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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第8章 起点に立つ刻-Restart-
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第91話 散華に狂わすナイトメア(2)

 

「これ、は……」


 私達全員、「それ」を目にした途端固まった。

 辿り着いた先は広間のような場所。流石夢の世界のコアがあった場所だけあって、城のエントランス並みに広さがあった。だだし、かつてはコアが収まっていたことで力が溢れていたであろうこの場所も、『滅び』に侵食された影響で荒みきっていた。


 この景色には我ながら薄情だと思うけど、大して驚かなかった。洞窟の外の景色からも、こうなっているだろうと大方予想はしていたから。

 私達が驚いたのは目の前に鎮座する元凶……あの黒い結晶の方だ。


「こいつは……予想以上だな」


「ああ。まさかこんなにでかいとはな……」


 そう。オスクとルーザの言う通り一番驚くのはその大きさ。

 それはまるで大輪の花のように。一点から花弁のような平たい結晶が様々な方向へと飛び出し、何重にも重なりながら伸びていってこの広間の半分を覆い尽くしている。アンブラ公国の火山にあった結晶もかなりのものだったけど、近くにあるせいで余計にその大きさに圧倒される。

 酷く濁って、闇以上に暗い色を写すその結晶はどんな鉱物にも似ても似つかぬ質感で。形こそ花のようなものではあるけれど、結晶から放たれるのは猛烈な異物感のみ。見惚れる要素は一切なく、思わず目を背けたい衝動に駆られる。


「これが標準サイズ……ってわけじゃなさそうだな。寧ろ逆か」


「う、うん……。実物は初めてなのに、最初からそんな大物に当たるなんて。メアちゃんは隠しておかないと」


 レシスもライヤも、『滅び』の存在は認知してこそ今まで対峙したことがなかったせいで初めて浴びせられる、結晶から放たれる身体にずんとのしかかるような波動に顔をしかめていた。

 2人とも、それぞれ今まで記憶の世界と夢の世界にいたのだから無理はない。ライヤはメアに危険が及ばないようにと、メアがすっぽり入れる岩場にそっと隠した。

 結晶の力が不快なのは他の私達も同じ。何回か結晶と対峙したことがある私とルーザ、オスクですら気をしっかり保っておかないと結晶から放たれる悪しき力に呑み込まれてしまいそうだった。


 今のところ、結晶はその場に鎮座しているだけで大きな動きはないけれど……「まだ」というだけかもしれない。何せ相手は『滅び』、一瞬たりとも油断できない。


「長いことこの空気に当てられるのもまずそうだな。さっさとケリを着けない?」


「元々そのつもりだ。これ以上好き勝手される前にここで仕留める」


 オスクもレシスも普段の余裕が消えて、その表情は真剣そのもの。それだけ緊張感を持たなければならない相手だということが伝わってきて、さらに身体が強張るのを感じた。

 私達は何を言わずともそれぞれの武器を構える。一歩踏み出せば結晶が何をしてくるかもわからない。いつでも応戦出来る姿勢を取った。


 瞬間────結晶から一気に力が溢れ出す。


「うぐっ……⁉︎」


 酷く、禍々しい気。吐き気がする程に淀んで、その空気に当てられるだけで気絶してしまいそうで。

 なんとか意識を目の前の敵に集中し、結晶の力に吹き飛ばされまいと全力で踏ん張る。やがてそれも収まっていき……結晶はさっきとは比較にならないくらいのどんよりとしたオーラに包まれていた。

 そして、その結晶の中心には心臓が宿ったかのように丸いコアが生み出されていた。それがまるで生き物のようにドクン、ドクンと脈打って……結晶全体に魔力の脈動を作り上げていた。


 どうやらアンブラの火山の時と同じく、夢の世界全体に向ける力を出すことに精一杯で自分を守らせるガーディアンを生み出すだけの力がないらしい。だから、結晶自身で応戦するつもりなんだ。

 でもガーディアンがいないとはいえ、結晶の力が脅威であることには変わらない。今回は敵の位置が固定されているけど、逆にそれが不安にもなる。まるでこっちを挑発しているような気がしてならない。


「やれるものならやってみろとでも言いたげだな。随分馬鹿にされたもんだ」


「なら、やることは一つっしょ。コテンパンにして後悔させてやるさ!」


 いうが早いか、オスクは自身の大剣を振り上げる。そしてそのまま、魔力を込めた巨大な刃を結晶に向かって振り下ろした!


