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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第8章 起点に立つ刻-Restart-
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第86話 廃れ濁り、やがて淡く(2)


『……とりあえず、やることはやったし、この話は一旦仕舞いだ。まだ話しておきたいことがあるからな』


 ……と、オスクの言い争いを強引に終わらせて、レシスは次の話を切り出す。

 その後ろから恨めしそうにオスクが睨んでいるのだが、レシスはそれに全く動じることなくスルー。そして開き直ったように、それでも確かな緊張感を含ませながら話を始めた。


『こっちの問題が片付いた今、夢の世界のことをなんとかしなきゃならない。もう被害が出ている以上、そっちが最優先だ』


 当然というべきか、レシスから持ちかけられた話は夢の世界に侵攻している『滅び』のことについてだった。

 元凶であろう黒の結晶はまだ見つかっていないが、侵されて暴れ狂う『悪夢』が何よりの証拠。なんとかライヤとオレで『悪夢』自体は片付けたが、戦力不足と真実を伝えられたことでドタバタしていたことも伴って、今の今まで保留にしていたんだ。


「結晶を見つける手立てあるの?」


『あると言えばありますよ。ルヴェルザの力で地下から『滅び』の奔流を辿って、元は夢の世界のコアがある場所を見るんです』


 ライヤそう言われて、オレは懐から夢の世界のコアであるあの宝石を取り出す。

 オレの手のひらほどの大きさで、赤く、美しく輝くその宝石。キラキラと窓から差し込む日光を反射してオレの手の中を照らし出す。

 ……が、心なしか以前より少々小さくなっている気がする。これは本気でヤバいのかもしれない。


「それがコアねぇ……。僕にはただの石ころにしか見えないんだけど」


「そういうなよ。これでも力は確かなんだ」


『暴れる『悪夢』は片付けて、世界を制御するためのコアが手元にあっても油断できませんよね……』


「ああ。そもそも『滅び』自体、気の抜けない敵だからな」


 未だその実態が掴めない、諍いの象徴であり、形のない災厄────『滅び』。まだ一部ではあるが、これだけ確かな被害を出しているにも関わらず、これまであってきた大精霊達でさえその本質を把握しきれていないモノ。

 これまで何度かあの黒の結晶とそれを守るガーディアンらを倒してきたが、『滅び』がなんなのかというのはさっぱりだった。

 その正体はこれから掴んでいくしかない。……それがこれからの大きな課題だ。


『なるべく早く片付けたいとこだが、ルージュの身体もあるし、少し日を置く。あと、この件はオスクにも付き合ってもらう。言っておくが、拒否権はないからな』


「はいはい、わかってますよ〜っと」


 ライヤが夢の世界を出たことで結界も無効化され、それによって行き来が可能になったことでオスクも今度は夢の世界に行くようだ。オスクがいるのは戦力も増えるし、頼もしくある。こんなでも頼りになることは確かだ。

 ……あ、そういや、結界のことで一つ気になることがあったんだ。


「結界が張られていて今まで夢の世界には介入しようとおもってもできなかったんだろ。それなのになんでオレは不定期とはいえ入ることができてたんだ?」


「あ、そういえば……」


 今まで他のことに気を取られすぎてすっかり忘れていた。

 完全不定期、空白期間もまちまちで、単なる偶然と思っていたが、よく考えてみればおかしな話だ。元は大精霊とはいえ、妖精に落ちぶれたオレだって行ける筈ないのに。


『ああ、それか。夢の世界の道しるべを探すために隙を見つけて、オレが呼び出したんだ』


「……はあ⁉︎」


 つまり……オレが夢の世界に行けたのは全部レシスの仕業だったということか。

 ルージュの記憶の世界といい、オスクの裏の行動といい、どれだけオレらの周囲をいじくりまわしてんだ、こいつは。


『勝手に利用して悪かったとは思ってる。だがお前の身体にある、僅かに残ったオレの残存魔力を辿らなきゃ、辿り着くのにあと数十年はかかった筈だ』


「……それは」


『お前の方が成功したから、試しにルジェリアも記憶の世界に呼び寄せてみようとしたんだが、代わりに肉体であるルージュを引き寄せちまってな。だが、そんな偶然とはいえオレ一人でも限界があったから、ルージュに手伝ってもらおうと思ったんだ』


 レシスは気まずそうに頭をかく。

 ……確かに、巻き込まれたといえばそうだ。でも、記憶の世界につながる歪みを見つけるのはとんでもない低さの確率からだと言っていたし、オレを夢の世界に呼び寄せたのも迷った末に出した苦肉の策だったのかもしれない。

 ルージュも同じ。偶然だが、実の姉の肉体とわかった時は安心したのだろう。記憶は失っても唯一の家族だ、それで協力を頼んだに違いない。


『許しを乞う、なんて無様なことはしねえよ。殴りたきゃ殴ればいいさ』


「……」


 ……卑怯なやり方だ。どうせ、できないとわかってる癖に。

 それでもちょっとした仕返しがてら、オレは光弾を飛ばしてレシスの額にぶつけた。


『……っ』


「これでおあいこだ。その代わり、今後一切隠し事は無し。こっちが協力を求めたら拒否権も認めない」


『……ふん。わかった、約束する』


 レシスは納得したのか、ふっと笑ってみせる。オレも同じように口角を持ち上げた。


『よ、良かったです……! てっきりケンカになってしまうんじゃないかと思いました』


「まあ、同じ『ルヴェルザ』だし、それはないんじゃないかな」


 ルージュもそういいながら、ふふっと笑みをこぼした。同じだからと、オレが殴りはしないという結果もわかっていたのだろう。


「まったく……こっちは全然納得してないんだけど。いつまで僕をこき使えば気が済むのさ」


『言ったろ? 「支配者アイツ」に吠え面かかせる、最後までってな』


「くっそ……嫌な奴に借りを作っちゃったよ、全く」


 オスクはそう文句を言いつつも、なんだかんだで逃げようとする気は全くないようでそういった素振りは一切見せなかった。現実主義なところも考えものだ。だがそうだからこそ、かつて(レシス)(オレ)もこの闇の大精霊に背中を預けようと思わせたのだろうが。

 ……まだオレには『滅び』のことも、『支配者」のこともよくわからない。そんなぐらぐらのオレを支えてくれるのはオスクしかいないと思っていた。


「『支配者』ねえ……。結局何なんだよ。いくら裏の人格やら、記憶やらの原因でも、そいつの言い分も聞くぐらいはいいんじゃないのか?」


『あ。言い忘れてたが、お前にふざけた体質くっつけたのも「支配者アイツ」だぞ』


「……気が変わった。ぶっ殺す」


『変わり身早すぎません⁉︎』


「うるさい‼︎ どれだけこっちが苦労したと思ってんだ!」


 気が立っていたオレはライヤに怒鳴り返す。

 まさかオレの体質まで『支配者』の仕業だったとは。あのやろ……今に覚えてろ……!


 オレが怒りに燃えている間、事情が気になったらしいライヤはルージュにこそっと耳打ち。


『あの……ルーザさんの体質ってそんなに酷いんですか?』


「ブランコ10秒くらいでも気分悪くなっちゃうらしいの。本人もその点はかなり気にしてるから、オスクには言わないであげて」


『は、はい……』


 なんて、まだ状況が把握しきれてないライヤはとりあえず頷く形で了承。


 不安と課題は山積みだが、体質の原因を知ったオレには今はどうでもいいくらい、『支配者』への怒りに駆られていた……。

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