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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第10章 継承せしものーHoly night Romanceー
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第119話 白銀に染まる夢(2)

 

 ……やがて日が沈み、空が澄んだ青から紺に染まり……刻一刻と聖夜祭本番が近づいてくる。

 頑張ったおかげでなんとか飾り付けも終わり、カフェもすっかりパーティー会場らしく華やかに変貌を遂げていた。そして今はテーブルにカーミラさんが作ってくれた料理が次々と並べられていき、いよいよ聖夜祭が始まることを予感させる。


 次に私達はサラダやローストビーフ、フライドポテトなどの様々な料理を始め、色とりどりのフルーツの盛り合わせやジュースをどんどんテーブルに運んでいった。

 どの料理もパーティーらしく豪華に盛り付けられていて、見ているだけでも飽きないもの。カーミラさんがこの料理にどれだけ張り切ったのかがすぐにでもわかる豪華さだ。


 冷めない内にそれらをいただきたいところなのだけど、せっかくだから聖夜祭の開催が宣言されて、鉱石のイルミネーションが点灯してから食べたい、というエメラとカーミラさんの希望でまだお預け。その合間に、私達は今日という日のために各々用意していたプレゼントを渡し合うこととなる。

 早速、一番近くにいたイアが私に綺麗な青いリボンで飾られた本を渡してくれた。


「ルージュには本にしといたぜ。オレはアクセサリーなんて良さそうなのとか全然わかんねぇし」


「わあ、ありがとう! 大事に読むね」


「へへっ、なるべく難しそうなのにしといたぜ」


 受け取ってすぐにお礼を言うと、イアは照れ臭そうに鼻を指でこする。

 本は滅多に読まないイアのことだ、きっと本屋で悩みに悩んでこのプレゼントを選んでくれたのだろう。私は辞典くらいありそうな、分厚い本の表紙をそっと撫でた。


 他のみんなも、次々に私へのプレゼントを渡してくれた。ブックカバーや栞、オルゴールに果物など、みんなそれぞれ私のためを思って用意してくれた沢山の贈り物。たちまち私の腕の中はプレゼントでいっぱいになった。

 貰ってばかりでは聖夜祭の意味がない。私も用意していたみんなへのプレゼントをちゃんと渡して、お返ししなきゃ。


「はい、これ。オスクに」


「ん、ありがと。これ……アミュレット?」


 みんなに私からもプレゼントを渡しつつ、オスクにも用意していたものをあげた。

 2日前の買い出しの時に一緒に購入していたお守り……深い紅い色の鉱石がはめ込まれた、丸いアミュレットだ。雑貨屋で買ったものだから、そこまで立派なものではないけれど。


「別にくれるもんにはケチつけたりしないけどさ、なんでアミュレットなんだよ?」


「うん、お守りにってことで。オスクに何か良いこと起こりますように、って」


「はあ?」


 私の言葉に訳がわからないとばかりに首を傾げるオスク。多分、オスクは何をやるにしても自分の力で何とかしてきたものだから、願掛けをするということも経験が無いのだろう。

 自分の力だけで解決していったオスクのその点は凄いこと。でも、私がこのお守りを買った意味に対してはそうもいかない。


「こんなことしても意味無いかもしれないけど、願いだけでも力になりたくて。光の大精霊……ティアさんには昔、お世話になったから」


「……! お前、記憶が……」


「あ、これはライヤから聞いたの。その時のことはまださっぱりだけど、早く見つけられるようにって」


「……ふーん、そう」


 ティアさん────それが光の大精霊の名だと、ライヤから聞いていた。記憶はまだ全然だから、どんなことをしてくれたのかも覚えていないけれど、お世話になったのなら目を背ける訳にもいかない。こんな飾りじゃ何の効果も無いかもしれない……それでも、何もしないで見てるだけなのも嫌だった。

 オスクは私の説明に興味が失せたようにしつつも、私があげたお守りをまじまじと見つめる。少し暗めの紅い色を写した、雫型の石が優しく輝く。オスクの目と同じ色をしたものを選んだのだけど、気に入ってくれるかな?


「……紅の石を僕に贈るとか、やっぱ近くにいると思考も似るのか?」


「え、どういう意味?」


「別に、何でも」


「……?」


 オスクにとって、この紅い石が何か意味があったのだろうか。そういえばオスクの一房だけ長いまま残ってる髪に通している飾りも、紅い石。これも、誰かに貰ったものだったのかな。

 まあ、オスクが話したがらないから、聞けず終いになってしまうのだけど。


「んじゃ、オレからも渡しとくか。ほらよ」


「……こんな布切れなんて、お前何考えてんのさ」


「オレに対してはケチつけてもいいのかよ」


 さっきと言ってることが正反対なオスクに、ルーザはやれやれとばかりに肩をすくめる。

 ルーザのオスクへのプレゼントが気になって私もオスクの手元を覗き込んで見ると、綺麗に畳まれた青い布が箱の中に収められていた。オスクが布を広げてみるとそれは横幅が狭くて、縦に長いもので。それにただの布にしては厚みがあって暖かそうだし、もしかして。


「これって、マフラー?」


「ああ。光の世界(こっち)では要らないだろうが、影の世界では役に立つだろ? 寒がりなこいつには丁度いい」


「何決めつけてんのさ。大精霊は気温如きに左右されないっての」


「へえ、氷河山で腕が凍ってたお前がそれ言うか?」


「ぐっ……」


 なんて、痛いところを突かれたと言わんばかりに顔をしかめるオスク。

 氷河山でオスクの腕が凍ったことなんて私はすっかり忘れてたのに、ルーザはそれをしっかり覚えているとは……最初からいつかこれをネタに小突くつもりだったんだろうな。


「ま、それはあくまでプレゼント。善意でくれてやるもんだから、好きに使えよ」


「ハイハイ、有り難く頂戴しておくよ」


「……ふふっ」


 色々口では言ってたけど、素直にプレゼントを交換し合う2人のやり取りを見て、私は笑みが零れる。

 普段、日常から些細なことで喧嘩している2人ではあるけれど、やっぱりなんだかんだで仲がいいんだなと思って。

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