「『カオスレクイレム』!」


 大剣から放たれた魔力の刃は鋭い衝撃波となって結晶に向かって真っ直ぐ飛んでいく。地面から突き出した結晶は逃げることも叶わず、オスクの攻撃をもろに浴びた。

 その中心に宿るコアも流石に驚いたのか、今まで規則正しい脈を送っていたのが吹き飛ばされるように、中で大きく揺さぶられた。


「よし、続くぞ!」


 レシスのその言葉に大きく頷き、私も剣を構える。

 ……お守りに結びつけている、剣柄の包帯が優しく揺れる。

 以前、ルーザから巻いてもらって捨てられないと結びつけたそれ。これを見ているだけでも勇気が湧いてきて、大きな心の支えになる。

 もう、一人じゃないんだ。だから……その意思を示すためにも()()()()乗り越えて見せる……!


「『ルミナスレイ』!」


 光を一点に集め、大きな光弾を結晶にぶつける。

 みんなも少しでも結晶の力を削ごうと次々に魔法をぶつけた。


「『ディスピアーレイ』!」


「『カタストロフィ』!」


「『ホーリーライト』!」


 レシスは黒い閃光を、ルーザは巨大な衝撃波を、ライヤは神々しい光を結晶にそれぞれ浴びせていく。

 隙を与えず、体勢を整える時間もないように。連続攻撃をくらって結晶の中のコアは弾き出されるんじゃないかというくらいに中で跳ね上がり、ドス黒いオーラも揺らいだ。


 動けないということもあって狙いが付けやすい。これなら力押しでもいけそうだ。

 でも、結晶だってやられっぱなしじゃない。その中心のコアが大きく膨らんだかと思うと、結晶の周囲に衝撃波がほとばしった。


「うわっ⁉︎」


 結晶の大きさに比例してか、その威力が半端じゃない。痛みが走ったかと思うと私の身体は風圧に持っていかれ、軽く10メートルは吹き飛ばされてしまった。

 ……やっぱりそう簡単にはいかない。攻撃は確実に当てられるけど、こっちの体力が先に尽きてしまう可能性も充分ある。


「くそ、お前ら大丈夫か⁉︎」


「な、なんとか……!」


 そうはいっても威力が威力。防御体勢が追いつかずにもろに食らってしまったせいでかなりのダメージが入ってしまった。

 やはり、『滅び』は普通の魔物を相手にすることとはまるで違う。その証拠に、まだ足がガクガク震えているのだから……。


「とにかく攻撃を浴びせろ! なんとしてでも力を削いで攻撃の威力を弱めるんだ!」


 レシスの言う通り、今はそれしか出来ない。

 動けない敵、攻撃手段は威力が高いとはいっても特に小細工もない衝撃波。こちらが敵の裏をかけるような状況でもない今、とにかく攻撃して敵の体力を削る他ない。

 ガーディアンのように生き物に近い反応さえ見れないのが逆に不気味ではあるけど、迷っている暇はない。私は剣を振り上げ、詠唱を開始する。


「『セインレイ』!」


 一番使い慣れている光弾術。威力こそ低いけど、連発が利くのが強みでもある魔法。

 それに相手は逃げることが出来ない結晶。狙いが正確ならば全弾当てることが出来る。威力が低くても、数を重ねればそれなりのダメージになる筈……!


 予想通り、ドカン! と派手な音を立てて結晶の周囲が爆発する。コアもたまらないとばかりに跳ね上がった。

 やった……! 思わず顔がほころんだ。

 だけど、それが駄目だった。目の前のことに集中しきっていた私には、背後からにじり寄っていた気配に気づかなかったから。


「……ッ‼︎ ルージュ、後ろだ!」


「え────」


 ルーザが叫んだけれど、もう遅かった。

 振り向く前にその気配は鋭い針と化し。そして、



 ────私の脇腹を貫いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『第九十一話 散華に狂わすナイトメア(2)』まで拝読しました。 信頼し合い、助け合える仲間がいるということはいいですね。 今後ルージュの表と裏の意思の疎通ができるようになるのか気になりま…
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