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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第9章 精霊を統べし風ーFairy queenー
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第99話 貴殿、風の申し子よ(2)


「貴公らがここにきた目的は私のエレメントだろう。それを王笏へ収め、封印を解こうと」


「そこまでわかってるなら話が早いじゃん。それで、条件とかあんの?」


「何をいう。条件など課さぬ」


「えっ」


 ベアトリクスさんの言葉に全員が驚く。

 だって、エレメントは大精霊の力の象徴だ。大精霊が、私達に希望と期待を見出し、信頼という繋がりを得て初めてその手から離れて託してもらえるもの。だからそれを安易な気持ちで、ポンと渡せる筈がない。だから、カグヤさんもエレメントを渡す前に私達を試したというのに。

 条件を課さないって……どういうことなんだろう?


「その王笏には満月のエレメントも収まっている。即ち、貴公らはカグヤ殿に認められたということではないか。あの御仁の性分は心得ている、ならば私が自ら矛を取る必要はないだろう」


「だが、何もしないで渡してもらうというのも……」


「……では、貴女らの意思を示してみよ。貴女らは確かに、その王笏を託された者。しかし、それは周りが強要しているに過ぎぬ。貴女らはどうしたいのだ?」


 条件を課さない代わりに、ベアトリクスさんは私達に尋ねてきた。

 真っ直ぐな問い。真っ直ぐな視線。ベアトリクスさんは私達を見据え、問いかけてくる。それは『滅び』と戦うかという意思を確かめるのもので。一切の余所見は許されない、本当に真剣に聞いているその問いに思わずゴクリと喉を鳴らす。


 ……確かに、仕方なくだったのかもしれない。『滅び』と今まで戦ってきたのは、流れでそうせざるを得なかったからなのかもしれない。

 でも、それでも逃げ出さなかったのは……私の、私達なりの理由があって。それをベアトリクスさんは聞いているんだ。


「今まで見てきた『滅び』は何の意思もなく、ただ理不尽にまで世界のカタチを奪っていました。原因はわからないですが、そんなことは許されることじゃないですから」


「そんなの黙って見てろ、って言われる方が無理な話だ。目を反らせるものならとっくに反らしてる。こんなところまで来る理由だって消える。ここに立っていることが、その問いの答えになるんじゃないかと思うんだが」


「……成る程、心得た」


 私とルーザがそう答えると、ベアトリクスさんはそれだけ返す。それと同時に、強張った表情がふっと緩んだ。


「私が問うまでもなかったか。貴女らと、オスク殿とその友人も災いに立ち向かう意思はあるのだな」


「はい……!」


「その心意気や、良し。ならば私もこれ以上は物申さぬ、貴公らに喜んでエレメントを託そうではないか」


「へ、陛下、何をおっしゃるのです⁉︎」


 と、ベアトリクスさんの言葉に真っ先に反応したのはベアトリクスさんお付きの衛兵精霊。

 ベアトリクスさんの近くにいる衛兵なら、大精霊にとってエレメントがどんなものなのかもわかってるのだろう。衛兵精霊はそれを思って慌てているに違いない。


「あれは陛下の力の象徴であり、国を守護するとされる宝ですぞ! いくら闇の大精霊様が率いられる御来客といえど、そうやすやすと渡されては……!」


「卿、聡明そうめい其方そなたならばあれが名目上の飾りに過ぎぬことなどわかっているだろう。それに、卿は知らぬであろうが、この貴女らとその一行は災いを退ける力を持つ子ら。見くびってはならんぞ」


「し、しかし……」


「風の大精霊であるのはこの私だ。ならば、その象徴であるものをどうしようが私の判断に委ねるところ。早急にあれの代わりを用意いたせ、民には一切の不安を与えぬよう善処する」


「は、はい。承知致しました……」


 衛兵精霊は渋々という感じだけど、ベアトリクスさんの言葉に頷いてくれた。

 代わりを用意する……ということは、すぐに渡せる訳ではなさそうだ。あの衛兵精霊の慌てようからしても、ベアトリクスさんのエレメントはこの国にとっても大事なものだということがわかる。


