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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第2章 影の輪唱
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第11話 影へと歩みよる(1)

 

 ルージュの屋敷で一晩明かした翌日。オレはルージュに約束した通り、に影の世界へ案内するために再びダイヤモンドミラーの泉へと向かった。もちろん、その中にはイアとエメラも含まれている。

 イアとエメラには訳を説明済み。もちろんと言うべきなのか、オレの提案に二つ返事で了承してついて来た。礼をしたくて計画したことだったし、断る素振りもなかったのは素直に嬉しいことだ。


「まっさか、こんな早く行く機会が来るなんてな!」


「うん! ほんっと楽しみ〜」


 なんて、2人は直接誘ったルージュを差し置いてテンションが高い。まあ、ルージュは見た目明るそうなのだが、意外と落ち着いた性格というのがここ数日一緒に過ごしていて感じていた。だから2人に比べると大袈裟にはしゃいだりしないのだが……ルージュも表情が綻んで嬉しそうにしている。

 影の世界は山では雪が積もり、当然常夏であるこの国に比べるとかなり冷え込んでいる。そのため、3人には防寒出来る冬用の服を着るように言っておいて、準備は完了。


 他愛のないことを喋っていたら、やがて鏡の泉にも到着。昨日と変わらず、豪華な装飾が施されている立派な鏡が据えられていた。

 さて……あとは簡単だ。


「普通にくぐるだけでいいの?」


「ああ。昨日試したキリだが、一瞬で済むからなんの心配もない」


 そう説明してから、オレは鏡の表面に触れる。

 最初は慣れない感覚に戸惑うものだが、大して危険はないことだし、慣れてしまえば行き来することは容易だ。そして、そのまま引き込まれるように鏡の中に入った。


 ……そして次の瞬間には、昨日と同じようにすぐに影の世界の景色が目の前に広がった。しばらくすると、オレに続いて来たらしい、3人も鏡から出て来る。3人ともこの鏡をくぐる経験がないためにかなり驚いている。


「こっちだ。来いよ」


 口で説明するより、見た方が早い。そう思ったオレは手招きして3人をある場所へと連れて行く。

 オレが3人を連れて来たその場所はシャドーラルが一望することが出来る丘だ。少し高台にもなっているから、街のはずれまでよく見える。

 そしてその景色を視界に捉えた途端、3人は息を飲んだ。


「うおっ、すげえ……!」


「山の間に国が!」


「ここが、影の世界なんだ……」


 3人はその景色に圧倒されたように国を見ている。

 山が落とす影の中、暗がりでも建物があちこちから見える確かな街並み。白い粉砂糖を振りかけたような山々に囲まれたその国は、下に見える街が放つ灯りで暖かさを醸し出す。


 海に囲まれる島国であるミラーアイランドとは気候も、地形も、街の雰囲気もまるで違う。初めて来た3人の目にはかなり新鮮に写る筈。

 ……と、思っていたのだが。


「……ふぇっくし! つか、寒ッ!」


「ほ、ほんと……! ここまで寒いなんて」


 イアが大きなくしゃみし、エメラは肩を抱えてブルブル震えてる。

 街にはまだ降ってないが、山にはその表面が白く彩られる程に雪が積もっている。元々ここは冷涼な気候の上にその状態。当然、その間にあるこの国も冷えこんでいるし、北からは冷たい風が吹き込んでいた。


「おい、厚着して来いって言ったろ? どうなってんだよ」


「あ、えっと。あっちは常夏だから防寒具は少なくて。これが精一杯だったらしいの」


「る、る、る、ルージュは寒くないの? 足とか剥き出しじゃん!」


 ルージュは膝丈の紫のワンピースの上に、ピンクのベールのような布が袖と裾に使われている黒いコートを羽織る形のローブを着ていた。先日、ドラゴンがいた廃坑に行った時と同じ服装だ。

 確かにワンピースが膝丈ということもあって、エメラの言う通り膝の辺りは肌が見えている。


「あ、うん。私は暖熱魔法のカイロあるからなんとか」


「お、おい! そんなもんあるならオレ達にもくれよ!」


「ごめん、一つしかない……」


「んなっ⁉︎」


 ルージュは申し訳なさそうに白状する。

 苦笑いするルージュを2人は恨めしそうにじとーっとした視線を向けているが、あいつらの準備不足なんだから文句は言えないだろう。自業自得だ。


「あ、でもイアは火の魔法使えばいいんじゃ……」


「あ、そっか」


「今まで気づかなかったのかよ……」


 イアは忘れていた、と言わんばかりの表情をするものだから、オレは呆れてため息をつく。イアは男子らしく、力はあるし戦闘面では頼れるんだが……頭を使うのが少々苦手らしい。だからたまにこうして頭が回らないことが時々あるようだ。


 とにかく、ブルブル震えている2人は流石に放っておけない。ここは冷涼な気候で、冬も近いこの季節だと冗談抜きに凍えてしまう。常夏の島国出身である2人には尚更だ。

 幸い、ここは市街地から近い場所だし、身体を温める店が並んでいるところもそうは離れていない。


「仕方ない。雑貨店に行くか」


「そ、そうね。そこなら暖をとれるものもありそう!」


 オレらは丘を降りて市街地へと向かう。そこから一番近くにあった雑貨屋に入り、断熱効果のある魔法具を探す。

 やはり冬が近いということもあって、その系統の魔法具はかなり多くの種類が揃えてあった。2人も自分に合う魔法具を探せるし、これでオレが連れ出したことで倒れるなんてこともなくなるし、ホッと息をつく。


 しばらくして魔法具を選び終わったらしいイアとエメラは、さっきまで震えていた身体が嘘のような様子で店から出てきた。店で充分な魔法具を買い揃えたようで、ぬくぬくして満足そうな表情を浮かべている。


「まったく。最初にこんなとこ案内するなんて思いもしなかったぞ」


「「ゴメンナサイ……」」


「でも丁度良かったかな。この通りも明かりがキラキラしてて綺麗だし」


 ルージュはこの通りをぐるりと見回す。

 ここは王都ではないが、主に日用品が取り揃えてある様々な店が並んでいるため、それらを求める妖精達で賑わっている。ルージュが言ったように光の世界とは違って、少し煌びやかなカットが施された発光する鉱石が埋め込まれた、派手な街灯が使われているおかげで周囲は大分キラキラと輝いて見えていた。

 山に囲まれている分、その落とす影も大きい。少し灯りが多くて眩しい気もするが、この国ではそれくらいで充分だった。


「影の世界っていうくらいだから暗めなのかと思ってたけど、ずっと明るいし綺麗なところね!」


「オレには山が新鮮だな。あっちは海が中心だし」


「今の季節だと山は雪が積もりかけで滑りやすいから規制がかかって入れないけどな。とにかく移動するぞ」


 まずはオレの家に案内しようと昨日から考えていた。一回でも場所を覚えれば、そこで休憩することも出来るためだ。

 それに……オレの友人も来ているかもしれない。昨日にシュヴェルに聞いた話だけでも大分心配かけているようだし、早く顔を見せなければならない。二週間も行方知らずとなれば当たり前なのだが。

 会ったら早々に詫びをしねえと……そう思いながら、3人はを連れて家へ続く道を歩き始めた。

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