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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第9章 精霊を統べし風ーFairy queenー
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第104話 おちて、おちゆく

 

 反撃開始────カーミラさんの宣言通り、戦いはさらに激しくなっていた。


 衛兵が剣を振るってもカーミラさんがコウモリ化することで攻撃を受け流し、ダメージが入ることを防いで。それでも連発は魔力を使い過ぎることにも繋がるから、カーミラさんも時には剣で応戦していき。それでも衛兵は負けじと魔法を放っていく。

 そして、ベアトリクスさんの攻撃も多対一のためにかわしきれず、何度か命中している。私とルーザ、オスクとイアの魔法も受けているし、衛兵がくらっているダメージは決して小さくないだろう。


 だけど……未だ衛兵に取り憑いた『滅び』は衛兵から離れる様子を見せなかった。いくら衛兵の攻撃を見切れてきたといってもその状態では、好転しているとは言い難くて。


「くっそ……剥がすっていったって、前例がないせいでどうすればいいんだか」


「確かに。吸血鬼殿の術のおかげで卿に攻撃は通るようになったが、肝心の『滅び』が出てこないとなると状況は厳しいな」


 オスクも、ベアトリクスさんも、今まで試しがないということもあってどうすればいいのかわからないようだ。

 その言葉通り、さっきから魔法も何発か命中しているにも関わらず、特に様子が変わる訳でもない。しかも衛兵が表情を変えないせいで、効いているのかすらも確認出来ないときて。

 これは……寧ろマズい状況なのかもしれない。


「災い自身が離れる片鱗を見せないとなると、まだ卿の心が災いと同調しているのやもしれん。重なった心は災いと深く結びついてしまっているのだとすれば」


「って、ことは……まだ認められてねえってことかよ!」


 ルーザは悔しそうに舌打ち。

 衛兵がまだ私達を認めてない……そうだとすればかなり厳しい。ここまで持ち込むにもカーミラさんの機転があってこそだったというのに。

 事実、まだ私も決定的な一撃を放てたかというとそうじゃない。前衛に出ている訳でもないのに、衛兵の思った以上の戦闘力に押されていることをひしひしと感じていた。


 手があるとすれば『絶命』の力だけど、制御が上手く効かないと文字通りの効果が出てしまう。以前躊躇なく使えたのは、あれが『滅び』の結晶相手だったから。今は敵対しているとはいえ、衛兵に向かってそんなことは絶対にしたくない。

 でも、他の大精霊の力を借り受けるにしても有効打が見出せない。どうしたら……!


「ルジェリア殿、前だ!」


「……ッ⁉︎」


 いつの間にか衛兵が私の正面から向かっていた。手に持つ剣をギラつかせ、確認するまでもない殺気を放ちながら。

 ベアトリクスさんの言葉に咄嗟に私も剣を構え、衛兵の攻撃を相殺した。


「な、なんで急に後ろに行ったの⁉︎ 今までそんなことなかったのに!」


「こいつッ……吸血鬼に攻撃が当たらないから、後ろを標的に変えたか!」


 オスクの言う通り、衛兵はもうカーミラさんに目もくれず、中距離を保っていた私達をターゲットにしてきた。

 攻撃が当たらないのなら後ろへ奇襲をかけた方が得策だと判断したのだろう。いきなりの衛兵の行動に最初に決めた役割分担も無効にされて、私達に動揺が広がる。


「うげげ、これじゃ作戦台無しじゃんかよ! どうしたらいいってんだ……」


「ぐ、うう……!」


 衛兵の剣を弾くので精一杯で、慌てふためくイアに返す余裕がない。耳元で何度もガツン、ガツンという大きな金属音が鳴り響く。

 今でこそ精霊の身体になったけど、相手も同じ精霊な上に男が相手だ。やはり正面からでは力じゃ勝てない……!

 しかも妖精の時は身長が低かったおかげで小回りも利いたけど、今じゃそれも出来ない。衛兵は容赦なく剣を振りかざし、私はそれに押されてどんどん後退するばかり。


「なんとか、しないと……!」


 なんとか衛兵の一太刀を受け止め、鍔迫り合いに持ち込んだけど、押し負けるのは時間の問題だ。剣を持つ手が、身体を支える足が、疲労と恐怖でガクガクと震えている……。

 そんな中でもなんとか右腕だけで剣を支え、左手を突き出して口を開く。


「……『ラデン』ッ‼︎」


 ギリギリだったけど、火炎魔法を詠唱出来た。威力を一点に集中出来ないのが弱点ではあるけれど、範囲特化の魔法のおかげで目の前が炎に包まれる。

 大きく広がる炎が脅威に感じたのだろう、衛兵はすぐさま飛び退いた。

 ……この隙を逃すもんか!


「『ルミナスレイ』!」


 畳み掛けるように光弾を放つ。

『セインレイ』と違って連発こそ出来ないけど、威力は断然高い。衛兵にダメージを与えて、なんとか『滅び』が反動で離れさせるためにも、今は連射より威力に重点を置いた方がいい。


 衛兵は変わらず大した反応を見せないけれど、それでも今までの戦いで体力は少なからずすり減らしている筈。その証拠に、その足取りは最初に比べて若干覚束ないように見える。


「クソが、そっちが正面からやり合おうってなら、受けるまでだ! オスク!」


「わかってるっての」


 最初の体勢は崩れてしまったけれど、もう御構い無しとばかりにルーザとオスクが衛兵の前に飛び出す。

 2人共、愛用の大きな武器の刃を衛兵に向けて思いっきり振り下ろした!


