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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
番外編 旅路の狭間 ーReverse sideー
324/711

sub.暁や 雪華たゆたふ 神隠し3/3(4)

 

 ……行く時と同じ、日差しさえ遮る木々が生い茂る暗い森の中。かなりの時間を村で過ごしたせいですっかり日が沈み、夕暮れになったこともあって中は漆黒の闇に閉ざされている。

 私は昨日と同じく灯りを灯せるカンテラ魔法を使って行く先を照らし、地面の足跡を確かめて、その先にあるであろう祭りが行われていた通りを目指す。疲労もあって足取りは軽いとはいえないものだけど、一歩一歩確実に。


「はあっ、はあ……」


 静寂に包まれる森の中、私の息遣いと木の葉がざわめく音だけが辺りに響く。

 結局一日空けてしまった。一晩どころか丸一日行方不明なんて、時間としては大したものではなくてもルーザ達が心配するのには十分だ。


 戻ったらなんて言い訳しよう……そんなことを思い始めた時、視線の先にカンテラとは別の明るい光が見え始めた。


「出口だ……!」


 出口を見つけるとその後は早い。急いで戻ろうと、私はラストスパートとばかりに森を駆け抜けた。


「で、出られたぁっ……!」


 暗かった森をようやく抜けて、安堵感から思いっきり息を吐く。肩の力が抜けて、私はその場で脱力した。

 周りを見渡してみると、行く時と変わらない明るい通り。提灯が吊るされた下で様々な屋台がひしめき合い、妖精や精霊達が楽しげに祭りを堪能している光景が目に飛び込んでくる。


 あれ、何かおかしいような……そんな違和感を感じた、その時。


「おい、ルージュ!」


 その声にハッとして振り向くと、大きく腕を振って居場所を知らせてくれているルーザが。その周りにはオスクやイアなどのいつものメンバーに、イブキやモミジさんも集まっていた。

 私の姿を見て何も動揺していないのが引っかかるけど、ここで突っ立っているわけにもいかない。みんなに謝ろうと、私も急いでその輪に加わった。


「みんな、ごめんなさい!」


「は? 何がだ?」


「だって、一日もみんなに何も言わないまま何処か行っちゃってたから……」


 みんなの元へ行くや否や、私は深々と頭を下げる。

 集合時間に遅れるどころか、丸一日姿を見せなかったんだ。一刻も早く帰ろうとは努力していたけれど、それはもう言い訳に過ぎないことは自分がよくわかっている。だからこそ、一日中待たせてしまったみんなに精一杯の謝罪をした。


 ……だけど、次に私にかけられた言葉は全く予想外のものだった。


「は? 何言ってんだよ、お前がいなかった時間なんてたった一時間だぞ?」


「……え?」


「一時間を一日と勘違いしたわけ? ハハッ、船旅したからって時間まで混乱したっての?」


「お前だって疲れたとか言ってさっきまで昼寝してただろうが……」


「え、ええっと……?」


 そんなルーザとオスクの会話に、混乱するばかりで返事ができない。私は確かに昨日迷って一日ここには帰って来なかった筈。でも言われてみれば、確かイブキとモミジさんに昨日だけ行われるという筈の祭りは今日も開催されているし。

 さっき感じた違和感がそれだ。でもどうして、一体どういうことなの?


「さっき鳥居から出て来とったけど、鳥居の先に行ってたっちゅうわけなん?」


「え。あ、はい……ちょっと気になることがあって、鳥居の先の森の中に」


「うん? そこ、ずっと昔に崖崩れしてるから通れんやろ。手前にも『入るべからず』って看板あるし」


「えっ⁉︎」


 モミジさんのその言葉を聞いて、私は慌てて後ろを振り返る。

 モミジさんの言う通り、さっきまで私が通ってきた筈の森には木々が生い茂っているのはそのままだけど、その間の道は大量の土砂で塞がれていた。土砂は雑草やコケで覆われているし……それが昔からあることを物語っていた。

 確かに、『入るべからず』という看板が建てられているけれど……じゃあ、さっきの村は。村の妖精達はどうなったというのか。


「あの、この先にあった村は……!」


「ああ、誰かにその村の話でも聞いたんやね」


「確かにこの森の先には村があったな。まあ、何百年も前の話だが……その村にとある妖が訪れ、それまで揺らぐことが無かった妖に対しての諍いを無くしたと伝えられている」


「土砂崩れの時もその妖が避難を促して、村の妖精は奇跡的にみんな助かったんや。そして村の妖精達はその妖を自分達救った英雄みたいに扱ってな、それを感謝するのがこの祭りの始まり言われてるんよ」


 何百年も前の話……イブキのその言葉に私は絶句する。

 だけど、その出来事は私がさっきまでみたものとあまりにも似すぎている。モミジさんに聞く限りじゃ妖のことについてはあまり詳しく言い伝えられていないようだけど……村の妖精達と仲良くなった妖なんて、フユキのことしか思い当たらない。


 でも、じゃあさっき私が見ていたことは。体験していたことは一体いつのものだったというのか。しかも私が一日と思っていた時間はルーザ達には一時間と捉えられているし、村への道は土砂に閉ざされているし……もう何がなんだかわからない。


「あ、そうそう。かんざしの感想聞かせてな! 付け心地とかどうやった?」


「え! あ、はい……」


 そうだ、かんざしのことすっかり忘れてた……。そう言えば昨日からずっと付けっ放しだったな。

 あれだけ激しく動いても外れもしてないし、壊れてもいないから丈夫さは立証されるだろうけれど。それを全て説明する上で信じてもらえるかはわからない。


「そのかんざし、桃の花飾ってみたんやけど……もしかしたらそれが原因かもわからんなぁ」


「え、どうしてですか?」


「桃の花ってシノノメじゃ不老不死や長寿の象徴なんよ。そのせいか霊力も高い言われててな、もしかしたら桃の力であんたに幻見せたんやないか、ってな」


「……」


「なんてな、冗談冗談! 与太話は置いといて、しっかり感想聞かせてもらうわ」


「……はい」


 幻、冗談……モミジさんの言葉を、私はすぐさま否定出来なかった。桃の花の霊力かはわからない、でもそれは……あながち間違いでも無いように思えたから。


 あの出来事は真実か……否か。それは私にはわからないし、知る由もない。

 けれど、私の手の中にはあの時の白い雪玉のような小さな石が確かに握られていて────それは一瞬、自分の存在を証明するかのように、空に輝く星の如くキラリと光輝いた……。

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