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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
番外編 旅路の狭間 ーReverse sideー
314/711

sub.シーサイド・パニック(3)


 逃げ込んだ先で……オレは茂みの隙間から様子を伺った。

 幸いなことに、シーサーペントは図体のでかさのせいで素早い動きが出来ないらしい。茂みの中から様子を伺って見たが、オレらが何処へ行ったかは把握しきれていない様子だ。

 まだなんとも出来ていないが、アレを目の前にしないだけで安堵感に包まれる。


「やっぱおかしいだろ、こんなの。本当にルージュが指定したビーチなのか?」


「はあ? 南東のビーチだって言われたから来たんじゃん。地図にだってそれが……」


 オスクはそういいながらミラーアイランドの地図を広げ、ビーチの位置を再確認。そして、何かに気づいたように「あっ」と声を漏らし、


「この地図、逆さに見てたわ」


「何やってんだ、この馬鹿‼︎」


 ……と、今更ながらのカミングアウトに突っ込むと同時に頭を抱えた。

 地図には方位マークが描かれているのだから、普通は間違えないだろう。だが、それを見ていたのは世間などに色々疎いオスク。今になって、やっと自分の見方の間違いに気づいたらしい。

 しかも、その場所が最悪だ。南東の逆、つまりは北西の浜辺に来てしまったというわけだ。ミラーアイランドの北は王城とは反対方向で思いっきり町外れ。ルージュの屋敷も北の方角に位置するが、こんな浜辺ではかなり距離がある筈。


 武器は無いし、服装はこんな水着だし、しかも相手は二十メートルはありそうな大海蛇。とてもじゃないが勝算が見えてこない。


「どーすんだよ、これ……! 丸腰でなんとかするとか無茶苦茶にも程があるだろうが……」


「武器ないだけで随分しおらしくなっちゃって。拳の一つでも使ってみれば?」


「はあ? そんなこと出来るわけ……いや、意外といけるか?」


「なに本気にしてんだ⁉︎ 冗談に決まってるだろ! お前の場合やれそうで怖いから、絵面的にもそれ引っこめろ!」


「チッ」


「まったく……丸腰なのも心許ないし、とりあえずこれでも持っておけば?」


「おっと」


 オスクはそういって、オレに向かって何か投げて寄越してきた。

 オスクがさっきまで魚を突くのに使っていた銛だった。すらりと長い、それでも確かな重みがあるその銛は、今まで丸腰だったせいかこれが手に収まる感触があるだけで心が落ち着く気がした。


 だが魚を突く道具なのだから威力は確かとはいえ、斬りつけられる鎌とは随分使い勝手が違うだろう。普段のような立ち回りは出来ないのが心配だが……武器らしいものがあるだけマシか。


「まあ、こんな人気ないってことはアレにビビってここが使えなくなってんだろ? なら、潰しておくに限るじゃん」


「ふん、わかってるっての」


 一度知ってしまった以上は見過ごせない。こんな誰も来なくなり、しかもあんな看板が立てられるということはシーサーペントはかなり凶暴で間違いない。それも、共存することが不可能なくらいに。

 確かに、あんなデカブツを野放しにしていたら、この辺りの魚を食い尽くしてしまうだろう。それに留まらず、他の浜辺で危害を及ぼす可能性だって。


 問題はどうやってあんなのと戦うかだ。見た限りじゃ、シーサーペントは絶対に牙を使ってくるだろう。あとは尾っぽも。あれだけ巨体だと、振り下ろした時の威力もかなりのものだろう。


「うじうじしてても仕方ないっしょ。突っ込んで奇襲かけるぞ」


「ああ!」


 いくら危険だからと隠れてばかりは性に合わない。オレとオスクは顔を見合わせて頷き合い、意を決して茂みの中から飛び出した。


『キシャァァァアッ‼︎』


 その途端、空気を裂くような音が浜辺響き渡る。

 ビリビリと震える空気、凶器の如き鋭利な牙、そして視界に収めきれない程の巨体。いくら今は精霊の身体になったからとはいえ、こんなものを目の前にして足がすくまないわけがない。


 チッ、とにかくやるしかねえ!


「『ディザスター』!」


 魔力を込めた銛を振るい、衝撃波を飛ばす。

 ……が、やはりいつもと武器が違うせいか、鎌のように大きな刃が飛ばせない。鋭い矢のような、長く鋭い光線がシーサーペントに向かって飛んでいく。


『キシャンッ!』


 当たりはしたが、それが虫に刺された程度と言わんばかりにシーサーペントは動じていない。煩わしそうに首を振っただけで、大したリアクションを見せないんだ。


「こっちもいくか。『カオスレクイエム』!」


 しかし、それがどうしたとばかりにオスクもオレに続いて大剣から魔力で形成された刃を放つ。

 やはり使い慣れている武器だからだろうか、オスクの放った魔法はオレよりずっと鋭く、重い一撃をシーサーペントに浴びせた。


『キシャアッ⁉︎』


 流石は大精霊といったところか。オスクの攻撃はシーサーペントに命中すると同時に、あの巨体を退け反らせた。

 よし! でかい図体が怖かったが、こうしてダメージを入れられるなら勝ち目はある。


 幾らオレらの数十倍あるバケモノだとしても、攻撃が通るのなら恐れる程じゃない。オレらより巨大な敵や恐ろしい見た目の魔物なんて、今まで散々戦ってきた。シーサーペントも例外じゃない、こんなでかいだけのバケモノに驚くなんて今更だ。

 オレはそう気持ちを切り替え、手に持った銛をしっかりと握りしめる。武器が普段とは違うなんて、そんな弱音は吐いていられない。


『シャァアアッ!』


 だが、シーサーペントもやられっぱなしじゃない。体勢を建て直すと、そのドラゴンのような頭を持ち上げ、オレらに食らい付いてくる!