「聞いての通り、私のエレメントは国の宝として収められているのだ。すぐ貴公らに渡しても問題はないのだが……民の不安を煽るわけにはいかないのでな。すまないが、明日また城を尋ねてきてはくれまいか?」


「ああ、別に僕らはエレメント貰えるんなら問題ないし。構わないけど?」


「……理解、感謝致す。せめてもの詫びだ、この城でよければ自由に見学して構わんぞ」


「本当⁉︎ やったー!」


「あ、あの……城に収められている本も見てもいいでしょうか?」


「ああ、許可しよう。貴公らは『滅び』に立ち向かう者、ここで出来ることであれば限りを尽くそう」


 みんなもベアトリクスさんの提案に大喜び。普段は大人しいフリードですら、城の本が読めることに興奮している様子。

 確かに本は気になる。私も覗いてみたいなぁ……。


「お城のお洋服とか見られるかしら? ドレスとかありそうじゃない?」


「うんうん、わたしも興味ある! ベアトリクス様、そういう部屋ってありませんか?」


「私の儀礼衣装ならば用意があるが……滅多に着ないもの故、貴女らに貸しても良い」


「えっ、本当⁉︎ ぜ、是非お願いします!」


「うむ、その部屋の見張りの兵に話をつけよう」


 ベアトリクスさんの言葉にカーミラさんとエメラは飛び上がって喜ぶ。

 ベアトリクスさんは滅多に着ないと言ってるけれど、城に置かれる服であり、精霊王が身に付けるドレスだ。きっと煌びやかなものに違いないし、エメラは着られないにしても、それは2人にとって最高の提案の筈だ。


 そして、許可が取れたとの話が衛兵を通して伝達された途端、2人はその部屋へあっという間に駆け出してしまった。

 昨日の買い物とかもそうだけど……どれほど服が好きなんだろう、あの2人。


「あれほど喜んでくれるとは、こちらも提案した甲斐があるな」


「まあ、な。カーミラが加わってから、どうもエメラが暴走気味な気がするが」


「えと……気が合う仲間が増えて、エメラも嬉しいんじゃないかな」


 ルーザのそんな言葉に、私は苦笑いしてそう返すしかない。

 私はあまり服には興味ないし、ルーザなんて私より服には無関心。だからカーミラさんのような性格の仲間が加わって、エメラも喜んでいるのだろう。


「よっしゃ! オレらも見てこようぜ、ドラク、フリード!」


「あ、うん!」


「わあ、待ってくださいよ〜!」


 ドラクもフリードも、イアに連れられて城の見学へと向かった。半数以上が謁見の間を出て行くと、辺りも静けさに包まれる。

 本には興味がそそられるけれど……私はもっとベアトリクスさんと話したい。何か、記憶と完全に力を取り戻す手掛かりが得られるかもしれないから。


「オレは別にお前に合わせる感じでいい。残りたいなら残れよ」


「うん。ありがとう、ルーザ。あとは……オスクはどうするの?」


「さてね。ありもしないデタラメ吹き込んだ奴見つけてとっちめてやるかな」


 なんて、そう言ったきり、オスクは何処かへ飛んで行ってしまった。

 オスクは衛兵精霊が言っていた、自分が英雄だなんて言われている噂にまだ不満を感じてたらしい。まあ見つかる筈もないことは私達でもわかるから、きっと何か別の目的があるのだろう。


「あの、ベアトリクスさん。私、記憶や力についての手掛かりを得たいんです。だから、少しだけでも話をしてもいいですか? すぐにとはいかなくても、力を取り戻せることに繋がるなら、これからに備えても聞いておきたいんです」


「ふむ……良かろう。その心構えに嘘偽りはないと見える。私で事足りるのであれば、喜んで力を貸そう」


「あ、ありがとうございます!」


 大精霊の話を聞けるのは心強い。自分では見えなくても、顔がほころんでいることがわかる。

 そうして、私とルーザはベアトリクスさんの話を聞くことになった……。

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