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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第9章 精霊を統べし風ーFairy queenー
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第105話 風よ、我が主よ(2)


「……ったく、ここまで来るとお前の鈍さも考えものだな」


「えっ、えっ?」


 レオンがどうして私を手助けしてくれたのか、ルーザは何か理由を知っているらしいけれど、詳しくは言わぬまま。聞こうとしても「とにかく」と強制的に話を切り替える。


「まだ決着だって着いてない。『滅び』をお前にけしかけた癖して、まだアイツ認めてないみたいだからな」


「……っ!」


 ルーザの言う通り、衛兵は未だ『滅び』に囚われたまま。私に襲いかかった『滅び』で力が弱まったかのようにも見えたけど、寧ろ逆だ。自分の思惑通りに事が運ばなかった苛立ちで、さらにドス黒い魔力が高まっている。

 理由はどうあれ、レオンが託してくれた結晶石のおかけで衛兵が動揺しているのも事実だ。お互いに予想外のことを仕掛けられて、衛兵の気持ちが揺らいでいるのか『滅び』が単独で行動に移して来ている。


 衛兵の意思で動いているというより、『滅び』が焦って身体から離れそうになっているんだ。引き剥がすなら、今しかない……!


「ならばもう陣形を組む必要もないな。皆で全力を尽くし、卿を今こそ救う時!」


 ベアトリクスさんが槍を構え、高々と宣言する。

 もちろん反対する者などいない。全員、ベアトリクスさんの言葉に深く頷いた。


「あくまで狙いは『滅び』ただ一つ! 皆の者、続けッ‼︎」


「はい!」


 ベアトリクスさんが駆け出し、一気に衛兵との距離を詰めていく。私達も遅れを取らないよう、走って後ろに続いた。


「『ウェントゥス』!」


 ベアトリクスさんは槍に風を纏わせ、衛兵の背後に漂う『滅び』に一突き。

 ドス黒い闇に突いたというのに、槍の光は衰えずに寧ろ輝きを増した。攻撃に追い風を吹かせてくれているかのように輝く槍は、その威力を一点に集中させて『滅び』さえも揺らいだ。


「『カタストロフィ』!」


「『ムーンライト』!」


 ルーザも鎌を大きく振るい、畳み掛けるように闇の塊を切り裂く。カーミラさんも、光のレーザーを飛ばして応戦。そして他のみんなも魔法を放ってさらに追い詰めた。

 衛兵から離れそうになっているのと、元々のダメージも相まって『滅び』は攻撃を受け切れない。流石に今の状況はマズイと思ったのか、またその闇の塊を千切り、私に飛び掛かってくる────!


「……っ!」


 ……でも、それを学習しない程単細胞じゃない。さっき真正面から食らって、警戒だって充分に払っていた。短時間ではあるけれど、どうしたら対応出来るかシミュレーションだってしていたんだ。

 レオンの努力を無駄にしない意味でも。何度も同じ手を食らうと思ったら大間違いだ!


「……そこっ!」


 床を蹴って飛び上がり、闇をかわす。その勢いのまま、衛兵の背後で嘲笑うように揺らめいていた『滅び』を思いっきり切り裂いた。

 その行動が『滅び』には予想外だったのか、衛兵の背から剥がれ落ちそうになる程大きく飛び上がった。もはや、衛兵とのリンクは切れているにも等しい状態で。


 引き剥がすなら……今しかない。

 私はそう判断を下し、光を一点に集める。詠唱していくと同時に、足元の魔法陣が眩い輝きを蓄える。


「私達は……あなたが認められるような強さはないかもしれない。まだ未熟なのは充分承知してます、覚悟はしてても目の当たりにしたら怖い時だってある」


 この言葉は衛兵には届いてないのかもしれない。それでも、言わずにはいられなかった。

 怖い、辛い、逃げ出したい……そんな気持ちが無かったなんてとても言えるわけがない。さっきだって、呑まれかけた時には怖くてたまらなかった。

 胸を握りつぶされるような恐怖が襲い、声も出せぬまま、口はカラカラで。衛兵はきっとそれをずっと、今だって味わっているだろう。


 これから先も衛兵のようなめにあってしまう妖精や精霊達もいるかもしれない。けれど、助ける道は必ずある……レオンがしてくれたように、私だってそうだったのだから。

『ルミナスレイ』を詠唱したことで、目の前に鋭い光弾が出現する。いつもはこれをそのまま飛ばすだけだけど……私はその光弾を手で掴んだ。


 やろう、今こそ。覚悟を示すために。

 そう覚悟したその刹那────私の背に純白の翼が現れて、私は『ルミナスレイ』を持つ手を大きく振りかぶる。


「当たれ────ッ‼︎」


 衛兵が飛ばしてくる魔法をかわし切れず、頰に痛みが走ったとしても、それに耐えながら私はその光に想いを託す。

 それはまるで手槍のように。不慣れでぎこちない、それでも『滅び』という獲物だけを見据え、私の想いに応えたかのように真っ直ぐ飛んでいく。


 光で形作られた白き槍は衛兵を、衛兵の背後に巣食う闇を貫き、床に押し付けて、重力という縛りで抑え込む。

 それでも尚、逃れようとする闇。そしてそれを、見逃すはずがない精霊王が一人。


「逃しはせん。この国を蹂躙じゅうりんした罪は重いぞ、まわしき災いよ」


 ベアトリクスさんは槍を掲げる。

 槍はその穂先に魔力を集め、それを中心として風が吹き荒れる。やがて風の力はいかずちとなり、閃光をとどろかせる。


「────『テンペスト』‼︎」


 その声と共に、闇は巨大な閃光と雷鳴に貫かれ、


 ……災いは今、潰えた。

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