


 イアの言ったことで間違いないだろう。シルヴァートさんのあのセリフからして、月も関係があるのは確かだ。月の状態、それは月の満ち欠けのことだと捉えれば説明がつく。

 そして『重なる時』────それは、星の真上に出るように月が真南に浮かぶ時を示すんだ。


 ……私は空を見上げ、月の形を確認。

 濃紺の星空に、一際強く輝く白銀の月。それはどこも欠けることが無い丸い形で……文句のつけようが無い、立派な満月だった。

 満月が真南に昇る時間は確か、0時丁度。日付が変わる瞬間に月は最も高く浮かぶんだ。


「ちょっと待て。今何時だ⁉︎」


「ええと……11時半は過ぎてます。あと30分もありませんよ!」


「……っ!」


 残り30分────時計の針を確認したフリードから宣告されたタイムリミットは、予想以上に目前まで迫っていた。

 最早一刻の猶予もない……それを悟った私達は一斉に王都の噴水広場へと駆け出した。





 王都の噴水広場は王都の中心ということ、今日は聖夜祭ということで夜更けだというのに多くの妖精達が行き交って、凄く賑わっていた。

 今日、再びこの噴水広場を訪れることになるなんて。点灯式が終わってから数時間は経っているのにこの盛り上がり様。やっぱり聖夜祭は誰もが心待にしていた行事なんだと、それが改めてわかる瞬間だ。


「な、なんとか間に合ったか……? 時間大丈夫だよな、フリード?」


「えっと……はい、あと10分くらいです」


「よ、良かった~……。これで時間切れだったら取り返しが付かないところだったわね」


 カーミラさんもホッとしたように胸を撫で下ろす。その言葉通り、ここで遅刻していたらもう一年待たなくてはいけなくなるのだから、冗談でも笑えない。

『滅び』を止めるには王笏が必須。その王笏の封印を解くエレメントは必ず王笏に収めなければならない。エレメントが一つ欠けるだけでも、『滅び』の脅威を考えれば掠り傷では済まないことは少なくともここにいるみんな誰しもがわかっていることだから。


 ……月は、その高度を徐々に上げてきている。パッと見ただけではわからないけれど、周りの建物との距離を見比べていくと時間経過と合わせて動いているのが視認出来る。

 1、2、3、4、5……時間は止まることなく、チクタクと針は規則正しく時を刻んで今日という日の終わりを告げようとしていて。


「夜、0時……!」


 ────そして鐘が鳴り響き、その『刻』は来た。フリードからその事を告げられて、私達は一斉に空を見上げ……そして気付いた。


「あっ……!」


 月は、確かに真南に輝いていた。それも王城の玉座の間が下にある、城の一番高い塔の頂点と重なるように白銀に輝く丸い月は夜空に鎮座していた。

 そしてそれは目の前にそびえるクリスマスツリーの頂で輝く星の飾りと合わさり、一筋の光となって噴水の水面を照らし出す。その光は曲がることのない直線で、まるで何かを指し示しているようにも見える。

『日の真下で生を育むその刻を空が指し示し、聖夜の星と重なった時』……それはこの時のことだったんだ!


「見て見て! 水面に光が当たってるところ、なんだか光ってる気がするの!」


「ふーん、確かにひとりでに光ってるな。堅物の話じゃこれを射るんだろうけど、どうすんの?」


「うん、私がやる。私にやらせて!」


 オスクにそう迷わず返した。シルヴァートさんからのヒントから読みといたことが本当に正しいのか、それは中心になった私の責任にあるところだ。

 だから、答え合わせをする意味でも引き受けるべきなんだ。みんなも異議がないようで、深く頷いてくれた。


 迷っている暇もない。私は『ルミナスレイ』を詠唱し、目の前に大きな光弾を出してそれを躊躇なく手で掴む。

 どうか届いて────ただその一心で、私は今ドレスを着ていることも忘れて光弾を掴む手を大きく降り被った。


「『ランス・ルミナスレイ』!!」


 光の手槍は星が照らし出した一点を思いきり貫く。

 光の手槍がそこにすいこまれていくように消えていく。噴水の水面が一際大きく揺れて、光が消えていった。


「そんな……!」


 これは、間違いだったの……?

 何の反応もないことから、そんな考えが一気に押し寄せる。落胆から、膝から崩れ落ちそうになる程の絶望感覚に囚われる気がして。

 様々な感情が入り混じり、ぐちゃぐちゃになったような気がした。まるで目の前が闇に包まれたような錯覚に捕らわれて……


「……ねえ、何してるの?」


「……え?」


 だけど、それはすぐに断ち切られた。背後から、聞き覚えのない声がかけられて。

 恐る恐る振り替えってみると、そこにいたのはやはり見知らぬ人物。夜空をそのまま染めたかと思うくらいの深い蒼の髪を持ち、輝いているような綺麗な法衣を纏った、精霊の少年。


「キミが、ボクを起こしてくれたの?」


「あ、あなたは……?」


「えー、知らずに呼び出したの?」


 ええと……駄目だ、さっぱり話が見えない。

 当然、私はこの精霊と面識がない。初対面だというのにいきなり馴れ馴れしく話しかけられて、元々他人付き合いが得意じゃない私は戸惑うばかり。


「ホントに知らないの? ボクが星の大精霊だってこと、キミわかってる?」


 …………。


「ええっ⁉︎」


 みんなと、驚く声が重なった。

 それも当然。今目の前にいるこの少年が、歳も大して重ねてないように見える人物が────目的の星の大精霊だということに驚きを隠せなかったから。

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