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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第9章 精霊を統べし風ーFairy queenー
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第108話 Lunatic or Heretic(2)★

 

「……ったく、だから使いたくなかったってのにさ」


 だが、その声は吹き飛んでいなかった。姿と一緒に無くなった筈の軽口が、爆風の先で聞こえてくる。

 いつもと変わらない、何か面倒事に直面した時の、うんざりしたような言葉が。


「暫く振りのせいで大分準備に時間かかったし。これだから面倒事は嫌いだね」


 ……やがて砂煙が晴れてくる。しかし、そこにいた精霊の姿は同じようで何処か違う。いつもはうなじ辺りまでしかない黒髪が、足首に届きそうな程伸びていて。


挿絵(By みてみん)


「やっと本気でかかれるってんだ。久しぶりに暴れさせてもらおうか」


「なんだ、その姿は────」


 裏も、オスクの姿を目の当たりにして動揺が隠せていない。

 オスクが今、提げているのは今ある筈のない長い後ろ髪。かつてオスクが今は必要ないからと捨てたらしいそれが、オレらの目の前でなびいているんだ。


「馬鹿なッ……お前はそれを捨てた筈だ! 捨てたものが、そんな簡単に戻るわけがない。それなのに何故だ⁉︎」


「バーカ。僕は今、これでも追われてる身だぞ? ひっ捕らえられるかもしれないってのに、そんな簡単にポイっと捨てるとでも思った?」


「まさか、捨てたのはただの演技だというのか⁉︎ 最初から、このつもりでッ……!」


「……捨てたのは本当、それに嘘はない。だけどやろうと思えば出来るように保険はかけてた。じゃないとこういういざって時に、大精霊ともあろう者が役立たずだもんなぁ?」


 オスクは裏を挑発するかのように、大剣の切っ先を裏に向ける。

 その表情もさっきとはまるで違い、余裕をかましたものへと塗り変わっていた。いつもの生意気で、小馬鹿にしたように、それでいて何処か頼もしくある……そんな表情に。


「それに、まんま昔のままってわけじゃないけど。 僕だって日々成長してんだ。過去の(あやま)ちを反省して、それを積み重ねてさ。過去を否定して、今も現実を毛嫌いして目を逸らし続けるお前が果たして勝てんのかな?」


「戯言を……たかが過去に保有していた力をほんの僅か取り戻せた程度で勝てると思うな! 汚らわしい『外』に目を向けたところで無駄なんだ! それを身を持って思いらせるために、その力ごと消し飛ばしてやるよ!」


「ふーん……試してみる?」


 裏がなんと言おうとも、オスクはちっとも動じない。その態度に腹を立てたのか、目を怒りで吊り上げながら裏は腕を振り上げる。


「『ルイン』!」


 破滅をもたらす呪詛が、裏から放たれる。オスクは怒りに身を任せる裏にやれやれとばかりに肩をすくめて、それに手をかざし……


「────『エタンドル』」


「なっ⁉︎」


 裏の呪詛が跡形も無く消滅する。それも、オスクが使う筈のない呪文で。

 オスクは裏が先程使った魔法を確かに使っていた。その事実が受け入れられなかったのか、裏は激しく動揺する。


「何故、お前がそれを……。私の絶命の力を、何故お前如きに!」


「ホントお前、余計なことは知ってる癖して、僕の本来の力は知らないのかよ」


 戸惑う裏に対して、馬鹿にしたように鼻で笑うオスク。さっきとは立場がまるで逆だ。

 そしてオスクは自分の本来の力を話し始める。


「闇は安息の象徴でもある。眠れば楽になれる、そんな感じで暴れる力を吸い取って請け負ってやる役目が闇にはあんのさ。闇は黒……あらゆる色が混じって生まれるものだからな。それを僕の持ってる術で応用したのが今の、ラーニングってところか」


「私から……力を掠め取っただたと?」


「率直に言えばそうなる。でも、こっちだって何でもかんでもとはいかない。物事ってのはなんでも因果が必要だ。僕がこの身で受けた数が多い程、それだけ奪った力も膨れ上がる。だからお前から奪った力がどれくらいなんて……わかるっしょ?」


 裏の顔がクシャッと歪む。オスクが裏から受けた攻撃はかなりなもの、それを全て吸収されてたんだとしたら、力も莫大だ。それも、絶命というただでさえ強力な力を。


「それに加えて今じゃ僕自身の力も加算されてるから、お前の勝率ってどうなんのかな?」


「おのれッ……この、口先ばかりの偽善者が! 多少吸収された程度で私に勝てるとでも思うのか! 外など、全て偽善ばかり……全部、全部、何もかも消してやる‼︎」


「……うるさいんだよ、お前は。目に見えるものだけで判断して、本質を知ろうとしない。そんなお前に勝ち目なんかあるわけないだろ」


「黙れッ────‼︎」


 怒りのまま、裏は瘴気を集めて再び刃を形成する。それも今度は一つじゃない。一つ、二つ……数え切れないほどの瘴気で作られた凶器がオスクを取り囲む。

 我を忘れていても裏の攻撃は緩む手がない。それどころか、怒りという負の感情が爆発したことでさらに凶悪さを増している。


 それでもオスクは一切動揺せず、その刃に向かって大剣をかざす。これからが、反撃開始だと言わんばかりに。

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