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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第8章 起点に立つ刻-Restart-
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第94話 夜明けと共に交わりて(2)★


「さてと。準備は整ったし、始めるとしますか」


 それから3日が経ち、ようやく夢の世界での疲れが取れてきた頃。オスクは宣言するようにそういって、凝った肩をほぐすように腕をぐるんと回した。

 オスクの他には私とルーザ、イアとエメラにフリードやドラクと、いつものメンバーで集まっていた。


 今、私達がいる場所はシャドーラルの王都郊外。王都から離れると街灯もなく、周囲の山の影にすっぽり覆われているこの場所はまだ昼前だというのに、夕方のように薄暗い。

 どうしてこんな薄暗い場所にいるかというと、次なる目的地……フェリアス王国へ行くため。その準備としてオスクがゲートの術を使うためにここにいるという訳だ。


 ロウェンさんは執務が忙しくて来れそうに無かったのだけど、入国がスムーズに行くようにと、私達にエリック王のサインが入った手紙を私達に持たせてくれたんだ。一緒に行けないのは寂しいけど、そうして手助けしてくれるだけでも嬉しかった。


「経路は以前話した通りだよな?」


「ああ。アンブラにゲートを繋いで、一度アンブラに向かう。そこから船で行けば早いっしょ」


「船、か……」


 船という単語を聞いて、ルーザは一瞬嫌そうな表情を見せた。仕方ないとはいえ、酔うことを気にしてるルーザにはやっぱり気になるようで。確かに、酔うのは誰だって気分が良いものじゃないだろう。


 先日、レシスが教えてくれたおかげでルーザの酔いやすい体質が『支配者』のせいだとわかっても、聞いただけで解決には至ってない。結局、まだ酔い止めの薬が手放せないのが現状なんだ。

 いつか『支配者』と会えた時に治してもらえればいいのだけど……大精霊でさえ、顔も知らない相手。一筋縄ではいかない筈。


「フェリアス王国か……妖精がいない国だなんて、大丈夫かな?」


「やっぱそれが不安だよな。妖精が全然暮らしてないなんて、オレ達には場違いもいいとこじゃんか」


 ドラクもイアも、フェリアス王国は主に精霊が暮らす国だと聞いて不安そうだ。

 他のみんなも。吸血鬼が支配するアンブラ公国でも多少は妖精もいたのに、聞いたところじゃフェリアス王国には例外を除いて、本当に妖精が一切いないらしい。そんな今までにない国に踏み入るのは不安で仕方なくて、みんなも今はまだシャドーラルにいるというのにそわそわしている。


 オスクは私とルーザには「お前らは大丈夫だから」と言っていたのだけど、一体何をどうするのかは話してくれないまま。……本当に大丈夫なのか不安だ。


「とにかく、早いとこゲートを繋げた方がいいだろ。ちんたらしてると影の方向が変わるぞ」


「ま、そうだな。さーてと」


 ルーザにそう言われて、早速ゲートの術を使おうと腕を振り上げるオスク。

 ……が、突如「あっ!」と何かに気づいたように腕を止める。当然、今から行くんだと身構えていた私達もオスクが止めてしまったせいで、完全に肩透かしを食らってしまった。


「ど、どうかしました?」


「別に大したことじゃないんだけど、一つ伝えることがあったのを思い出してな。うっかり忘れるところだった」


 自分にやれやれというように苦笑するオスク。そして、何か言いたげに私達にニヤッと笑って見せた。

 本人は大したことじゃないというけど、オスクがわざわざ伝えようとしてくることだ。何かこれからに関わることなのだろうか……そう思うと、身体が少し強張った。


「今の人数でも問題ないとは思うけど、ロウェンが来れなくなって一人欠けたっしょ? お前らが寂しがるんじゃないかと思って、あるヤツに応援を頼んでな」


「応援って、誰に?」


「さてね、それを今から言うんじゃん。……そろそろ来た頃だろ」


 そう言うと、オスクは不意に視線を山の影の外に。するとそこからコツ、コツと軽やかな靴音が響いて来た。


 その靴音を辿ってみると……歩いて来たのは妖精じゃない、人間体の女性のようだ。黒を基調としたフリルで飾られた可愛らしいドレスに身を包んでいることはわかるものの、夏でもないというのにその身体はレースの日傘にすっぽりと覆われて顔が見えない……。

 けど、その日傘は山の影に入ると同時に畳まれた。そして、隠されていたその顔が露わになる。


「あ、あなたは……!」


 私達はその人物を見て驚きで目を見開いた。ただ一人、オスクだけが得意げに笑っていたけれど。


 星の光をそのまま染めたような綺麗な銀髪。澄んだ大きな蒼い瞳がキラキラと輝きながら、私達を見据えて。そして背には美しいしなやかな曲線を描くコウモリの翼……。

 髪をサイドポニーにしてあるところや、その服装こそ以前とは違うけど、その種族のイメージを覆すような明るい笑顔は変わらなくて。


「御機嫌よう……なんてね! みんな、お久しぶり!」


挿絵(By みてみん)


 その人物は冗談を交えながら屈託のない笑顔を見せつつ、挨拶代わりにとウインク。予想していなかったことだけに、私達は余計に驚いた。



 これが血が嫌いな変わった吸血鬼令嬢────カーミラさんと再会した時となった。

これにて8章は終了です!

第2部に入ったこともあって、メンバーも入れ替わりなど少し大きなことに踏み切ってみました。

これからもよろしくお願いします(^^)

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