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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第9章 精霊を統べし風ーFairy queenー
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第102話 魔に魅入られて(2)


「そうか……お前達だな……。お前達が我が国の宝を盗んだのだな……!」


「え?」


「お前達がここに来たのはエレメントが目的だったな……。ならばお前達以外に犯人はいない!」


「え、ええ⁉︎」


 なんと、あろうことか衛兵は私達を疑ってきた。

 私達に向けられた衛兵の眼差しは敵意が剥き出し。しかももう衛兵の中では決定事項のようで、腰の剣に手を掛けている。どう見ても友好的ではないことは明白だ。


 そんなの言いがかりだ! 第一、私達が盗んだ証拠もなしに……!

 私達は昨日、この城を見学したとはいえどこにエレメントが納められているかなんて知らない。それにエレメントは本来なら今日、ベアトリクスさんから譲ってもらう約束を取り付けているのだから、盗む理由なんてゼロに等しい。


「な、何言ってやがんだよ! オレ達が盗む筈ないだろっ、ある場所も知らねぇのに!」


「そ、そうだよ! 僕らはエレメントを譲ってもらうために来たけど、約束しておいて盗むなんておかしいじゃないですか!」


 当然だけど、みんな猛反発。この広い謁見の間にイアやドラクを始めとする、みんなの叫び声にも近い抗議が響き渡る。みんな、なんとか衛兵の誤解を解こうと必死になって盗む筈がない理由を説明していく。

 だけど、そんな訴えすら衛兵には届かない。みんなが言葉を並べれば並べるほど、衛兵の表情は険しさを増した。


「うるさい! そんな約束などしておらん。お前達の勝手な御託だ……!」


「嘘じゃないよ! 昨日そこで話聞いてたでしょ、わたし達が盗む筈ないもん。それに、ここの衛兵さん達だって怪しいじゃない!」


「衛兵が盗む訳がない……部外者であるお前達が犯人で決定なのだ……!」


「な、なによ、それ! 無茶苦茶じゃない‼︎」


 最早理由にすらならない衛兵の言い分に、普段は滅多に声を荒げないカーミラさんですら顔を真っ赤にして怒鳴る。

 ……それにしても何か変だ。城をくまなく探すか、他の衛兵から話を聞くか、私達のアリバイを確かめるなど方法はいくらでもある筈なのに、衛兵は私達を一方的に犯人だと決めつけている。

 しかも、理由が支離滅裂ではっきりしないし、さっきから同じような言葉ばかり並べている気がする。言葉こそ変えても、犯人だ、嘘だ、などという意味ばかりなんだ。


 そして肝心のベアトリクスさんは黙ったまま。何か思うところがあるのか、そんな異常とも思える衛兵の言い分を静かに聞いている。

 ベアトリクスさんは私達のことをどう思っているのだろう……。


「ふむ……それが卿が貴女らを疑う理由か」


「……っ! 陛下……」


「確かに、その者達はエレメントが目的で遠路遥々(はるばる)この地に出向いた。して、その理由と私の言い分も卿は昨日耳にした筈……ならば何故そこまで疑うのだ?」


「へ、陛下は……私の言葉が嘘だとおっしゃるのですか⁉︎」


 ベアトリクスさんの言葉に衛兵の目は再び大きく見開かれる。だけど決定的に違う点がある────動揺の色に染まっているということだ。

 衛兵はベアトリクスさんだけは信じてくれると思ったのだろう。王として、そして側近として、お互いに信頼を寄せ合う2人だからこそ。


 だけど、それは逆に私達に安堵感をもたらした。ベアトリクスさんは私達を疑っていない……その意味を含んでいるような気がして。

 ……いや、最初からベアトリクスさんは疑ってないんだ。手紙をわざわざ私達に出しに来てくれたこともあるけど、ベアトリクスさんは誰が犯人なのかについて一度も口にしてない。まるでそれを話してしまえばマズいかというように……一度も。当然私達が犯人だなんて言葉も無し、それに犯人だと思っているなら王の前に通したりなんかしない。


 ここは密室。いるのは私達とベアトリクスさんと衛兵のみ。

 王の目の前、そしてあの衛兵の見るからに異常な態度……。閉じ込めておきたいのは、もしかしたらそれは。


「私は卿の言葉を信じたい。卿は私の側近、まず信じるべき言葉は卿の言葉だ」


「ならば……!」


「……卿が紛い物でなければ、の話だ」


「えっ⁉︎」


 私達と衛兵の声が重なる。柔らかだった表情は一変、ベアトリクスさんの瞳はギラリと鋭い敵意の眼差しへと変わる。そして、それを向けているのは私達じゃない、衛兵だ。

 ……ベアトリクスさんが紛い物といったのは他でもない、衛兵の方だ。紛い物、つまりはこの衛兵は偽物ということなのか。


「見抜けぬとでも思ったか。私は風、あらゆる流動を見定め、そしてそれを使役する者。ましてや卿は私の側近。卿の異変など目を瞑ってもわかる」


「へ、陛下? 何を……」


「口をつつしめ。それ以上、卿の言葉を装うというのなら相応の制裁を下す。あのような芝居がこの精霊王に通じるとでも思ったか、忌まわしき災いよ」


 ────災い。ベアトリクスさんは確かにそう口にした。

 今ある世界の現状と、大精霊が口にするその言葉。考えるまでもない……それが指し示すことはこの場に置いてただ一つ。

 やっぱり、この衛兵は……!


「へ、陛下、何をおっしゃられるのですか? 私は至って正気ですぞ!」


「……この期に及んで尚、まだシラを切るか。オスク殿、頼めるか?」


「はいはい、やってやるさ。ったく、わめき散らしておいてよくまあ誤魔化せるとでも思ったな。さぁーてと……さっさと正体現せ!」


 オスクは言うが早いか、大剣を素早く振るう。

 そこから放たれるのは白い光の矢。オスクが『滅び』を、あの結晶を浄化する時に使用する浄化の術。

 いきなりのオスクの行動に衛兵は対応が遅れ、その身体に矢が命中して胸部を貫かれた。


 そして────

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