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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第8章 起点に立つ刻-Restart-
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第89話 水晶は静かに赤く光る(1)

 

 ルージュ達の部活体験を終えた帰り道、オレらは再び7人で集まって帰路を共にしていた。

 イアは久々にバスケやらサッカーやらの団体競技を楽しみ、エメラは料理部にて菓子を作っては部員達と味見し合ったようで満足気。そしてオレとルージュ、おまけにオスクは模擬戦で本物の武器は使わないものの、ようやくちゃんとした形式で手合わせができた。結局、3人でそれぞれ一本ずつ取って、決着自体は着かなかったのだが。


「あー、楽しかった!」


「向こうにもあれば最高なんだがな〜」


 ……と、エメラとイアは嬉しそうに話す反面、光の世界の学校に部活がないのが心残りらしい。

 確かに、部活がなきゃ帰るしかない。あの学校があるのは王都の外れ、寄り道しようにも家からは確実に迂回しなきゃいけない点が面倒だ。しかもいくら他学年との交流も隔たりなく出来るとはいえ、共通の趣味で触れ合えないのは寂しい気がする。


 生徒が少ないといっても、あの扱いは不憫ふびんすぎる。しかも貴族は潰せとほざくわ、廃校になりかけるわで現状最悪だ。

 どこかで貴族を見返して、周りの好評価を勝ち取れればいいんだが……。


「向こうに部活がないのは寂しいけど、私も楽しかったよ。ありがとう、ルーザ」


「ああ。ようやくまともな手合わせが出来たしな」


「それはいいけど、なんで僕からは武器取り上げんのさ。別に模擬剣っしょ?」


「お前が本気出すと天井に穴空けかねないだろ。魔法で充分じゃねえか」


 模擬戦だから当然使うのは模擬剣などのなまくら。オスクは実際の戦いでは大剣自体を振るってでの物理攻撃をするのは少ないが、刃に魔力を込めて威力を上げるなどの大剣を媒介してでの魔法も多い。

 それを知っていたオレは余計な被害が出ないようにオスクに模擬剣使用禁止を言い渡したんだ。だからオスクは丸腰同然だったのだが……そこは大精霊。武器がなくともちゃんと戦えていた。


「でも、おかげで普段の調子が出せなくて満足してないんだけど。どうしてくれんのさ」


「……お前、レシス関係のうっぷんをオレにぶつける気だっただろ」


「それが分かってるんならストレス発散用のサンドバッグくらいになってくれたっていいっしょ?」


「よくねえよ!」


「はいはい、ケンカしないの」


 言い合いになりかけたところでルージュに止められる。

 最近見慣れた光景になってきたルージュの仲裁。こういうところを見ると実姉らしい対応だ。実際、クリスタの時も執務のことについて叱ったりと、クリスタよりもしっかりしている気がするが。


「なんだかルージュ、お姉さんっぽくなった?」


「なっても嬉しくないよ……。今みたいな小競り合い止めるだけだし、いつになったら小競り合いが収まるの?」


「さあ? このちんちくりんと鬼畜精霊が面倒事押し付けなければ……いって⁉︎」


「次、ちんちくりんっていったらシバくぞ」


「もう殴ってんじゃん……いてて」


 顔をしかめながら、オレが殴った腹部をさするオスク。不満気ながらも、とりあえず言い争いが終息。オスクはいつも通りの力が出しきれずに満足とはいかないようだが少しは楽しめたようだし、他の3人も普通の学校生活らしいことがやれて充分満喫できた様子だ。

 あと少しで学校も冬休みに入ってしまうし、この機会に案内を一通り済ませられたのは幸いだった。オレもフリードもドラクも、良かったと顔を見合わせて笑い合う。


 さて……これでこっちの学校のほとんどは案内し終わった。ルージュが気になっていた旧校舎はともかくとして、これで学校にこっちの慣れるという目的はほとんど達成だ。

 これなら後は光の世界と影の世界の学校を受けたい授業に合わせて行ったり来たりもできる。だからこの7人で集まって同じ学校へ行くというのも、今年はこれで最後になるかもしれない。

 集まれないのは寂しいところもあるが、会えないというわけじゃない。放課後に顔を合わせればいいだけだ。


「でも、今度はフェリアス王国に行くんだよね? そう考えたら、少し離れることになってもあまり気にならないかな」


「そうだな。また全員で冒険に行けるんだし」


 ドラクの言葉にイアも頷く。

 ルージュが見つけてくれた次なる大精霊────ベアトリクス。精霊の王国であるフェリアス王国を統治する、精霊王とも称される風の大精霊。

 ゴッドセプターの封印を解くためのエレメントは次で5つ目。エレメントを譲り受けるべき大精霊は、全部で9人……次でようやく半分を切れるんだ。


 ただ、その前に夢の世界の『滅び』をなんとかしないといけないという役目が待っている。シノノメ公国での『滅び』に攫われたらしい、モミジの商売仲間も。まだシルヴァートやカグヤからも、特に進展したという報告は無かった。


「あの、夢の世界に僕達は行けないんですか? できたら力になりたいんですが……」


「精々2、3人が限度らしい。しかも本来は現実の生き物が直接入っちゃいけない場所だし、世界が不安定な今はあまり大人数で入ると何が起こるかわからないらしくてな」


「そうなんですか……」


 フリードの気持ちは嬉しいんだが、現状無理があるらしい。

 というのも、レシスとライヤは意思体だから別にそのまま入っても問題ないが、オレらは意識だけ夢の世界に飛ばされる。だから万が一、世界が異物が入ることを拒んで押し出されたりしたら、永遠に出てこれないリスクも伴うそうで。

 レシスもオレと分離しているおかげで完全体じゃない。今の力では、世界が不具合を起こさない程度に抑えられるのは元々入ることに成功していたオレとルージュ、それで追加としてオスクだけで限界のようだ。


「手伝えねえのはやるせないところあるけど、それなら仕方ないな」


「うん。3人とも、頑張ってね!」


「もちろん!」


「お前らに心配されるほど弱くないんだけど。ま、気持ちは受け取っておいてやるよ」


 イアもドラクも、エメラとフリードもと4人がそれぞれのエールを送ってくれた。

 夢の世界に蔓延る『滅び』に一緒に立ち向かえないのは残念だが、これからのためにも必ず4人に「勝った」という報告をしたい。まだ乗り込むまでには余裕がある、今の内にしっかり準備を整えておこう。

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