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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
番外編 旅路の狭間 ーReverse sideー
318/711

sub.暁や 雪華たゆたふ 神隠し2/3(1)

2/2までの予定でしたが、文字数が予想以上に多くなったので急遽1部分増やすことにしました。

急に変更してしまい、すみません>_<

 

 雪女の子供だというフユキの友達を作るという目標を手助けするため、私は改めて周りを見渡してみる。

 見た所、この付近に街らしきものは見当たらない。建物どころか街灯の一つもないようだし、この辺りには妖精も住んでいないらしい。確かにここに来るまでの道中は深い森だったから、かなりの町外れにきてしまったのかも。


 流石に妖精の一人もいない中で友達を作るなんて無理な話だ。町外れ、しかも夜とくれば魔物も出るだろうし、色々危険だ。


「ここは……戻った方がいいかな」


 祭りが行われている通りなら明るいし、何よりルーザ達も待っている筈。そろそろみんなも集まっている頃だろう。

 まずはルーザ達、みんなにフユキのことを紹介するのも一つの手だ。いつものメンバーにイブキとモミジさんも加われば十人、フユキにとってもそれだけの人数と仲良くなれるのはきっと嬉しいことだろう。


「フユキ、一旦町に戻ろう。歩けそう?」


「うん、大丈夫」


 フユキの小さな手をしっかり握り、2人で立ち上がる。そして来た道を引き返そうと後ろの森へと踏み入れたら……


「な、ない……⁉︎」


 私のこと視線の先。ここに来るまでの道標にしてきたフユキの足跡が何処にもない。あれが唯一の目印、それが無くては町へ戻れないのに。

 ほ、方向を間違えちゃっただけだよね。探せばすぐ近くにある筈……。


 けれど……その周りを探しても足跡は見つからなかった。しかも、試しに森の中を進んでみてもその先には無かった筈の崖が切り立ち、その下は地面が見えない程高かった。

 近くにあった筈のものをこうも簡単に見失うなんておかしいし……もしかして、変な魔法に巻き込まれてしまったのかも。それなら解除すれば戻れるかもしれない。

 そう考えを改めて、首に下げたクリスタルのペンダントを握りしめる。そして、森を見据えて一本の線を描くように虚空に指を滑らせ……呪文を唱えた。


「────『ブレイク』!」


 ……。

 ……駄目だ、何も変化無し。あらゆるものを絶てる絶命の力ならなんとかなるかもしれないと思ったのだけど、何も効果がないとなるとこれは何らかの魔法による現象じゃないんだ。

 魔法の可能性も無し、道標も見つからない、しかもこんな真っ暗で街灯も何一つないこの場所で、助けすらも求められず。今出来ることはやり尽くしたし、これはもう……お手上げだ。


「フユキは来た道、覚えてる?」


「……こわくて、あわてて逃げてきちゃったからわかんない」


「だよね……」


 フユキも逃げるのに必死で、来た道がどの方向か覚えていなかった。

 町外れで集落もなく、道を聞けそうな妖精も一人も見当たらない。自力で何とかする手段ももう無いし……今はもう、諦めるしかないようだ。


「ごめん、フユキ。迷っちゃったみたい……」


「……? なんでお姉ちゃんが謝るの?」


「後先考えないで追いかけてきちゃって戻れないなんて情け無いにも程があるし……。追いかける前に何か保険かけておくべきだったかな」


「ううん、お姉ちゃん悪くない。ぼくを追いかけてきてくれたもん!」


「……うん、ありがとう」


 なんだか励まされたようで、私は思わずフユキにお礼を言っていた。

 ……私は辺りと状況を再確認。一部の通りしか知らない異国の地で、このまま闇雲に歩くのも現実的じゃないこの現状。居場所を確認しようにも地図を見ても居場所がさっぱりだし、今自力ではもう事態を好転させられないんだ。

 今は敢えてここを動かない方がいいかもしれない。目印は見失ってしまったけれど、ここから距離はそう離れていないだろう。なら、明るくなってから探した方がまだ見つかる確率は高い。


