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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第10章 継承せしものーHoly night Romanceー
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第118話 星煌めく前夜(2)


 ルーザを追いかけた先で、私達は目的の雑貨屋へと辿り着く。

 この王都で一番の大きさと品揃えを誇る雑貨屋だ。様々な品物から良さそうなものを選ぶならもってこいの場所だし、何より聖夜祭向けの品も沢山並んでいる。ルーザもそれがわかっててこの店に来たのだろう。


 その周りも多くの妖精や精霊達で賑わっている。品物を手に取ってみたり、ショーウィンドウを眺めていたり、プレゼントが決まって満足していたり。それぞれ買い物を思い思いに楽しんでいた。


「何処から見て回ろうかな?」


「入る前に大体の目星を付けておいた方がいいんじゃないか? 入ってから目移りしても仕方ないだろ」


「あ、そうだね」


 ルーザの言う通り、最初に大体どんなものを買おうか決めておかないと、あれもこれもと色々見る羽目になって時間がかかってしまう。

 そうだな、エメラやカーミラさんには装飾品でイアには運動に使えそうなものかな……と、私はそれぞれが喜びそうなものを挙げていく。そうした後、店に入って目的のものが置かれている棚を覗いていった。


「うーん、どれがいいかな……」


 と、目星を付けたのはいいものの、こうして友達のために選ぶとなるとそれはそれで難しい。

 確かに装飾品ならエメラもカーミラさんも好きだし、喜んでくれる確率は高い。でも、2人もそれぞれの好みがある。それを今、目の前に置かれている大量の装飾品の中から選び出すというのは、流行はさっぱりという私にはかなり高難度だ。


「もう持ってる、なんて言われるのも嫌だなぁ」


「そんな深刻に考えること無いだろ。プレゼントにケチ付ける奴でもないだろうに」


「そうかもしれないけど……」


「ま、重要なのはあいつらが一番喜びそうだとお前が思うものを選ぶことだ。オレが言えるのはそのくらいだな」


「そっか」


 確かにルーザの言う通り、2人ならなんでも喜んでくれそうだ。やっぱりプレゼントするからには2人へ一番いいと思うものを贈りたい、その気持ちが大切なのはなんとなくわかってはいたけれど。

 でも2人のためにと考えれば考える程、どれがいいのか迷ってしまう。友達のために迷うことはいいことなのかもしれないけれど……焦る気持ちも生じてきちゃって。


「別に、あいつらに適当なものあげればいいだけっしょ? こんなのとかどうなのさ」


「え、それ……?」


 オスクがおもむろに棚から手に取ったものを目にして、私は言葉を失う。

 オスクが見せてきたのは腕輪。腕輪……ではあるのだけど、問題はその腕輪を形作っているもの。細長い胴体は鱗に覆われて、その上三角形に似た頭部があって……どう見ても蛇だ。


「……お前、それ本気で選んでんのか?」


「そうだけど? 鱗とかいい具合に光ってるし、中々いいじゃん」


「えっと……」


 オスクの態度にはふざけている様子は微塵もない。ルーザにそう返事した通り、オスクは真面目に考えてこの腕輪を選んだのだろうけれど。

 でもこれは……なんというか、その。


「これが駄目なら、これとかどうよ?」


「……今度はバッタが鎮座してるヘアピンって」


「手の施しようがねえな……」


 オスクに聞こえないよう、私とルーザはボソッと呟きつつ、オスクのセンスに呆気にとられていた。

 オスクのことについて衝撃的な新事実だ。服装とかは普通なのに、他人にあげるものを選ぶとなると話は違うのかな……。流行に疎い私が言うのもなんだけど、そもそもこんなものを商品として置いている店もどうなんだろうか。


 オスクなりに一生懸命選んでくれている気持ちは嬉しいのだけど、オスクにこのまま任せるとプレゼントがとんでもないことになりそうだ。何か言い訳をつけてやり過ごさないと。


「オ、オスク、エメラ達へのプレゼントは自分で決めたいからさ! オスクは何か別のところ見ててよ」


「ん、そう? 僕は手伝ってやってもいいんだけど」


「い、いや、いいからオレらは向こう見てるぞ。他の場所にも色々あるんだし」


「ふーん。ま、そこまで言うなら大人しく聞いておくか」


 衝撃を受けたせいで若干しどろもどろになっていた私を、ルーザがタイミングよく助け船を出してくれた。

 少々強引ではあったけれど、ルーザがオスクの腕を引いて強制的にこの場所から連れ出してくれたおかげでなんとか収まった。ここでホッとしたらオスクに失礼だからそこは抑えるけれど。


 オスクって、もしかしたらプレゼントを贈るどころか選んだ経験すら無いのかもしれない。大精霊の仕事の忙しさも加えて、オスクが信頼していた光の大精霊もいなくなっちゃったから。……オスクのセンスはともかくとして。


「オスクには早く見つかるようなお守りでもあげようかな」


 余計なお世話かもしれない。それでも、願いという形だけでも手助けしてあげたかった。

 オスクは寂しがる節を私達に見せないけど、一番近しい相手がいなくなってしまったことに深く傷ついたことだろう。私にとって、私から姉さんがいなくなってしまうようなものだから。


 ルーザからの意見が聞けないのが不安ではあったけれど、ルーザが言っていたように深刻に考えずに2人が喜んでくれそうなものをしっかり選んでいく。

 悩んだ末に、エメラには花の髪飾り、カーミラさんには紅い色の石が散りばめられたネックレスをそれぞれ贈ることに。2人とも、喜んでくれるかな。


「えっと、後はイアのと……あ、姉さんへのプレゼントも決めなくちゃ」


 2人へのプレゼントが決まっても、まだまだ買い物は終わらない。

 2人へのプレゼントが選び終わって、どんな感じに選べばいいのかちょっとコツが掴めてきた気がする。この勢いに乗らなくちゃ、と私は他の売り場へと駆け出した。





「これで良しっと!」


 そうして私は今回の買い物を終えて、戦利品を確認。

 どれも綺麗な包装紙に包まれて、リボンが付けて丁寧なラッピングが施された品物の数々。腕で抱えきるのがやっとなそれらを持ち上げると、ちょっとした達成感すらあった。ルーザも私の成果を見て、ホッとしたように息をつく。


「良かったじゃねえか。これで一安心、か?」


「うん、これで当日もバッチリ。……で、オスクのプレゼントは大丈夫?」


「ああ、オレが遠回しに駄目出ししまくって変なもの買うのは阻止した」


「お、お疲れ様……」


 オスクに悟らせないように注意するのはかなり苦労したことだろう。その証拠にルーザの表情に疲労の色が見て取れるし……。

 まあとにかく、オスクもルーザのおかげでちゃんとしたプレゼントを買えたようだし、これで下準備も完了だ。後は今日買った材料で当日のための料理を作ったりするだけかな。


「おいおい、お前らさ。聖夜って聞いて大事なこと忘れてない?」


「「え?」」


 不意に横槍を入れるようにかけられたオスクの言葉に、私とルーザのぽかんとした言葉が重なる。

 買い忘れたものは無い筈だけど。何か忘れていることがあったかな、と2人揃って首を傾けているとオスクはやれやれとため息をつく。


「これまでお預けになってた星の大精霊。……まさか忘れた訳じゃないよな?」


「「あっ⁉︎」」


 ……そうだ、すっかり忘れていた。

 聖夜にしか目覚めないと聞いて、今まで会うことが出来なかった存在────星の大精霊のことを。

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