「『ダークスラッシュ』!」


「『カオスレクイエム』!」


 2人の斬撃が交差し、十字の軌跡が描かれる。

 2人はそれぞれ不完全ながらも大精霊、武器が大きいことで元々威力が高いその攻撃は流石の衛兵も受け切れない。派手に吹っ飛ばされ、その背を壁に打ち付けた。


「立て直す時間は与えないぞ!」


「ハイハイ、もう一度だろ?」


 ルーザの真意を言わない言葉でも、オスクはすぐに理解してルーザの行動に合わせて大剣を振り上げる。

 なんだかんだ悪口を言いつつも2人はお互いを認め合って、自分ではカバー出来ないところを支え合っている。言葉で言わなくても、2人は完全に連携が取れていることに驚く。


 ……あの時───私が狂気に呑まれた時も、こうして救い出してくれたのだろうか。そんな2人が今ではいつも隣にいることが本当に心強い。


「『カオス・アポカリプス』!」


「『カタストロフィ』!」


 オスクが暗闇で衛兵を閉じ込め、身動き出来ないところをルーザが衝撃波で畳み掛ける。

 闇の塊ごと衛兵は吹き飛ばされて、床に叩き落される。ルーザの使い慣れた自慢の魔法だ、かなりのダメージが入っただろう。


「今の内ね! 『スカーレットレイ』!」


「ええい、くそ! 『エルフレイム』!」


 もうとにかく攻撃するしかないと思ったのだろう。イアも投げやり気味にカーミラさんと魔法を放つ。

 最初の作戦は崩されてしまったけれど、負けが決まったわけじゃない。なんとか今の状態でも立て直さなきゃ……!


「エメラとドラクはそのままの行動に専念して! フリードは余裕があったら、氷の壁で防御を固めて!」


「りょーかい!」


「わかりました!」


 フリードの氷は防御にも使える。接近戦ではどうにもならないけど、魔法ならある程度防げる筈。

 今は標的にされてないけど、さっきまでの攻撃でベアトリクスさんもカーミラさんも傷ついている。後に響かないよう、今の内に癒してもらわなきゃ。


 魔法を放ち、なるべく衛兵に与えるダメージを重ねて。時折斬りつけてくる剣をかわし、氷の壁で魔法を防ぎながら、なんとか衛兵から『滅び』が引き剥がされる隙を見つけ出そうとする。だけど衛兵もやられてたまるものか、と言うかのように応戦してきた。

 攻撃してはかわし、守っては次の攻撃に入り……とどちらも引かない攻防だ。


「そろそろデカいのぶつけさせてもらうか。吹き飛ばされないよう精々ふんばってなよ!」


 オスクもこの一進一退の状況を好転させようと魔力を張り上げる。

 オスクも本気でやるつもりのようだ。それを察知した私達は一旦オスクと衛兵から距離を取った。オスクが本気でやるなら、何か変わるかもしれない!


「『滅び』ごと吹き飛ばしてやるよ! 『ゲーティア』!」


 巨大な闇の塊がオスクから放たれる。

 地面すらも巻き込み、壁はビリビリと悲鳴を上げていき。やがて限界まで膨れ上がったそれは、大きな爆発を起こした!


「……ァッ⁉︎」


 流石の衛兵もオスクの本気の魔法には敵わない。声になき悲鳴を上げ、衛兵の身体が空中に投げ出され、床に派手に叩きつけられた。

 ……途端に。衛兵の身体から纏わりつくようなねっとりとしたオーラが滲み出る。暗く淀んだそれは、私達に見覚えがあった。


「あっ、あれは!」


「……間違いないな。あいつに取り憑いた『滅び』本体だ」


「そうか、あれが……」


 初めて見るベアトリクスさんでさえ、それに向ける視線は厳しいもの。

 当然だ。あれこそが衛兵を苦しめている元凶にして世界を蝕んでいる災いそのものなのだから。

 こうして『滅び』が衛兵から離れかかっているということは、衛兵の心境に少しでも変化があったのだろうか? なら、このまま勢いに乗れば完全に引き剥がせる……!


 だけど、それも一瞬。衛兵に纏わりついていたオーラは身体に吸い込まれるようにして中に入ってしまった。

 まだ認められるには足りない……けど、ここで諦められるもんか!


「『リュミエーラ』!」


 衛兵に巣食う闇を引きずり出すべく、光を放つ。

 眩い光は衛兵の身体を包み込み、その反動で再び衛兵の身体からオーラが滲み出てくる。それも、さっきよりも大きく波立って。

 よし、このままいければ……!


 ……それが駄目だった。そのオーラはさらに大きく衛兵から漏れ出して、噴き上がって……千切れて、飛び出してきた。


「えっ────」


「……ッ、しまった! ルージュッ‼︎」


 誰かが呼ぶ声が聞こえたけど、間に合わない。

 千切れた闇は大きく膨らんで。ぬらりと包み込むように私に覆い被さって。

 やがて────























            ら


                  い







  つ


      め


                      た


                     い


      無


が、







 わ


   た       し


  を



                  つか


                ん


                      で







し   ず


  か


              に


           し


                     ず


             ん

              で






        お


           ち


            て





                お


                   ち

                    て






                       お




                          ち








                             て






















































 ……。

 …………。


『────やれやれ、だから言っただろう?』


 ……こえが、きこえた。


『精々大切に持っておけと────』


 ぶあいそうでも、どこか、やさしい、あたたかなこえが。

 そして……


 ────パキン。


 なにかが、われる、おとが。

 音が、響いて。

 目の前が、明るくなって。


「……レオ、ン?」


 ……私は、闇から引き戻された。

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