「うわっ⁉︎」


 ガチンッ、とまるで金属がぶつかり合うような音がすぐ側で響く。

 かわしたためにその攻撃は当たりこそしなかったが、馬鹿でかい頭での攻撃は周囲の砂をもうもうと巻き上げて、見た目以上に範囲が広かった。何より、自分の頭程ある牙が目の前に迫って来る光景は恐怖でしかない。


 くっそ、あんなのに噛まれたら大怪我どころか、身体が引きちぎられるぞ……!

 身体の動きこそ鈍いものだが、獲物に食らいつくが如くの攻撃は素早いもの。巨大な魔物とはいっても、飢えを満たそうという動物の本能から来る行動なのだろうか。

 小細工もないシンプルだからこそ厄介だ。アイツの裏をかくことも難しい。だが、そう簡単に餌食になってたまるか!


「『カタストロフィ』!」


 いつもと違う、なんて弱音は吐いていられない。違うなりに精一杯銛を振るい、さらに強い一撃を叩き込む。

 シーサーペントはでかい図体が災いし、こちらの攻撃は避けることが出来ない。どれだけ体力を削れているかは検討つかないが、それでも無傷なんてことはないだろう。


 だが、敵も簡単にやられてはくれない。その魚のような、それでもどこか悪魔の翼を模したような尾っぽを振り上げ、海に叩きつける。

 その途端に海は大きく波立ち、その波がオレらを飲み込もうと迫って来る。


「やばっ……!」


 飛ぼうにも目の前に迫っている波からは逃れられない。せめて波に攫われないよう、海とは逆方向に向かって浜を蹴って必死に走る。


「うえ、しょっぱ……」


 海水が多少口に入ったが、波に攫われるなんてことからは逃れられた。さっきの魚の塩焼きの味を思い出して、口の中は最悪だが……。

 しかし、これはマズい。波を起こされたら、海との距離を取らざるを得なくなる。それはシーサーペントとの間合いを取ることにもなり、オレらの攻撃範囲からヤツが外れてしまう。だが、シーサーペントは巨大だから首を伸ばせばオレらが海から離れていても届いてしまうんだ。


「おい、ここからどうすんだよ!」


「さーてね。あの口さえなんとかすれば勝ち目が見えてくるけど、流石に一人で口塞いで攻撃なんて出来そうにないし」


 確かに、シーサーペントの一番の武器はやはりあの牙だ。尾っぽで波を起こす方法も厄介だが、あれはオレらが攻撃させないようにさせる一つの手段として使っていた。

 口を塞ぐにしても安易な縛り方じゃすぐに振り払われる。逆に閉じなくさせるとしてもどうやれば……。


「そこは知恵振り絞ってなんとかしなよ。普段だってそうやってきたっしょ?」


「普段って、機転利かせた戦法思いつくのはいつもルージュだろうが」


 オレはとにかく攻撃一点張りで、前線にでて切り込むタイプだ。前から一歩下がって敵を観察し、突破口を見つけ出すのはいつもルージュだった。

 真っ正面から突っ込んでばかりのオレに出来ることなんてあるのか?


「ほらほら、だからってジッとしてるとこっちがやられるぞ!」


「ッ!」


 オスクのその言葉にシーサーペントへ向き直り、今まさに牙が迫っていたところを咄嗟にかわす。

 シーサーペントは何回も何回も頭を持ち上げてはこちらを喰らおうと迫ってくる。シーサーペントの頭が浜にぶつかる衝撃で砂埃が舞い上がり、視界が遮られる。


「ぐあっ⁉︎」


 そんな中でシーサーペントは暴れまくり、退路を断たれる。オレの横を吹っ飛ばした岩で閉じ込め、そして目の前を自らの頭部で完全に方位する。


「や、べぇッ……!」


 完全に袋のネズミだ。後はもう口に入れるだけと思ったのか、シーサーペントはさっきより無茶苦茶に牙を突き立ててくる。オレは岩の隙間からかろうじて転がって逃げるだけ。

 くそ、どうしろってんだよ……!


「なーに弱気になってんのさ! 寧ろチャンスだろ、ソイツの口をねらえ!」


「……!」


 突如聞こえてきたそのオスクの声にハッと振り向いた。……確かにこいつの一番の武器を奪うなら今しかない。

 目の前にそびえる、牙がずらりと並んだ巨大な口が迫ってくるその光景。目の当たりにするだけで恐ろしいというのに、自分の視界いっぱいに飛び込んでくるなんて余計に恐怖が駆り立てられる。


 だが、恐怖の対象だからこそ。力を精一杯振り絞って、握りしめた銛をソイツの口に思いっきり突き刺した。


「くら、えッ────‼︎」


 細くも鋭い銛はシーサーペントの口を舌ごと貫き、さらに柄で閉じれないように上顎をつっかえさせた。

 これには流石の大海蛇もたまらない。口が閉じれなくなったことにシーサーペントは苦しそうにのたうち回り、なんとか銛を引っこ抜こうと暴れる。

 だが、銛は思ったよりしっかりとシーサーペントの口を捉えてくれたようだ。どれだけ暴れようとも、口に突き立てた銛が外れることはなかった。


「今だッ!」


 オスクに合図を送り、オスクも岩越しからしっかり頷いてくれた。大剣を振り上げて闇の塊を生成する。


「彼方まで吹っ飛べ! 『ゲーティア』‼︎」


 闇の矢がその身体を貫き、シーサーペントは海の彼方まで消し飛ばされ────

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