第92話 その死花を枯らせゆく・前(2)
「くそっ、洞窟内が引っ掻き回されている時点で気づくべきだった!」
結晶の前で戦っていたレシスも根の存在に気づいたらしい。置かれている状況を思い知り、レシスは不愉快というかのように舌打ちする。
「おい、どういうことさ? あれが根だとして、何か問題が?」
「……わからねえか? あの根はこの洞窟はおろか、この世界全体にあの根を張り巡らしている。あの結晶一つで世界全体に影響を及ぼせるのも頷けるだろ」
オスクにそう説明するレシスの表情は険しい。
それもその筈。あの結晶は、この夢の世界全体にこの根を浸透させて世界全体のエネルギーを奪っていった。いくら『滅び』の結晶といえど、夢の世界は広大なもの。そんな広範囲に影響を及ぼせるのも、やっと理由がわかった。
だけど、問題はそこじゃない。確かにあの根は世界の地中に何十もの網を張っている。それなのに今まで直接手出ししてこなかったのは、その存在を悟られたくないから。
でも、私に攻撃を加えたのはもうバレてもいいという意味合いもあった。しかも、根はこの空間全方位にあるから……。
「敵陣ど真ん中どころか、オレらが今突っ立っているこの場所は敵の包囲網の中だ。つまり、今いるこの場所は結晶が何処からでも攻撃を仕掛けられるってことなんだよ……!」
そうレシスがいった途端、洞窟の壁という壁から針のように鋭利な刃物とかした根が飛び出してきた!
まるで剣山だ。私が食らったのは一本で済んだけど、これ全てが迫ってきたら……
────串刺し。そんな単語が脳裏をよぎり、サッと血の気が引く。
「どうすんだよ、このままじゃ数で押されて全滅もあり得るぞ!」
「さてね。障壁を張れる余裕はあるから、防御は出来るけどな……っと!」
ガンッ! とオスクのいる所から金属がぶつかるような音が響く。その音を辿ると、オスクの手前で障壁に突き刺さった根が一本。
……カグヤさんの『神閃月下』ですら数十発は受け止められた障壁なのに、根一本だけで貫かれてしまうなんて。根の予想以上の威力にオスクは動揺こそ見せないけれど、そのしかめた表情が今の攻撃の重さを物語っていた。
私達はお互いの背中を庇うように目の前に警戒を払う。まだ根は数十……数百、下手したら数千はあるかもしれない。
本体である結晶にダメージを与えても、根の方もなんとかしなければ完全に破壊することが出来ない可能性だってある。
今までとは比較にならない規格外の大きさの結晶、その周りに潜む把握しきれない敵の数。……こんな相手に私達だけで勝てるの……?
「こうなったら……根元から枯らせるまでだ!」
レシスは剣を構え、魔力をその刀身に集中させる。白銀に光る剣はレシスの『死』の力によって、たちまち漆黒の光を蓄えた。
「『デスディザイア』‼︎」
レシスの死の力の象徴である魔法。レシスは剣を振り上げたまま目にも留まらぬ速さで結晶までの距離を詰め、その根元を思い切り薙ぎ払った!
ガァンッ‼︎ と鋭い音を響かせる、レシスの斬撃。攻撃の威力に流石の結晶も耐えきれず、いくつかの破片が砕け散って宙を舞う。
「あっ……!」
攻撃と同時に、『死』の力も結晶に流れ込んだようだ。命が生き絶える力を結晶を通して直接流されたことで根がだらりとしなり、力を失って地面に落ちていく。
今のこの数秒だけでも十本くらいの根が枯れた。これなら時間を稼げば勝機があるかもしれない……!
「よし、今の内だ。『ワールド・バインド』で縛り付けてあるから、とっととやれ!」
「ああ!」
「は、はい!」
ルーザもライヤも、そして私も。オスクが根の動きを封じ込めてくれている内に、武器を構えなおして結晶を畳みかけようと各々の魔法の詠唱を始める。
「『カタストロフィ』!」
「『ブレス・オブ・ライフ』!」
「『ルミナスレイ』!」
3つの魔法を合わせて、壁を壊す勢いで根に向かって攻撃を浴びせる。
威力を重視したこの攻撃は流石の根もたまらない。元々弱っていた根が衝撃を受けて吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられるようにぼたぼたと落ちていく。
正確な数が未だにわからないけど、これだけの根を落とされていて結晶も全くの無傷なんてことはないだろう。根がいくら多くたって、数を減らされれば痛手になる筈だ。
「よし、このままどんどん落としてやるぞ!」
「う、うん!」
まだ根が多く張り巡らされているせいで、たまに死角から攻撃されることもあるけど、さっきのことを学習しない程単細胞じゃない。背後にもしっかり気を配り、少しでも異常な気配を察すれば大きく移動して根による攻撃を防いでいく。
このままいければ……!
みんなも同じ気持ち。少しでも結晶の力を削ぐことに集中して、必ず致命傷を与えるべく、今はとにかく結晶の近くに潜む根を潰していく。
飛び出しては斬りつけ、迫ってきては相殺してを繰り返して応戦する。
でも……私達は結晶のしぶとさを侮っていたんだ。