 みんなには明日、ちゃんと説明して謝ろう。ルーザ達には私が急にいなくなったなんてかなりの心配と迷惑をかけちゃうかもしれないけれど……これ以上迷って戻るのも困難にしてしまう方がマズい。明日の朝一に帰り道を見つけることにしよう。

 そう覚悟を決めて、野宿を決め込んだ私は辺りをキョロキョロと見渡す。なんとか寝られるような、モミジさんから借りた着物もあまり汚れないような場所がいいのだけど……。


「うーん……何処かに雨風凌げるような場所ってないかな」


「あ。ぼく、かまくらなら作れるよ!」


「かまくら……って何?」


「ん、ちょっと待ってて!」


 いうが早いか、フユキは手に向かって小さく息を吐き、それをそのまま空に向かって飛ばす。

 途端に、小さな雪雲が作られて、辺りに粉砂糖のような雪がちらちらと降り始めた。フユキはできたばかりの雪をせっせと掻き集め、手でなにやら壁のようなものを形作っていく。


 フユキの手で作られていくそれは土台を持ち、しっかりとした壁を成して。やがて雪だけで作られた、丸いドーム状の大きな建物のようなものが完成した。ご丁寧に正面には私もかがめば辛うじて通れそうな入り口も付いている。


「これが、かまくら?」


「うん! 雪だけど、中はあったかいんだよ」


 フユキは着物の袖をバタバタと仰ぎ、私に入って入ってと催促してくる。

 フユキがせっかく頑張って作ってくれたものだ、ここは素直に言われた通りかまくらに入ってみよう。そう思って私は精霊の姿になって大きくなった身体を、出来るだけ縮こまらせてかまくらの中に入ってみた。


「わあ……」


 その中の光景を見て、私は思わずため息をこぼした。

 雪だけで作られた、真っ白の空間。光が遮られて今は真っ暗だけど、外から入ってくる僅かな月明かりでその雪がキラキラと輝いていて。まるで星々が集まっているかのような、綺麗で神秘的な雰囲気だった。

 私の息が中に閉じ込められるせいだろうか、雪で作られた建物だというのにフユキのいう通り寒くないし、寧ろ丁度いいくらい。


「凄い……短時間でこんな立派なもの作れるなんて」


「えへへ、友達ができたらいっしょに作って、遊びたかったの。今はお姉ちゃんだけだけど……いつかいっぱいの友達とかまくらでいっぱい遊びたいの」


「ふふ、いい夢だね」


 そういうとフユキは嬉しかったのか、また顔をほころばせる。雪の妖なんて思わせないくらいに、明るい笑顔だった。

 こうして友達が欲しいと強く思っているんだ、きっとフユキなら種族の壁だって乗り越えられる筈……私はそう思いながら、寝る準備を整えていった。

 まずは2人で汚れが少ない葉などで集めてきて、剥き出しになっていた土の地面をそれらをしっかり敷き詰めて汚れないように覆い隠す。そして、寝た時に障害にならないよう、石もしっかり取り除けばこれで準備完了だ。寒さしのぎとお腹を冷やさないように元々着ていたローブの上着にくるまれば、なんとか眠れそうかな。


「よいしょ……っと」


 その上に横たわると、雪で囲われた天井が視界いっぱいに飛び込んでくる。真っ白でキラキラと儚げに光る雪は一切の汚れもなく、見惚れてしまう程綺麗なもので……迷ってしまっていることを一瞬忘れそうになる。

 時刻も、自分が今いる場所もわからない。フユキを助けたいだけだったのに、いつの間にかこんな大変なことになってしまっていた。


「……心配してるかな、みんな」


 ルーザにオスクに……みんなの顔が次々と浮かんでくる。いつまで経っても集合場所に来ない私を、探し回っているかもしれない。

 明日に必ず帰り道を見つけなきゃ……そんな思いを胸に、私は目を瞑った。

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