第120話 日の下に生きて(3)
「とはいえ僕も詳しくは知らないから、まだ聞かなくちゃいけないんだよね。おいルージュ、ちょっと拝借させてもらうよ」
「またぁ……」
以前やったように、オスクは席に置いてあった私のカバンに手を突っ込んで、その中を勝手に弄り始める。
最早お約束となりつつあるこの光景。文句言っても改善する気配は全くないし、私ももう諦めることにした。
そして、そんな私を他所にオスクは予想通りそこから大きな銀の杯……水の大精霊・ニニアンさんから譲り受けた遠写の水鏡を取り出した。
今ではこれがオスクが他の大精霊を連絡を取る時に欠かせない道具となっている。オスクは水鏡を使うために、早速器を水で満たした。
「さっさとやるか。『カステフティス・マーレ。新月の大精霊を写せ』!」
「ん、シルヴァートに聞くのか?」
「ああ、あいつも影といえど『月』だからな。それに、教えられた張本人に聞くのが一番いいっしょ」
詠唱しつつ、ルーザの質問に返された答えに私は成る程、と思った。
月と星、夜空に輝く両者は確かに切っても切れない関係だと言える。カグヤさんでもいいかもしれないけど、星の大精霊のことについて最初に教えてくれたのはシルヴァートさんのほう。今の状況では適任だし、オスクもそれがわかっててシルヴァートさんを選んだのだろう。
そしてオスクの呪文に水鏡は反応し、その水面は揺らめいて……やがてその表面に長い銀髪の男性の姿が映し出された。それがわかるとみんなも水鏡が置かれているテーブルに集まって、一斉にその中を覗き込む。
「よお、シルヴァート。そっちは順調?」
『む……オスクか。こんな夜更けに何の用だ?』
「用があるからこうして写したんだけど。氷河山の監視はちゃんとやってるんだから、これくらいいいじゃん」
『それは構わぬが……して、何用だ? お前ともあろう者が、わざわざ私の近況を聞くために写したのではあるまい』
「ふーん、よくわかってんじゃん。ま、シノノメのことも気にならなくはないけど、それは後回し。もうちょっとヒント欲しくてね」
挨拶を済ませたオスクはシルヴァートさんに用件を説明。今日が聖夜祭だということ、星の大精霊の起こし方、そしてその条件など、出来る限り細かく訪ねる。
チャンスは一度きり、でもまだ起こし方すらはっきりしていない今はとにかく情報が欲しい。どんなに難しくてもいい、それで星の大精霊に出会えるのなら。
『……ほう、今日が聖夜祭であったか。もうそんな時期なのだな』
「お、おい。自分で教えといて、忘れるとか大丈夫なのかよ?」
『すまない、シノノメでは聖夜祭にとんと関わりがないのでな。今まで抜けていた』
「あ、いえ……教えてもらえるだけで助かりますから。それで、条件はなんなんですか?」
不安そうなルーザを遮り、私は早速一番の目的である質問を投げかけた。シノノメには聖夜祭という文化が無いことにもびっくりだけど、今はそんな場合じゃない。
シルヴァートさんも一刻を争うことがわかっているのだろう、すぐさまそれに答えてくれた。
『星の大精霊を呼び覚ますのにはどの世界でも可能だ。しかし、「星が映り込む場所」に限られるが』
「星が映り込む場所? それって水面とかでもいいのか?」
『うむ、映り込むのであれば問題ない。その者が眠っている場所は自らが開いたゲートの中であるからな』
『ゲート』の術────それは、役目を果たすために多くの世界を渡り歩く必要がある大精霊のみが授かる転移術だ。ダイヤモンドミラーなど、別の世界に渡るための道具が無くても自分の意思で扉を開くことが出来る魔法。
でも、そのゲートの術も決して万能ではない。それを行使するには自分が司るモノを通してじゃないと展開できないんだ。オスクなら大きな物陰や夜などの暗闇を、ニニアンさんなら水を、シルヴァートさんやカグヤさんは月が出ていなければ使えない。
星の大精霊の場合は当然、星を通して。つまり……
「成る程な。星が出ている間に、外側からそのゲートをどうにかしてこじ開けなくちゃならない訳だ」
「こじ開けられるものなんですか? ゲートって」
『星の大精霊の場合、特殊なのだ。聖夜の一夜限り、自らを起こして欲しいがために条件が揃った時に、そのゲートが緩む時間帯がある』
「それで……その条件とは?」
『月の状態にもよるのでな。いつになるかはここで断定できないのだが、一つだけ確かなことがある』
一瞬、水鏡からの言葉が途切れる。緊張のせいだろうか、その一瞬が、たった数秒が、凄く長く感じられた。
そして、その沈黙は不意に破られる。
『星は、日の下で生きる』
「……え?」
『シノノメでは星を、「日」と「生」という二文字で表すのだ』
「つまり……どういうことだ?」
『日の真下で生を育むのが星……その刻を空が指し示し、聖夜の星と重なったその時に、映り込んだ星を射よ』
────そして、と言葉は再び紡がれる。
『それが、星の大精霊の目覚めとなる』




