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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第2章 影の輪唱
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第11話 影へと歩みよる(3)

 

 紅茶が届く頃に全員を椅子に座らせ、オレはフリードとドラクに昨日まで何処にいたのかということ、ルージュ達は光の世界のことについて語った。

 2人とも、今まであのダイヤモンドミラーの先に異世界があるなんてことは当然知らず、ルージュ達がそこから来たこと、光の世界の存在に驚きつつも興味津々にオレとルージュ達の話に聞き入っていた。


「光の世界なんてのがあるなんて、びっくりだなあ。ダイヤモンドミラーなんて、不思議な鏡とは思っていても触ったことも無かったし」


「あ……でも僕、確か以前読んだ本でそんな記述を見たことがあったような……」


「あっ。じゃあその本、今度見せてくれないかな? 世界がまだ交流があった時の記録とかちょっと調べてみたくて」


「は、はい。もちろん!」


 フリードとルージュは本の話で盛り上がっている。

 フリードは元から読書好き。ルージュも趣味は読書のようだし、その点では気が合うのかもしれない。


「光の世界か、僕も行ってみたいな。あ、その前にこっちの案内だよね」


「ああ。オレも数日ここを開けてたからしばらくは周りに説明した後だな。とりあえず行く場所の希望とかあるのか?」


「こっちのスイーツ試してみたいな!」


「オレは武器とか物色したいぜ!」


 エメラとイアは待ってましたと言わんばかりに声を張り上げる。

 ……予想通り見事に真っ二つだな。どうせそうなるとはわかっていたが。


「ルージュさんはありますか?」


「うーん……これといって希望はないかな。色々まわってみたいし、2人に合わせる感じでいいよ」


「その2つがあるのは王都の東大通りだね」


「よし、決まりだな」


 これで行く場所も決定。オレらは紅茶が飲み干すと、早速王都に繰り出すことに。


 王都に着いた途端、2人は目的の店へまっしぐら。最初、ここに来てガタガタ震えてたのが嘘のようにはしゃいでいる。


「わあ、珍しい材料を使ったのがいっぱいある!」


「お、ルーザの言う通り向こうにあるものと形が全然違うんだな!」


 大通りの賑わいに混じって2人の弾んだ声が聞こえてくる。

 ルージュとはいうと、周りをキョロキョロしながら見ていた。オレも向こうで見たものはこっちとは気候の違いもあるからか、街並みも、服装も、建物の作りまでミラーアイランドとは正反対。オレも旅行の試しなんかなかったから、その文化の違いを目の当たりにする新鮮さはよくわかる。


「異世界のものはやっぱり珍しいんですね」


「ああ。こことは季節感も真逆だからな」


「へえ。今度は僕らが案内してもらおうかな」


 フリードとドラクも光の世界に興味津々。そんな2人の反応を見ていたら、ここを二週間空けてしまった詫びに、2人にも落ち着いたら向こうを案内してやりたい気持ちも高まった。

 そんな会話をしている内に3人も満足したようでオレらの元へ戻って来た。


「あー、美味しかった! カフェのメニューの参考にもなったし、わたし大満足!」


 なんて、嬉しそうに腹をさするエメラの口周りには少量のクリームが付いている。この短時間でもう菓子をいくつか平らげていたらしい。

 ったく、こういうところだけは早いものだ。


「小遣い必要以上に持ってきてねぇから、流石に買えはしなかったけど、面白かったぜ!」


「楽しめたなら何よりだよ。ルージュさんは何かしたのかい?」


「うん。雑貨屋とか本屋とか色々。姉さんにもここのこと紹介したいから」


「あ、ルージュさん、お姉さんがいたんですね」


「ああ。向こうの国の現女王だ。ルージュはその妹だから、第二王女ってことになるのか?」


「……え、ええっ! 王女様⁉︎」


「し、し、失礼いたしました‼︎」


 ルージュが王女と聞いた途端、フリードとドラクは大慌てで頭を下げる。ルージュも2人の態度の変わりように慌てて否定するかのように腕を振った。


「い、いや、いいよ。こっちでの経歴なんてゼロみたいなものだし」


「そうそう。それにルージュは寧ろそういう風な扱いって苦手だから」


「そ、そうなんですか?」


 ルージュとエメラにそう言われたことでフリードとドラクは顔を上げる。2人も最初こそ驚いていたが、大分落ち着きを取り戻したようだ。

 確かに、王女と聞けば誰だって驚くだろう。でもルージュはこうしてエメラやイアとも何の隔たりもなく接しているし、寧ろ変な気遣いをされることが気になるようだ。


「オレとエメラだってタメ口聞いてるぜ? 大丈夫だって」


「そう……なんですか」


「じゃあごめんね。変な態度とっちゃって」


「気にしないで。その代わり、今度光の世界に来た時に色々な場所に案内するよ。今日のお礼もしたいから」


「ありがとうございます、ルージュさん!」


 ルージュの言葉に、フリードもドラクも嬉しそうに笑った。会ってまだ数分というところだが、打ち解け始めているようだ。

 多少のいざこざはあったが、話がまとまったようだし、それぞれ出会ってまだ数分でもこうして隔たりなく会話出来ている。世界の違いはあれど、こうして仲良くなれることに安心した。

 これで希望のところは回れたし、次はどうするか。


「ん、この先なんだ? 変な霧がかかってるけどよ」


 そんな時、イアは大通りから逸れた道を見ていた。

 イアの言う通り、霧がかかってこことは別の雰囲気を醸し出している。そして、そこからはゾワゾワするような……言い表わしにくい妙な空気が漂ってきている。


「あ、そこはやめておいた方がいいよ。僕らには居心地悪いから」


「どういうこと?」


「ここの国の土地は元々、霊が集まる場所なんです。窪地ですから霊気も溜まりやすくて。妖精や精霊が後から開拓したのですが、今でも霊のためにそういった場所を残していて」


「え、じゃあ死霊の通り⁉︎」


 説明を聞いた途端、あっという間にルージュの背後に隠れてしまうエメラ。足をガクガクと震わせて、あからさまに怯えつつも盾にされているルージュは苦笑い。


「ビビりだな。溜まり場になってるってだけで、別に悪さなんざしねえよ」


「あそこにいる霊達は共存も出来る、穏やかな霊達だよ。あの霧は霊を悪霊にしないために出てるんだ」


「そ、そうなんだ。よかった……」


 エメラは胸をなでおろしているが……オレはその霧に違和感を感じていた。


 本来なら、通りと街の境目には霧が漏れ出してこないのだ。だが……今はそうではなく、通りから僅かながらも霧がゆらゆらと漏れ出していた。まるでこちらへと侵食するかのように霧が街へと這い出してきてくるようにも見える。

 それにあの霧の濃さも。以前は視界を覆ってしまう程にまで濃くはなかったのだが、今では通りの先が見えないくらいに通りを白く染めていた。


「なあ、あの霧濃くなってるんじゃないか? オレが向こうに行った前にはあそこまでじゃなかった気がするんだが」


「うーん、そうなんですよね……。あのままだと溢れちゃいますよ」


 やはり違和感は気のせいではないらしく、フリードもドラクも怪訝そうにしている。

 気にはなるが、今はいいか。霊のためである霧だし、別に目に見えて害はない。どうせ霧だ、そのうち晴れるかもしれない。

 そう思って気持ちを切り替え、3人に他の場所を案内しようと歩き出す。


 その後は3人をつれて、王都の周辺や王城の傍、郊外にあるいくつかの施設を見てまわった。3人とも、珍しいようで表情を輝かせている。

 全てが終わる頃にはすっかり日も暮れて、空は夕焼けの色に染まっていた。陽が沈もうとしているせいでまた北風が強まった気がする。

 時間も程よく経ち、こんな夕暮れ時だ。3人も帰ることにしたようで、オレらは再び鏡の泉へと向かった。


「今日はすごく楽しかった! みんなありがとう!」


「ああ。今度はこっちにも来いよな!」


「じゃあまたね、ルーザ。フリードとドラクも」


「はい、また今度!」


 フリードの返事の後、3人は鏡をくぐって元の世界へと戻って行った。3人とも、鏡に呑み込まれるように銀に輝く板へと吸い込まれ……一瞬で姿を消した。

 それを見届けるとオレとフリードとドラクがその場に残された。昨日とは立場が逆だ、人数が少なくなったことで寂しさが漂ってくる。


「今日はこれでお開きかな? いつかこの向こうに行けると思うと楽しみだなあ」


「うん。その前に、ルーザさんのことを学校の先生に伝えなくてはなりませんが」


「はあ……どう説明するか」


 それが一番の問題だ。行方不明と伝わってたならかなり問い詰めらるに決まっている。

 とりあえず……どうなるかもわからないことを今は考えても仕方ない。オレは不安になりそうな気持ちをこらえ、家に帰る道を歩き始める。


 明日はどう説明するか、どんな言葉で誤魔化すか。……そんな風に出来るだけ短く済ませられるような言い訳を考えながら3人で丘を降りて行った。

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